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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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快楽の街、その33~ターラムの支配者達④~

「まずはこの街の立場になって考えるなら、あなた方が最も優先すべきことを聞いておきたいわ」

「この街の存続。しかもできる限り、今の形のままで」

「もっと具体的には?」

「この街の権利も我々の利権も、今のままでいうことでしょうね」


 コルセンスの言い分に何人かが頷いた。反論が出ないところを見ると、おおよそのその方向で合意が取れているようだ。

 アルフィリースも納得した。


「ならば簡単だわ。この議会直轄で、私たちを雇えばいい」

「おい、アルフィ――」

「ちょっと黙ってて頂戴、ライン」


 アルフィリースはラインを押しとどめてそのまま話を進めた。誰も余計な言葉を発さず、アルフィリースの次の言動に耳を傾けていた。

 アルフィリースは慎重に言葉を選んでいた。今、まさに自分は品定めをされているのだ。交渉の仕方を間違えれば、二度と彼らの信用を得ることはできないだろう。アルフィリースもまた内心では崖の上で綱渡りをするような緊張感を感じていたが、その内心はおくびにも出さないように努めていた。


「――さっきも言ったように、私たちはアルネリアとは密接なつながりがあるわ。それは黒の魔術士に対抗する一団として、教会の上層部と直接話し合いを持てるということ。それに団の結成時に資金援助をしてもらったけど、それに関しては返済の目途も立っている。もちろん、いずれ自立するつもりよ。そうなればアルネリアを出て行くことも考えているわ」

「つまり、アルネリアの手先ではないと言いたい?」

「もちろん。だからわざわざ巡礼の面子はおいてきたのよ。最終的には、私はアルネリアとは対等でいたいと考えている」

「ふっ、ふはは」


 グッツェンが思わず吹き出し、何人かがそれに続いた。アルフィリースは何事かと思ったが、ほかならぬグッツェンがアルフィリースを促していた。


「ふふ、すまんな。続けてくれ」

「――つまり、この都市の自立を確保するには、ローマンズランドにもアルネリアにも、どちらにも与しないことが大切よ。一方でアルネリアに協力しながら、ローマンズランドとも裏では取引している、とかね。ぎりぎりまで交渉を引き延ばし、勝つ方を見極める。その方法が必要になるわ」

「言うは易く、行うは難し。どうやってその方法を得るか、だ。その方法として、そなたを雇えと? その根拠は」

「簡単よ。私の人脈だわ」


 アルフィリースの言葉に、議会の全員が目を光らせた。それぞれが困惑、興味など様々な意味を持っていたろうが、アルフィリースはさらに畳みかけた。


「私はローマンズランドの王族にも、アルネリアの上層部にも顔がきく。どちらとも最終的な交渉の席に立てるわ。それだけじゃない。大陸の傭兵団の中でも、相当上位に位置する戦力を確保している。私を雇っておけば、いざという時、どちらに対しても抑止力になるはずよ」

「なるほど。確かに先のクライアの戦いではかなり活躍したとのことだからな。名も売れているし、おいそれとどちらもお主らを取り潰すことはできんか」

「そういうこと。名が売れているということは、密かに消しにくいということでもある」

「一つ聞いておきたい。ローマンズランドの王族に知り合いがいると言ったが、それは誰だ?」

「第二公女、アンネクローゼよ」

「アンネクローゼか・・・なるほど、ローマンズランドにしては柔軟な人柄と聞き、また発言権もそれなりにあると聞く。有象無象ではないな」

「ふむ――有効な手かもしれんな。ワシはこの娘さんの提案に賛成じゃが、そなたたちはどうかね?」

「儂も賛成だ」


 意外なことに、グッツェンがいち早く同意した。何人かが目を丸くする。


「グッツェン殿、どういう風の吹き回しで? 女嫌いのあなたが珍しい」

「儂は何も女が嫌いというわけではない。儂が嫌いなのは、女であることそのものを前面に押し出して武器にする者、あるいは都合が悪くなると女を主張する者よ。まずはこの娘の度胸が気に入った。全交渉権を任せるかどうかは別として、仲間に引き入れておくことは、この都市を守る上で十分に有用になりそうな選択だと思うがな」

「ふむ、主にそこまで言わせるとはな・・・現時点での決を採るかね?」

「では皆さま、現時点で構いませんので意見を各々お願いします」


 すると意外なことに、賛成にするすると手が上がった。賛成4、保留が5。そして――


「私は反対だわ」

「リリアム嬢?」


 リリアムだけが反対を申し出ていた。当然と言えば当然だが、場の空気に流されないだけの思考を持ち合わせているらしい。

 最も高齢な男――フィルドンが尋ねた。


「リリアムよ、その心は?」

「仮に彼女を雇うとしましょう。でもそれは、アルネリアとも、ローマンズランドとも交渉を彼女に任せてしまうことにつながりかねない。とても危険なことだと思います。それに、本当に抑止力足り得るだけの実力を備えているのか。噂など、多くは尾ひれがついているもの。私は目で見たものしか信じませんので」

「なるほど、一理ある。では具体的には?」

「試合をしましょう」


 リリアムの申し出に場がざわついた。だがリリアムは躊躇いなく言い放った。


「五対五の代表戦です。そちらも護衛に精鋭を連れてきているのでしょう? そちらの後ろの男性も相当腕が立ちそうですし。実力を示してもらわないと、この街の警備を預かる者としては納得できませんから」

「三本とったら勝ちってことかしら?」

「三本でなくとも、私が納得したらそれで構いませんよ。ただ、口先だけの者には任せられないというだけですから」

「いいでしょう。受けて立つわ」


 アルフィリースの即答に、リリアムは微笑んでいた。



続く

次回投稿は、1/18(月)17:00です。

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