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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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快楽の街、その63~追い詰める者、追い詰められる者⑤~

「大陸に覇を唱えて、どうするのさ」

「決まっているわ。大陸中の人間を生かさず殺さず。永久に楽しめると思わない?」

「少し面白そうだ。だけど、予定外のことがあるから楽しめると言う考え方もある」

「それはそうね。私に従うというのなら、私の王国で遊ばせてあげてもいいわよ?」

「やめておくよ、反抗期なんだ。それにその恰好で言う言葉じゃない。僕は間抜けな虫と組むつもりはないんだよ」

「なんですっ――」


 カラミティが怒る前に、その命はドゥームの悪霊に包まれて散っていった。ドゥームはカラミティが死んだのを確認すると、両手を広げて「こりごりだ」と伝えてきた。


「女のヒステリーって、嫌いなんだよね」

「・・・カラミティまでも敵に回すだと? そのお前の自信の根拠はなんなのだ? 何がお前を変えた?」

「深く、知ること。力を、魔術を、敵を、味方を、そしてこの世界を。それらの形が前よりもよく見えているんだ、僕には。

 そしてもう一つ。僕はオーランゼブルにも匹敵する力をもうすぐ手に入れる」

「ハイエルフの長に匹敵する力だと?」

「『それ以上の力』はまだ手に入りそうにないからね。まずは手に入るところから手に入れるのさ」

「それは何だ?」


 だがここまで得意げに話したドゥームも、答えを語ることはなかった。くすりと笑っただけのその姿が逆に自信にあふれているように見えて、ヒドゥンには不気味に見えたのである。

 そしてドゥームの姿が靄へと変化し始めた。姿を消すつもりなのだろう。


「さようなら、兄弟子様。まだ縁があったら会いましょう」

「待て! まだ聞きたいことが――」

「僕にはないよ、ヒドゥン。それより一瞬でも仲間だったよしみで最後の忠告だ。この街はさっさと離れることだね。カラミティがいなくなれば、リビードゥは誰にも遠慮する必要がなくなる。彼女の存在は、元来目立てば目立つほどその力を発揮する。悪霊なのに難儀なことだけど、悪霊としての位はもはや僕やオシリアにも近い。悪霊の討伐に特別に特化してでもいない限り、彼女に近づくことすら難しいだろう。

 その彼女が、もうじき行動を開始する。もう僕にも止められないだろうし、止めるつもりもない。巻き込まれないうちに離れることだね」

「・・・そうか、ならば私からも忠告だ。お前は自分のことをもっと知ることだ。でなければオーランゼブルに勝つことなどありえない」


 ヒドゥンの不吉な忠告に首を傾げるドゥーム。あまり現実味のある忠告とは思えなかったからだ。


「なにそれ、負け惜しみ?」

「そうではない。もうじきわかることだ、小僧。貴様が死に際に悔しがる様子を、影から眺めていてやろう。楽しみだな」

「ふん、闇の僕と影のヒドゥンか。そのあたりだけは気が合うことを認めてあげるよ」


 その言葉を最後にドゥームは靄となって霧散し、ヒドゥンも影に溶けるようにして消えていった。二人が最後に遺した笑みは、負けず嫌いなのかはたまた本当に目論見があるのか。それを知ることは誰にも適わない。


***


 ブラックホークの5番隊隊長、ゲルゲダはターラムで一人活動していた。常に誰かと徒党を組むゲルゲダには非常に珍しいことだが、実は密かに単独で活動を行う時もある。それは、何かを探る仕事につくとき。今回、彼はファンデーヌの行動を追っていた。

 疑問を抱いたのは、ヴィーゼルの砦カンダートでの仕事の時。ヴァルサスの命令を忠実に実行しないファンデーヌを見て、うさんくささを感じていた。別段ファンデーヌに他意はなかったのかもしれない。魔獣に言うことを聞かせること自体が非常に高度なことだし、そもそも完璧に操れることなどないのかもしれない。理屈は頭ではわかっていても、ゲルゲダの直感が囁いている。あの女は危険だと。

 ゲルゲダはひっそりと行動を開始した。一人、ファンデーヌのあとを追ったのだ。仲間を使えばより確実だったのかもしれないが、それではファンデーヌに動きを悟られる恐れがあった。気配を消すなら、自分一人の方がよいことは明白。それに、こんなに胸が高鳴るのは、ガキの頃好きな女の背後を追いかけた時以来ではあるまいか。その時は結果としてついて行った先で女が男と逢引をしていたため、カッと来たゲルゲダは行為の最中に割って入り、男を顔が変形するほど殴ったうえ、女は犯して去ったのであった。ゲルゲダは苦笑する。


「(誰かに執着するなんざ、らしくねぇんだよな。女が俺に気のある素振りをしてからかってたんだよ。そんなこともわからねぇとは、俺も馬鹿だったな。まあツケを払わせることには成功したわけだが、気分はなぜだか晴れなかったな)」


 ゲルゲダなりの勝手な理由はあったが、今ではこれでよかったのだろうと考える。あのまま一生田畑を耕して暮らすのは性に合わない。職人だった祖父は嫌いではなかったが、あれほど地道な作業に没頭できるとも限らない。命の先行きはわからずとも、緊張感のある暮らしは嫌いではなかった。

 今なら、間諜として自分をどこかの国で活動するのもよかったのではないかと思う。誰も信じず、信じているような振りをしながら両者を手玉にとる。そういった生活は性に合ってそうだ。既にお尋ね者となったその身分では、それも適わないだろうが。

 ゲルゲダはそんなことを考えながら、突然路地裏に飛びこんでいた。百歩以上先を行くはずのファンデーヌが突然振り返ったからだ。特別自分は目が良い方だから早々相手からは見えまいと思っていたゲルゲダだったが、ファンデーヌの行動に肝を冷やしていた。


「気づかれている・・・のか?」


 だがファンデーヌはすぐに再度歩き始めた。どうやら気付かれてはいないらしい。


「気配だけは感じていたのか? まあ、それはありえるな。だが俺とはばれちゃいまい。あれだけ良い女なら、あとをつけられることの一度や二度はあるだろうからな・・・あ?」


 ゲルゲダはそこまで言って、ふとおかしなことに気付いていた。日中のターラムはそれなりに活気がある。中心となる通りではないが、街行く人もそれなりに多い。なのに、誰もファンデーヌに声をかけていない。最初から、その存在に気づいていないかのように。いかに淫猥な空気が息を潜める時間とはいえ、これはターラムではありえなかった。女性と見れば声をかけるのが、ターラムの礼儀とまで言われるほどなのに。

 ゲルゲダは嫌な感じがして、汗が一筋背中をつたうのを禁じ得なかった。



続く

次回投稿は、3/18(金)13:00です。

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