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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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快楽の街、その69~ターラムでの闘技場にて⑤~

 バンドラスは続ける。


「この前儂たちでカラミティのとやらの拠点を一つ潰したのだが、奴の部下が勢揃いしていた。あの程度なら儂だけでやってもよかったが、面倒だったのでヤトリを呼び出したら、部下まで連れてきてな。あんなに頭数がいるということは、何かやらかすつもりでここにきているということだ。そうでなければ、あれほど戦闘に特化した連中を連れてきておらん」

「勘繰り過ぎではないのか? 奴は臆病で慎重だ。取り巻きにはそれなりの人数をいつも揃えているだろう」

「杞憂ならそれでいいさ。だがヤトリとの付き合いは、お前よりも長い。奴の性格はお前よりも知っているつもりだ。

 だが儂たちがいかに自由にやってよいと言われていても、これだけ大陸の緊張感が高まっている時にこれはまずかろう。アルネリアの連中は、各地で完全に戦闘態勢に入っている。いかに我々が強かろうが、アルネリアをわざわざ刺激して敵に回すことはあるまいて。そうなったら儂は抜けるぞ? ただでさえ盗賊なんてしているから、敵が多くてかなわんのだ。金も女も、命あってのものだねじゃからな」

「私もアルネリアを敵に回すつもりはないよ。だが彼らと積極的につながりを持つ気もないな。だから彼らの依頼は断りつつも、魔王を狩るという依頼をこなしている。それだけやっていれば文句は言われないだろうし、彼らとしても我々とはあまり関わりたくはないだろうからな。今は程よい距離感を保っているだろう」

「それは、お前の裏の顔を知っているということか?」

「エネーマが仲間にいるというだけで十分胡散臭いさ。彼女は巡礼という組織の裏の裏まで知っている人材だ。むしろ消されていないのが不思議なくらいだ」

「ああ――そうか、そうだったな」


 バンドラスは納得して席を立った。どうやら闘技自体にはさほど興味がないらしい。


「見ていかないのか?」

「闘技は見飽きておるよ。リリアムは面白いが、我々に迫るほどではあるまい? 特性持ちでなくとも我々と戦えるのなら、それは見てもよいかもしれんがな。こんな木剣の戦いなど、所詮遊戯よ。真剣で戦わねば、真実はわかりはせん」

「俺の勘が告げているぞ。この戦い、面白い結末になるとな」

「ならばお前が見ておくとよい。儂の勘では、裏の方が面白そうでな。そちらに行くとするわい。それと、ダートとアナーセスの手綱を握っておけ。奴ら、何か企んでおるぞ。アルネリアにも目を付けられているようだしな」

「いつものことだ、奴らがこそこそするのはな。放っておけ、自分で自分の始末ができんような連中に用はない。死んだとしても、それまでだ」

「仲間意識は皆無か、冷たい奴じゃのう」

「私に本当の意味での仲間はいない、一人もな。これまでも、これからも」

「寂しい奴よ。それも貴様が勇者たるゆえんか」


 バンドラスは困ったように首を傾けると、それ以上は何も言わずにその場を後にした。今更ゼムスの性格は変わらないし、そのような男だと知ったうえで手を組んでいるのである。自分とて、利用価値がなくなればゼムスと手を切るだろう。勇者の一行といえど、自分たちは強すぎて互いに助け合う必要もないから、仲間意識も生まれなかった。それぞれが自分の理由で、関係性を結んでいるだけ。冷たい関係だとは思うが、それで十分だったのだ。

 そしてゼムスはじっと闘技のなりゆきを見つめるのだった。そこに気になる何があるのか、ゼムスですらそれはよくわかっていなかったのだが。


***


 再びイェーガーの控室。気分よくエメラルドが歌い、盛り上がりきった会場を前に、再度エルシアは緊張の極地に達していた。何人かが見かねて声をかけるが、それすらも耳に全く届いていないようだった。何を聞いても生返事しかしない。

 さすがにまずいかとアルフィリースが心配になった時、意外な人物がここに顔を出したのだった。


「エルシア」

「・・・レイヤー?」


 エルシアも意外な顔にきょとんとした。さっきまでここにレイヤーはいなかったはずである。朝声をかけた時も、興味がないからとここには来ていなかったのだ。それが今になって顔を出すとは。

 実はレイヤーはアルフィリースに命じられて、ルナティカと共に闘技場の視察に出ていた。誰かが怪しい動きをしそうな場合、彼らが対処することになっていた。実際にリリアムが搦め手を使ってくるとは考えてはいなかったのだが、リリアム以外がどう考えているかはわかったものではない。アルフィリースが陽の高いうちに色々な有力者のところに顔を出して感じたのは、ターラムは一枚岩ではないということ。リリアムがどう考えようと、彼女の意に反した行動をする者はいるだろう。

 だからこそ強く感じたこともある。これだけ様々な人間の思惑がありながら、都市として一つの方向性を保てるのは、間違いなく誰か絶対的な意思の元に統一されていると。

 そんなことを考えているとは実はアルフィリース以外の誰も知らないのだが、それはレイヤーにもエルシアにも関係のないことだった。レイヤーはいつものように、無表情で興味なさそうにではなく、やや心配そうにエルシアに話しかけていた。


「大丈夫? 試合に出るって聞いたから」

「緊張しているって言いたいの? ふ、ふん――誰が緊張なんか!」

「いや、そうじゃなくって。こんな場所で戦うのは、そもそも荷が重いんじゃないかってこと。今からでも遅くないよ、団長に言って辞退しなよ」

「な、な、なんですって!?」


 エルシアは青い顔から一転、顔を真っ赤にして怒り始めた。


「私に荷が重いですってぇ!?」

「だって、入団してから一年程度のエルシアと、相手は百戦錬磨の闘技者でしょう? 誰がどう考えても荷が重いよ。元々選ばれるはずがないんだから、ちゃんと団長に言わないと。何かの間違いだから、外してくださいって」

「間違いじゃないわよ! 私が戦うのよ!」


 エルシアの怒りの大声に、近くにいた団員たちは耳を塞いでいた。レイヤーも耳を塞ぎながら、冷静に問いかける。


「なら、勝つための作戦でもあるの?」

「作戦ですって? ・・・これから考える」

「・・・本当に大丈夫? この勝負、確か安全を考えて点数制だよね? そんなんで10本もとれるのかなぁ」

「うるさいわね! ちょっと待ちなさい・・・点数制?」

「そうだよ、聞いていないの?」


 エルシアは少し悩んだ後、アルフィリースに問いかけた。


「団長、点数制ってどういうこと?」

「私の話、聞いてなかったの? 勝負の条件は相互に提示できてね。一試合目は相手の条件で戦ったから、今度は私が提示したのよ。安全を考えて、点数制にしてってね。試合は十点先取、体の前に有効な一撃を当てると1点、顔面はマイナス1点、背面に当てれば3点よ」

「なるほど・・・1点ごとに試合は中断されるの?」

「いいえ、中断はないわ。だから連続攻撃をされると、一気に決まってしまう可能性もあるわね」

「そうか。持ち込める武器は一つだけ?」

「いえ、制限はないはずよ」

「なら確認しておきたいことは・・・審判の技量か」


 エルシアの引き締まった表情を見て、アルフィリースはにこりと微笑みかけた。


「何か作戦が?」

「あるわ。エメラルドと同じ武器と、あとは・・・レイヤー、一つ頼まれてくれる?」

「何なりと」

「集めてきてほしい物があるの。こんなやつをね」


 エルシアはその場に飾ってあった装飾品の一つを指さすと、レイヤーに指示した。するとレイヤーもその意図を察したのか、すぐに頷いたのである。その時のエルシアの表情は非常に集中しており、とりあえずアルフィリースは一安心した。そしてレイヤーが一度部屋を出て行き際、アルフィリースに向けて薄く笑みをこぼしていった。

 アルフィリースはその笑みの意図を察し、わざわざここに来てくれたレイヤーに、内心で礼を言った。



続く

次回投稿は、3/30(水)12:00です。

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