表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
1223/2685

快楽の街、その58~不吉の予兆②~

「ジェイク、どこへ?」

「気になることがある。ちょっと外に出てくる」

「まだ厳戒態勢のままでは?」

「直接命令がないときはある程度自由に動いていいことになっているんだ。どうしても気になることがあって」

「ならば私も行きましょう」

「いいの? アルフィリースにのところに戻らなくて」

「私もある程度の自由を与えられています。それに仕事も既に済ませてあります。夕方までは戻らなくても、さしたる用事もありませんので」

「そう。なら買い出しのついでってことで」


 ジェイクがしれっと他の騎士に嘘をついて外に出たので、リサは軽く吹き出していた。そのまま腕を組んでまるでデート気分で出かけるリサ。ジェイクは最初照れていたが、リサにさせるに任せた。今は騎士として活動する時間だが、次はいつこんな時間が持てるかわからないからだ。ジェイクとて、リサとの時間を大切に考えていないわけではない。

 ジェイクは街に出るとまずは本能のままに歩いた。ジェイクもおぼろげだが、自分の能力がどんなものかを理解し始めている。能力がどういうものかは正確にはわからないが、特に戦場では力が強まる気がする。ジェイクの感じ方だと、「違和感」や「嫌な感じ」として危機が察知されるのだ。戦場では一流の戦士は気配で危機を察知するというが、ジェイクのそれは精度が異常だ。なぜなら、ほぼ間違いなく危険を察知することができるからだ。度重なる任務でそれが自分の身を救ったことなど、何度あるかわからない。

 ただ厄介なのは、意図して使おうとすると途端に精度が悪くなることである。ジェイクは自分の能力を使いこなそうと躍起になったが、もがくほどに力は遠ざかる気がした。また、彼に力の使い方を指導をできる人間も存在しない。ジェイクは自分の備わる能力の鍛錬を、一時中止した。得体のしれない力について悩むよりも、騎士としての力を上げる方が優先だと考えたからだ。

 だがこの街に来てからは、ジェイクは嫌でも自分の力を意識せざるをえなかった。そこらじゅうに感じる違和感。それらの全てが嫌なものではなかったが、この街ほどおかしな場所をジェイクは知らない。大通りはさておき、裏通りなど違和感が多すぎて歩けたものではない。それらのほとんどは密かに仕掛けられた魔術的な何かだとわかってはいるが、それでもここまで意識させられると疲れてしまう。むしろ、それだけ違和感を感じる場所で普通の人も生活できているのが、ジェイクには不思議でならなかった。


「(直接的な危険は実際にはないのかもしれない。あるいは、全て意図して作ってあるならってとこか。まさかね。こんな膨大な数の違和感、百年やそこらで作れるものじゃない。だだっ広い荒野に落とし穴を作って回るようなものだ。相当な根気と手間がかかるだろうけど、一体何のために?)」


 ジェイクは違和感を探しながら、それらが強い方へ、より嫌な感じがする方へと足を向けていった。そうして歩くこと半刻にもならないとき、リサの足が突如として止まっていた。


「リサ?」

「ジェイク・・・ここはどこですか? まだターラムの街ですか?」

「そのはずだけど・・・」


 ジェイクもほとんど無意識で歩いていたので、目印などは覚えていない。だがさすがに街の外に出れば気付くと思うのだが。事実周囲には建物が広がっているが、寂れた場所だった。いや、寂れさせられたのか。ターラムでは日が昇ってしばらくは一番人気がないとはいえ、これは異常なほどに人が少なかった。


「・・・妙な場所に来たね。相当寂しい場所だ」

「撤退することをお勧めします。これは人がいてよい場所ではありません」

「どういう意味?」

「大きな蜘蛛の巣に飛びこんだ蝶が私たち――と言えばわかりますか?」


 ジェイクはそう言われて空を見上げた。いつの間に路地は細くなり、建物の間には洗濯物を干すためであろう縄が無数にかけられている。なるほど、言われてみればそれは蜘蛛の巣を連想させるものだ。それに、洗濯物が乾くどころか、年数が経ちすぎてぼろきれのようになっている。蜘蛛の巣にかかった獲物の残骸のようにそれは見えなくもない。ジェイクも背筋がぞくりとした。


「・・・すぐに出た方がいいかい?」

「調査をするなら頭数を揃えるべきです。まだここは入り口でしょう。奥にどのくらい続いているのかもわかりませし、蜘蛛がいるとしてまだこちらに気付いていないと思います。この手の罠は気づかれると、逃げられなくなるかと」

「そうだね。まずはマルドゥーク隊長に報告しよう」


 ジェイクはあっさりと引っ込んだ。リサを連れて余計な戦闘はしたくないし、この建物の狭さでは、囲まれると逃げようがなくなるからだ。

 ジェイクはその場所を後にするとき、ふと同じような感覚に覚えがあるような気がした。と、同時に鼻をつく異臭を感じる。ジェイクにはそれが何かわからなかったが、それは女を抱いた後に特有の、えたような匂いだった。



続く

次回投稿は、3/8(火)13:00です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ