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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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快楽の街、その37~漂泊の女勇者②~

 エルシアはレトーアが外に出るのを察して、ついてきたのだった。その前にも、何やらおかしなやり取りを二人がしているのを、かすかに聞いていた。

 エルシアがきき耳をたてていたが、二人の会話を聞き取れるには距離がある。その間にも、レトーアとフォスティナは早速本題に入っていた。


「待って、先に理由を聞かせてもらいましょうか。どうして私の行動を知っているんですか?」

「私には友人が多い。それも、人以外の友人がね。それが答えだよ」

「・・・煙に巻かれた気もしますが、まずは敵意はないと考えてよいのでしょうか」

「私はお願いをする立場だからね。敵意など抱くはずもない。それでお願いの件だけど――」


 エルシアがさらに耳をそばだてたが、やはり声は聞こえない。そこで突如として肩を叩かれ、エルシアは口から心臓が飛び出そうなほど驚いたが、かろうじて声を出すのだけはとどまった。

 背後にはいつの間にか、レイヤーがいたのだ。エルシアが前面に集中していたのもあるが、まるでレイヤーの存在に気付かなかった。ひそひそ話をする二人。その顔の近さにエルシアが赤くなったが、レイヤーはさほど気にしていないようだった。


「エルシア、どうしたの?」

「驚かさないでよ! 尾行よ、尾行!」

「誰の?」

「レトーアよ」

「誰だっけ?」


 レイヤーはとぼけていたが、エルシアもまた説明しようとはしなかった。エルシアは会話の内容が聞こえないとぶつぶつ呟いていたが、レイヤーは全てその内容を聞き取っていた。磨かれた感覚は、彼らのひそやかな会話を聞き取るほどの聴力をレイヤーに与えていた。


「人探しを?」

「ええ、団長の依頼でね。人探しを手伝ってほしいんだ。ターラムの真の支配者という人物を探しているのだけど」

「なるほど、そういう人物がいるとは噂には聞いたことがあります。ですが都市伝説の類でしょう? いるかどうかをわからない人物を探すのは浪漫がありますが、私には先に受けている依頼があるのです。依頼の重複でよければ受けてもよいですが、かなり優先順位の高い依頼を受けていますので、中途半端になってしまうかと思いますが」

「ああ、その件はキャンセルしてもらって構いません。エクスぺリオンの一件でしょう?」


 レトーアの一言にフォスティナの表情が強張った。


「どうして知っているのです?」

「ギルドに依頼して、貴女を呼び寄せたのが私だからです。そのくらいの権限を持っているのでね」

「どうしてそんな権利を持っているか、どうせ聞いても教えてはくれないのでしょうね?」

「そうだね、ギルドの規約でもあるから」

「ふむ・・・」


 フォスティナが悩んだ。そして一つの条件を提示した。


「――まず一つ。私の依頼を中断したければ、正式にギルドを介しての通達が欲しい。すぐにでも手配していただければ」

「いいだろう、すぐに行おう。朝には間に合うのではないかな」

「もう一つ。エクスぺリオンの件は情報収集をすればするほど、相当危ういものであることがわかってきました。もう相当数の被害が出ているし、何やらきな臭い動きが多数みられる。出来れば誰か代役を立ててほしいのですが」

「なるほど。それも誰かに頼んでみるとしよう」

「では明日からでも私は動きます。しかし、どうして私なのです? 私以外にも多くの人がいるでしょうに。かの傭兵団は人材豊富と聞きましたが?」


 フォスティナの純粋な疑問に、レトーアはやや躊躇いがちに応えていた。レトーア自身も確信がない。そんな複雑な表情だった。


「・・・私の勘ですよ。味方は多いほどいいでしょう。それに、まっとうな方法で目標とする相手にたどり着けるとも思わない。単独で遺跡の秘密に迫る貴女だ。その能力を評価しているのです」

「なるほど、確かに探索を得意としてはいますし、人探しもよく請け負います。でも、一つ大切なことがあります。私が成功した時の報酬はどうしてくれるのです? 勇者を雇うのは、決して安くはありませんよ?」

「ふむ、金銭で賄えますか?」

「いえ、私は金銭は欲しくない人間でして。そうですね・・・遺跡のことを聞くと言うのはどうです?」


 フォスティナのやや挑戦的な微笑みに、レトーアが少々困った顔をした。


「なるほど、それはわかりやすい。でもよいのですか? 私が真実を言わない可能性もありますよ? それに、真実を告げても貴女が信じることができるかどうか」

「いえ、それはないと思います。あなたはきっと嘘をつかない。目を見ればわかりますから」


 自信をもって言い切るフォスティナにレトーアは目を丸くすると、自然と笑みがこぼれていた。

 そこまで話を聞くと、レイヤーはエルシアの腕を取った。これ以上ここにいると見つかるよと言いながら、もう少し近づこうとするエルシアを無理矢理連れ帰ったのだ。ここでレイヤーの中に一つの考えが浮かんだ。今日の探索の結果、思ったように成果が上がらなかったことを考えると、フォスティナの後をつけるのも一つの方法かと考える。

 そして同時に、レイヤーの中には一つの興味が残った。遺跡とは何なのか。いずれ時間があれば探してみてもよいかもしれないと思っていた。



続く

次回投稿は1/26(火)17:00です。

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