表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
1244/2685

快楽の街、その79~黒い鷹の不安①~

***


「ぐ・・・む。はっ!?」

「いよぅ、起きたかい?」


 ゲルゲダはベッドの上で目を覚ました。朦朧としたその視界に、あまり親しみのわかない顔が見えた。一番隊の隊長、マックスである。ゲルゲダは誰かを理解すると、さっそく悪態をついた。


「ち・・・寝起きに見る顔がてめぇとはな。最悪の寝起きだ」

「そう邪険にするなよ。誰がお前を介抱してやったと?」

「頼んでねぇよ」


 ゲルゲダは自分の武器と衣類が傍に置いてあるのを確認すると、いち早くそれらを身に着けた。武器を外されても気付かないとは、死んだも同然だ。いかに仲間に助けられたといえど、それで喜べるほどおめでたい頭の中身ではなかった。

 ゲルゲダは一通り武器を身につけると、その場にあった酒を瓶ごと一気に煽った。マックスが呆れ顔でそれを見守る。


「その酒、高いんだが」

「知るか、奪われる方が悪い。で、なんでこんなところにいるんだ?」

「おいおい、お前はまだボケてんのか? それとも、本当に馬鹿になっちまったのか?」


 マックスの挑発ともとれる言葉だが、すぐにゲルゲダは意図を理解した。


「俺を監視していたのか。ヴァルサスか?」

「そういうことだ。断っておくが、お前を信用していないわけじゃない。むしろお前が本気で動く時は独りになることを知っているのさ、ヴァルサスは。だから万一を考えて、俺に後備あとぞなえを頼んできた。それだけヤバイ状況なのかもしれないってな」

「だがなぜ気付いた? 俺があの女を追っていることは、誰にも言っていないはずだが」

「怪しんでいるのがお前だけだと思うな? 俺たちも――」


 その時、窓がコンコンと鳴らされた。どうやらマックスの仲間ラバーズが外にいるらしい。今のが警戒を促す合図なのか、マックスは指で静かにするように合図すると、ほどなくして階段を上がる音が聞こえ、部屋にファンデーヌが入ってきた。


「ゲルゲダ、無事だったのね? あら、マックスも」

「・・・ああ」


 ゲルゲダはどのように返事をしたものかとあえて素っ気ない返事をしたが、ファンデーヌはそんなゲルゲダの態度など気にもかけず、またマックスの存在にも驚かず、甘えるような声でゲルゲダに話しかけたのだ。


「良かったわ。あれから私は少し用事があったのだけど、あなたを探しに宿に戻ったら、姿が見えないので心配しちゃって。見つかってよかったわ」

「どうやって見つけた?」

「匂いを辿ればすぐよ。私が魔獣使いなのを忘れていないかしら」

「ああ、すまんが・・・宿?」


 マックスの指摘に、ファンデーヌが微笑む。


「野暮ね、マックス。そういうことよ」

「ああ~なるほどね。趣味が悪いね、ファンデーヌさんも」

「おい、馬鹿にしてんのか?」


 マックスは一つ茶化した後で、手を叩いていた。しかし、顔は全く笑っていない。


「だが団内の恋愛は自由だ。好きにやってくれて構わんがね」

「おい、テメェ。マジで怒るぞ?」

「怒るのは構わんがね、ファンデーヌ。俺がここに来た意味を考えてほしいんだ。この街で何をしていたのか、正直に答えてほしいものだな?」


 マックスが椅子から身を乗り出すようにし、同時に声が凄味を帯びた。そして外から伝わる殺気。マックスの配下、4人のラバーズと呼ばれる暗殺者たちが部屋を囲んでいるのは明白だった。マックスはファンデーヌを必要に応じて尋問、あるいは拷問する気でいた。だがさすがにブラックホークの隊長を任されるだけあって、ファンデーヌもこの程度でひきさがりはしない。あくまで毅然として、彼女はマックスに対峙していた。


「依頼よ。それだけだわ」

「誰の依頼だ?」

「それは傭兵の流儀にかけて、話せないことではなくて?」

「今回だけは例外だ。お前、まずい立場なのをわかっているか?」


 マックスの言葉に、ふぅ、と一つため息をついたファンデーヌ。表情が仕方ないと言わんばかりに、全てを物語っていた。


「――ヤトリよ」

「ヤトリ? あの勇者ゼムス一行の、商人ヤトリか?」

「そう。そして大陸で五指に入ると言われるヤトリ紹介の元締めね。その前に、あなたたちは私のブラックホークでの役割をご存じかしら?」

「ブラックホークでの役割、だと?」


 ファンデーヌは頷いた。


「私はその戦い方の性質上、人間を仲間としないわ。人間が仲間だと巻き込みかねませんからね。だから単独で動く分、融通がきくこともある。私の役割は広報活動。主に依頼の新規開拓を行うのが私の仕事よ」

「新規開拓?」

「そう、私たちが大口で受ける依頼の安全性を調べる役目。あなたたちが金庫番、汚れ役をそれぞれ担っているように、私にもその役割がある。

 私の今回の目標は商人ヤトリを調べること。彼が勇者ゼムスの仲間であることも、勇者ゼムスが決して清廉潔白な人物でないことも、あなたたちは知っているわね?」

「そりゃあ有名な話だからな。だからなんだ?」

「ゼムスを始末するわ。そのための布石よ」


 ファンデーヌの言葉に、ゲルゲダとマックスが視線を合わせた。



続く

次回投稿は、4/19(火)11:00です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ