快楽の街、その60~追い詰める者、追い詰められる者②~
「さて、どうしようかな?」
「ものによるがな。私に協力できることなど知れているのかもしれないが」
「いやいや、そんなことはないでしょ。頼りにしているんだから、兄弟子様の事」
「おべっかはいらん。要求を言え」
「そうだなぁ・・・今度のローマンズランドの戦い、どこまで仕込み済みなのか話してほしいな」
ドゥームの言葉に、ヒドゥンが怪訝そうな顔をした。
「どこまで仕込み済みかだと? そんなことはカラミティに聞けばよかろう。奴の分身がローマンズランドに潜入しているのだから」
「ノンノンノン、そうじゃあないんだよ兄弟子様。僕が聞きたいのは、ローマンズランド以外の国に対する仕込みのことさ」
ドゥームの発言にヒドゥンは目を見張った。まさか、そこまで頭が回る相手だとは思っていなかったのだ。確かに、その仕掛けのことはヒドゥン以外は知らないことである。
「どこで気付いた?」
「気づかない方がどうかと思うけど? 戦争って、最低二つの国が戦争に積極的でないと進まないよね? ローマンズランドと、もう一つ必要なはずだよ。戦争が始まっても戦争を相手がやめたり、和平になんかなったら意味ないじゃあないか」
「・・・全部だ」
「はい?」
「大陸の主要国、ほぼ全てに仕掛けが終了している。後は放っておいても戦争がはじまるのだ。もう私もオーランゼブルさえも必要ない。むしろ我々がいないことで、戦争の歯止めが効かなくなるかもしれん。我々の目的は重ねて言うが、この大陸の滅亡ではない。滅亡しても構わんと私は思っているが、オーランゼブルはそうではない。全ては真実の解放のために」
「なるほどねぇ。そうなると必要は適度な犠牲――大陸中を巻き込む戦争で死ぬのが適度とは思えないけど。それなら――ああ、そういうことか。最後の疑問も解けたかな。あとは確証だけ」
「・・・なぜだ?」
ヒドゥンが一歩後ずさりした。ドゥームが目をぱちくりとさせながら、その様子を見ている。
「どうしたのさ、兄弟子様」
「なぜお前に精神束縛が効かない? 鍵となるあの言葉はオーランゼブルでなくとも有効なはずだが。貴様、既に精神束縛を解いているな!?」
ヒドゥンの言葉に、ドゥームが凶悪な笑みを浮かべた。もはやばれてまずいとは微塵も思っていないらしい。
「そうだとしたら、何? まさか僕たちをいつまでもあんなちゃちなもので縛っておけると思っていた? その見込みこそが甘いと言わざるをえないじゃないか?
それにやっぱり兄弟子様――ヒドゥンには精神束縛はかかっていなかったんだねぇ。計画の進行は、そもそもあなたとオーランゼブルで行われたんだろう? さあ、教えておくれよ。オーランゼブルが本当は何を考えているかを!」
「私も詳しいことは知らん。私にはそもそも興味がないし、私は私の目的を果たせれば十分だ。そのために、今度起きる戦争が終われがオーランゼブルに力を貸してもらうことになっているのだから」
「ヒドゥンの目的って、あの吸血種の王様を殺すことかい?」
もはや兄弟子に対する形ばかりの敬意も取り繕おうともせず、ヒドゥンは告げた。だがその言葉に、ヒドゥンは今度こそ驚きで言葉をなくしていた。
「なぜそれを・・・」
「知る方法はいくらでもあるよ、ヒドゥン。いや、それよりも僕たちがオーランゼブルに集められた理由がなんとなくわかってきたよ。あいつは、僕たちをまとめて始末するつもりなのさ。もしオーランゼブルの目的がこの大陸のためというのなら、僕たちは明らかに邪魔だ。なぜなら、僕たちはそれぞれがこの大陸に害を成す――あるいはそのつもりがなくとも、大陸を滅ぼしかねない力の持ち主だ。自分の駒として使用するばかりじゃない、その行動を監視し、能力を把握し、いずれは始末するつもりだった。相討ちなら余計によかったのかもねぇ。
だがヒドゥンは――放っておいても勝手に自滅すると思われたんじゃないかな? だって、彼に楯突いて勝てるとは万一にも思われていないよ。強すぎるけど我欲がほとんどないがゆえに、一定の領地に互いに侵入しないことを条件に、その存在をなかったことにされた者の一人。アルネリアでさえ、その存在に一目置かざるを得ない本当の強者なんだからね。生き延びた大魔王の一人でもあるんだっけ?
そんなのに因縁があるなんて、苦労するねヒドゥンも」
ドゥームは勝手に頷きながら納得していたが、ヒドゥンの口から恨みの言葉が漏れた。それはドゥームを信用したとか、あるいは追い詰められた類の行動ではなく、恨みのあまり思わず口を突いて出た――そんな唸るように絞り出した言葉だった。
続く
次回投稿は、3/12(土)13:00です。