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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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快楽の街、その46~黄金の一夜③~

「相当酔っていらっしゃるようで・・・困りましたね。我々としては、上手くおもてなしできているということなのでしょうが」

「ところで、ふぉるみねぇーはどこにいるほ?」

「そのフォルミネー様がお呼びなのですが、さて、どうしたものですか」


 ルヴェールはしばし悩んでいたが、このままにしておくわけにもいかないだろうと、人手を使ってアルフィリースをフォルミネーの所に運び始めた。アルフィリースはもはや正体不明であったが、なんとなく揺られて気持ち悪くなったのだけは覚えている。

 その後アルフィリースは椅子に寝かされると、近くで誰かが話しているのがおぼろげに聞こえてきた。


「団長殿は・・・悪酔い・・・」

「依頼は・・・ますか?」

「まずは酔い覚ましを・・・」

「・・・準備・・・」


 そこまでの会話で何人かが部屋から出て行くのが聞こえていた。そしてフォルミネーが振り返ると、そこには鷹揚にソファーに腰かけるアルフィリースがいたのである。これにはフォルミネーも驚き、思わず動きを止めてしまった。


「団長殿? 起きていらっしゃたので?」

「いいえ? 今酔いを醒ましてもらったのよ」

「?」

「こっちの話よ」


 アルフィリースは一時的にポルスカヤと交代することで、酔いを醒ましていた。ポルスカヤの魔術で酔いを醒まし、元に戻ったのだ。何のことはない、いつでもできた方法である。だが、まだフォルミネーの意図が読めないため、このような方法でも二人きりになることを選択しただけだった。

 フォルミネーは数瞬驚いたが、すぐに平静に戻ってアルフィリースに優雅に話しかけた。


「そう、なら話が早くなりましたわ。わたくしがお待たせしてしまいましたので、そのお詫びにと思いまして、私の部屋に招待させていただきました。中々ここまでお客様を招くことはありませんのよ?」

「う・・・その・・・使用料はまさか・・・」

「1億ペント」


 アルフィリースが驚きのあまり後ろにこけそうになったので、フォルミネーも思わず笑っていた。


「というのは冗談です。ある時の競りで熱中した方二人がいらっしゃって。その時の馬鹿げた値上げ合戦のせいでそんな噂になったのですわ。競りは有効になっておりませんのにね」

「そ、そうなんだ。で、実際にはいくらなの?」

「常識の範囲内です。この館を丸ごと一晩貸し切っても、せいぜい500万ペンドですわ」


 アルフィリースは思わず息を飲んだ。十分にアルフィリースにとって手の届かない金額だからだ。ちなみに、贅沢をしなければ月に100ペントもあれば暮らしていけるし、一般的な町人の収入は、月300から500ペントくらいの時代である。いかに常識外の金額かがわかるだろう。

 どうやら金額の話をするだけ無駄かもしれないと、アルフィリースは思い直した。


「・・・で、その高名なフォルミネーさんが直接もてなしてくれるわけね?」

「ええ、そうしたいと思っています。でも、貴女もそうしたかったのでしょう?」


 全てを見透かしたかのようなフォルミネーの語り掛けに、アルフィリースは警戒心を上げていた。


「どうしてそう思うの?」

「私、取り立てて特技もない女ですが、人を見る目には職業柄自信があります。貴女の傭兵団設立に関してはある程度情報を持ち合わせていますが、貴女のような人間が、大人しくアルネリアの言いなりになっているとは思いません。 

 早々に借りを返して、自分の思うように団を運営したい。少なくともそう思っているはずです。違いますか?」

「さあ、どうかしらね? でも、借りを作るのは嫌いだけどね」

「腹を割って話しませんか? 貴女は、どうしたいのですか? それは今ではなく、将来的な話です」


 アルフィリースは少し目を閉じ、やがてゆっくりと開いて答えた。フォルミネーの質問は、これからの本質を突いていると思ったのだ。


「私は――そうね、まだ傭兵団を大きくするつもり。目標は、数万人規模かしら。傭兵という概念を少し変えたいと思っているの。そうね、たとえば人足とか、戦場で戦う傭兵といった職業だけではなくて、芸術家とか、商人としての一流どころも派遣できるような――名前はまだないけど、人材派遣とでもいうのかしら。色々な種類の人間を揃え、あらゆる状況に対応できるようにしたいの。

 そのためには教育を施す場が必要になるわ。アルネリアは学校を備えているけど、その規模には限界がある。各所の教会では学問所のような真似ごとをしているけど、個人の裁量任せになっていることが多い。たとえば司教の任期が終わると、その学問所も終わってしまう、とかね。私は構造として、その場所を作り上げたいと思っている」

「なるほど。女性を多く雇い入れているのも、その先を見据えている?」

「意識したことはないわ。でも旅をしていて、思った以上に女性が旅をしにくかったり、差別される立場にあることはわかった。まだ女性の埋もれた人材は多いはずだし、アルネリアには平民が学ぶ機会が少ないわ。私の意図は通りやすいと思うのだけど」


 なるほど、とフォルミネーは思う。アルフィリースの考えには一理ある。これから将来性を持つ発想である可能性は十分と考えられた。

 フォルミネーは一つの決断を下した。



続く

次回投稿は、2/13(土)15:00です。

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