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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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快楽の街、その40~女剣奴①~

***


「じゃあな、リリアム。声をかける面子は、本当にアタイに任せてもらっていいんだな?」

「もちろんよ。腕前だけなら裏闘技場の連中を連れてきてもいいのだけど、何せ彼らは手加減というものを知らないわ。イェーガーの面々を殺してしまっては禍根が残る。それは上手くないやり方よ」

「かっ、ならもう手を組むつもりってことじゃねぇか。明日の試合は茶番か?」

「この街のしきたりじゃない。決める時は娯楽で、ただし真剣に。賽の目一つに全財産や命まで賭ける連中がいる街よ。彼らと手を組むのなら、明日の試合は彼らにとっても良い主張の場となるでしょう。ターラムの住人の興味を引かないと、そもそもこの街で味方を作ることは不可能だわ」

「なるほど、受け入れられるための儀式ってわけか」

「受け入れられるか拒絶されるかは彼ら次第。そこまで預かり知らないわ」


 リリアムは冷たく言い放った。カサンドラは肩をすくめるばかりだ。


「よう、リリアム。ならあんたは出ねぇのかい?」

「さて、向こうの団長が出てくるなら私も出るかしらね」

「あんだよ、興味あんのか?」

「ないと言えば嘘だわ。あなたは気にならないの。カサンドラ」

「そりゃあ・・・」


 正直、カサンドラも気になると言うのが本音だった。ここ一年程度で急に名前を聞くようになった傭兵団。その知名度の広がり方、成長速度も異常だが、なるほどと思える人材が今日の会議に来ていた。知恵の回る者、腕の立つ者、経験豊富な者、魔術に長けた者。傭兵団として、およそ理想的な構成でないかと思う。そして、その長である黒髪の女。強いことは間違いないだろうが、どこまで強いかが未知数だった。底知れなさという点では、リリアムと同等かもしれない。

 それに、ロゼッタを配下にしていた。カサンドラの知る限り、ロゼッタは元より他人を信用しない性格だし、非常に我の強い女だった。腕前も並ではないが、頭も切れたし機転もきいた。駆け出しのころから知っているが、他人の力を借りることを何より嫌う女だった。赤い姉妹と呼ばれたころの姉貴分、ララベルが行方不明となってからは、すさんだ噂ばかりを聞いていた。それが笑顔で懐いている。これはどうしたことかと、カサンドラは思わずわが目を疑った。つい、ちょっかいをかけてしまったこともやむを得ない。

 だがカサンドラの興味とは別に、リリアムはまた別の興味を抱いたようだ。リリアムの瞳に暗い炎が揺らめくのを、カサンドラは確かに見た。


「リリアム」

「何かしら?」

「明日の試合、キレるんじゃねぇぞ?」

「・・・誰に向かってモノを言っているの? 隊長は私よ?」


 リリアムから、ちり、と殺気が漏れる。リリアムはカサンドラの胸までも背丈がないほど一見か細い少女だが、威圧感はどの男の剣奴よりも巨大である。カサンドラが彼女の部下に甘んじているのも、もちろん一騎打ちに負けたからだ。

 だがそれ以上にカサンドラは、リリアムのことが心配だった。自分の身分を買い上げたことで、もうターラムからは解き放たれたのだ。なのにターラムを離れないリリアム。彼女がどのような決意と覚悟で今の地位にいるのかを、カサンドラは知っていた。


「お前も測りかねているんだろ? あの黒髪のアルフィリースを」

「そうね。それは否定しないわ。そして明日いくらかでも、その大きさがわかるでしょう」

「あの女が、お前の求める存在か?」

「それも明日わかるわ。おやすみ、カサンドラ」


 半ば強制的に別れを言われたカサンドラは、片手を上げて応えるのが精いっぱいだった。後にぽつんと残されるカサンドラ。

 そしてリリアムは独り、自分の屋敷でくつろいでいた。一人で住むにはあまりに広い屋敷だが、あまりにみすぼらしい家では格好がつかないとの周囲の意見から住んでいる。だが一方で人が多いのは苦手なので、必要以上の人間を置かないのがリリアムの主義だ。日中は使用人がいるが、彼らは離れで寝させており、自分の屋敷では夜は独りだった。

 リリアムは独りが好きというわけではない。彼女は元々普通の家の出自である、らしい。らしいというのは、彼女が物心ついた時には既に奴隷だったからだ。理由は、生まれつき髪が黒い。ただそれだけで彼女の両親はリリアムを奴隷商人に売ったのだった。幼い時の記憶はほとんどない。ただ出されたご飯を食べ、言われるがままに働き、奴隷商人の気分次第で殴られ、腫れた背中が痛くて寝られなかったこともしょっちゅうだった。それだけが、リリアムの幼い時の記憶。

 その中である日、不手際をしでかした男の始末を、商人は面白半分に奴隷たちにやらせることとした。へまをしたのは、比較的奴隷たちの扱いが丁寧な男であった。奴隷たちはためらった。だがリリアムは商人から剣をひったくると、その剣で男の喉を躊躇なく一突きした。リリアムは男の優しさの正体を、ただの罪悪感だと知っていた。同情は欲しくない。それがリリアムの本心だった。それに、黒髪というだけで奴隷仲間からもまっとうに扱われないリリアムは、商人に気に入られることで、少しでも立場を有利にしようとした。

 だが逆効果だった。あまりに躊躇なくやりすぎたリリアムは、商人からもついに疎んじられ、剣奴として売り飛ばされた。それがここターラム。リリアム7歳の時だった。



続く

次回投稿は、2/1(月)16:00です。

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