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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第一章~平穏が終わる時~
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討伐準備、その1~アノルンの横暴~


「アルフィリース、目を覚ましなさい」

「ま、まだ早くない・・・?」

「それ以上デカく育ってどうするのですか? 嫁の貰い手がなくなりますよ?」

「ん、もぅ。人が気にしていることを!」


 宿屋でリサに起こされるアルフィリース。まだ日が昇ってからそれほど時間も経っていないようだが、リサは実に早起きである。


「リサ、朝ご飯は?」

「とうに済ませました。アナタと違ってリサは働き者ですから」

「私が怠け者みたいにいわないでよ」

「リサに言わせればぐうたらです。将来、アナタのような大人にならないようにだけは気をつけるとしましょう」

「ぐっ・・・黙ってればかわいいのに」

「聞こえてます」


 無表情な目でリサに見つめられるアルフィリース。アルフィリースよりも5つ年下であるはずなのに、不思議な圧迫感と威圧感を備えた少女である。なぜか反論しにくいと、アルフィリースは思ってしまう。


「ちょっとは年上を敬ってよね」

「あら、尊敬はしていますよ? 反面教師として」

「(・・・本っ当、口の減らない・・・)」


 どうやら口喧嘩ではアルフィリースに分はなさそうである。やむをえずベッドから起きるアルフィリース。しかし思い起こせば昨日は大変だった。


***


 リサを仲間にした後、酒場の乱闘騒ぎを放っておくわけにもいかなかったので、どうしたものかとアルフィリース達は思案に暮れていた。


「リサは放っておくことをオススメします。こいつらはダッサイですが、殺し合うほどバカでもありません。それに騒ぎ過ぎれば、ミーシアの自警隊も来ますし」

「アノルン、どうするの?」

「うーん、じゃあ放っておくか?」

「ちょっと! それでも神に仕える身なの?」

「いやー、アタシ神様とか運命って嫌いなの。だいたいアルネリア教に、神を信仰する教義は無いわよ」

「ありえない、このシスター・・・」


 アルフィリースがアノルンの理不尽さにわなわな震えているのを見て、アノルンはさすがにまずいと思ったのか、


「そこまでいうなら止めてくる。リサちゃん、ちょっとおいで」


 アノルンはリサを連れてつかつかと全員の中央付近に歩いて行った。途中、乱闘に巻き込まれそうになるが、ぶつかりかけた男達は全員もれなく吹っ飛んだ。不思議なことに、誰もアノルンが男達を吹っ飛ばしていることに気付かない。全員がそれなりに酔っ払っているので、まさか目の前の一見儚げなシスターが大の男をちぎっては投げていることなど、目の錯覚程度にしか思っていないのだろう。

 そしてシスターが中心に行くと、また彼女に当たる照明以外が全て消える。


「(だからどうやってるの??)」

「皆さん、聞いてください!」


 はたと乱闘が治まり、アノルンに視線が集まる。


「今回はこのリサちゃんにメンバーを決定しました! だからもう、私のために争わないで!」


 くぅっ、と嗚咽して見せるアノルン。まだやるかこのシスター。


「と、いうわけで皆さんお疲れ様でした。とっととケンカを止めやがりください、このバカヤロウども」


 というリサのひどい文句と、深々とする丁寧な礼が全く一致していない。当然のごとく男達は猛抗議を始める。


「そ、そりゃないぜシスター!」

「そうです、誰のために争っていると?」

「シスターが俺たちの誰かを連れてってくれるまで、やめねぇぜ!?」

「そうだそうだ!」


 男どもがぎゃあぎゃあ騒いで収まりがつかない。最初はアノルンもうるうるした瞳でじっと全員の文句を聞いていたのだが、段々面倒くさくなってきたのだろう。徐々に普段の顔に戻ってきている。


「(ま、まずくない、これ??)」 


 アルフィリースの頭の中に嫌な予感がよぎる頃、ついに一人の男が、


「シスター、俺を連れてってくれよ?」


 とアノルンの肩をぐいと掴んだ。その瞬間アノルンの顔が悪鬼のような形相になる。


「誰が触っていいっつった、コラ!?」


 アノルンが男の手をねじり上げると、男が声にならない悲鳴を上げる。そのまま男を机に叩きつけると、酒場の全員が固まってしまった。しんと静まり返った中でアノルンが声を荒げる。


「同じことを二回言わせるんじゃねぇよ、もうメンバー決まったっつったろが? おまえらの頭の中身はすっからかんか、あぁん!? さっさと帰ってクソして寝やがれ、この不細工ども。そして顔を洗った後、二度とアタシの前に現れるな! 行くぞ、リサ!」

「は、はい、お姉さま!」


 いつの間にか、リサがキラキラした羨望の眼差しをアノルンに向けるている。「お姉さま」とか言ってるあたり、なんだか間違った目標を見つけたかもしれない。にしてもアルネリア教会の名前を出してるのだが、こんなことをしてもいいのだろうかとアルフィリースは不安でしょうがない。

 ところが男達は、言葉を失い、ひどい悪夢を見ているような顔で彫像のようにただ固まっており、それどころではないようだ。それはそうだろう、自分達の淡い夢が一瞬にして砕け散ったのだから。アノルンの豹変ぶりは始めて見たら誰でもびっくりするであろうが、なぜかアルベルトは微動だにしなかった。一体どこまで冷静だというのか。まあ傭兵の連中は、少なくとも自分達が去るまでは動けないだろうことは確実だった。


「アルフィもアルベルトもぽかんとしてんな! 行くぞ?」


 ふと我に返るアルフィリースだが、このシスターの連れだとは思われたくない。彼女はこのギルドには、もう二度と来ることがない気がした。


***


 ギルドを出ると、道すがらリサが依頼の内容を問うてくる。


「それでは私は一度家に帰りますが、明日の打ち合わせは?」

「朝になったらアタシ達の宿屋に来てくれない? えーと、盲目のリサになんて説明したらいいかな?」

「いえ、構いません。貴方達の気配を覚えたので、センサー能力で探せます。だいたい宿がどちらかを教えていただければ」

「そこまでわかるの? じゃあ確かここから二本通りを向うに行った、赤い看板にスコップの目印が・・・」

「なるほど、サウザさんの宿屋ですね。了解しました。報酬の件はその時に」

「その時でもいいけど、今じゃなくていいの?」

「構いません、報酬をケチるような方たちには見えませんし、正規のギルドを通した依頼でない分、額には逆に期待させていただきます。むしろ私も即座に金が入用なので、そちらの方が助かりますし。長期にわたる依頼であれば、前金だけいただきますが」


 リサは交渉をやりなれた感じである。さすがこの歳で高ランクの称号を得ているだけはあると、アノルンは内心で感心する。


「いや、こういうのは先にやっておこう。報酬は4等分だ。センサーだからってケチることはしない。それでどうだい?」

「十分です」


 センサーの報酬は通常取り分が少ないのが普通。後衛である分、直接の危険が少ないからだ。等分で報酬をもらえるのは、破格に近い待遇である。

 と、アルベルトが手を上げる。


「いや、私の場合は任務だから私の分は必要ない。私の分は除いて3等分にしてくれていいだろう」

「じゃあそれでいこう。意見がある人は?」


 アノルンの言葉に、誰も異論はないようだ。


「決まりだね。この町に用事がある人がいなければ明日、準備まで含めて昼には町を出発したい。皆そのつもりで」

「私の剣を研ぎに出してるんだけど、間に合うかな?」

「あんたがおっぱいのひとつでも見せてやれば、光にも近い速さで研いでくれるだろうよ」

「・・・そういったことをする人なのですね、さいてーです」

「ちょ、違うって! アノルン、誤解を招くようなことをいわないでよ?」


 アノルンとリサの言葉にアルフィリースが目に見えておろおろし始めたので、アルベルトが真面目にフォローを入れる。


「・・・少し握らせてやれば昼までには研いでくれるだろう。私はその前に移動手段を確保しておこう。心当たりがあるのでな」

「何を握るのよ!?」

「いや、そこはチップの話でしょう。何を想像したのですか、いやらしい」

「まぁリサもその辺にしたげてよ、この子世間知らずなんだから。それとアルフィもリサのことは普通に呼び捨てにしときなさいよ。戦場で遠慮なんかする仲間関係だと死にかねないからね。リサもいいわね?」

「お姉さまがそうおっしゃるなら」


 なんとかこれでやっていけるかなとアルフィリースが思った矢先に、「・・・チッ!」というリサの舌打ちを聞いた気がした。新たな仲間に、非常に先行き不安になるアルフィリースであった。


***


 宿に帰ると既に満席で、アルベルトの部屋が確保できなかった。どうしたものかとアルフィリースとアノルンで思案した所、


「ドアの外で寝ている。何かあったら起こしてくれ」

「それじゃ疲れが取れないよ。せめてソファーで・・・」

「婦女子の部屋で、それはできん」


 と、にべもなく断られた。やっぱり騎士なんだなと感心するアルフィリースだが、アノルンは面白くなさそうだった。


「男女ひとつ屋根の下とか楽しいのに~。アルベルトの前でアルフィをひんむいた時に、あの朴念仁がどんな顔するか楽しみだったのに~!」

「人の体をなんだと思ってるのよ!? だいたいみられて『・・・・・・フ』とか言われたら、私もう立ち直れないから!」

「言いかねないから怖いわね。ラザール家恐るべし」

「それよりシスターだって思ったより冷静じゃない? イケメン見た時いつもなら、『あら、男前ね♪ 私とイイコトしない?』とか言って粉かけるのにさ」

「人聞き悪いね! 私は痴女か?」

「同じようなものだと思ってたわ」


 ここぞとばかりにアルフィリースは反撃する。


「まあ顔がイケてるのは認めるけどね、ラザール家の奴らはご免だよ。ああ、思い出すだけでも寒気がする!」


 アノルンに鳥肌が立っている。傍若無人な暴力シスターでも、苦手なものがあるらしい。何を思い出したのかは引っかかる所だが、どうせ追求してもはぐらかされるだけだろう。このシスターはそういうところだけはずるいと、いつもアルフィリースは思うのだ。

 そんな取りとめもない会話をしながら寝てしまったアルフィリース達。やっぱりアノルンと話をするのは楽しいと感じるアルフィリースだった。



続く



次は明日10/15、12:00に投稿します。

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