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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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快楽の街、その27~魔剣と戦士①~

***


「で、なんであんたがここにいるわけ?」

「いつもの荷物運びだよ。そっちこそ、なんでここにいるのさ。この任務は人探しだって聞いたし、そもそも人員は精鋭や人探しに向いた人選だけのはずだけど?」


 エルシアに問い詰められたレイヤーが、逆にエルシアに問い返していた。だがエルシアもひるむものではない。


「ふん、ターラムには貧民街もあると聞いたわ。なら私たちの経験が活きるんじゃないかと思ってね」

「売り込んだのか。でもスラスムンドとここは全然別だよ。団長には断られたんじゃないの?」

「うっ・・・いいのよ。ここには自腹でついてきているんだから。何をしようと私の勝手よ!」

「はぁ、そんなことだろうと思ったよ。ゲイルもかい?」

「お、おう。まぁな」


 ゲイルのしどろもどろの返事を聞く限り、どうやらなんとなくついてきただけか、他に目的があるのかのどちらかだろう。ここに来るには飛竜が必要だったはずだ。それほどの費用をどうやって捻出したのかレイヤーは気になった。エルシアやゲイルは細かな依頼を少しずつこなし、貯金をしていたのは知っていたが、どうしてこの場面でその貯金を使ったかがわからない。


「本当のことを言ったら? 絶対誰かに便乗したんでしょ」

「ぐっ・・・」

「うん、そうだね。実は私が頼んだんだ」


 部屋の外から現れたのは、肌の浅黒い男だった。南方にこういった肌の濃い色の人種がいることはレイヤーも知っていたが、どうも少しそれとも違う気がする。最近はイェーガーの中にも南が出身だという面子はおり、彼らは共通言語もどこか片言の者が多かったが、目の前の男は流暢に言語を操っていた。また態度も上品であり、辺境の民族とはまるで態度が違っているようだ。


「貴方は?」

「レトーアという。今回遠征に志願したのだが、どうもまだ中央に不慣れでね。いつも誰か随行してくれる人を探していたのさ。さらに今回は人探しだろう? 特に今回はこのターラムとかいう街に詳しい者がいないかと探していたのだが、そうしたらこの二人が名乗りを上げたのさ。どうやらこの街の出身ではないようだが」

「なんだ、騙してついてきたのか」

「だ、騙してないわよ! 私が調べて道案内すればいいんでしょう?」

「それならレトーアが自分でやったって一緒だろ」

「うるさいわねぇ! そういうあんたは何なのよ? また荷物持ちだとかいうの?」

「そうだけど?」


 しれっと答えたレイヤーに、エルシアが疑惑的な眼を向ける。


「何の荷物持ちなの? アンタである必要があるとは思えないけど」

「ライン副団長の研ぎに出していた剣を届けに来たのさ。それに僕自身も剣を研いだりするからね。出来が見たいから、ついてきてくれって言われている」

「あんたが剣を研ぐ? 本当に?」

「嘘をついてどうするのさ」


 レイヤーが「疑うのか?」と言わんばかりに両手を上げたが、それでもエルシアはどこか気持ちがすっきりとしなかった。


「・・・まぁいいけどさ。あんまり治安の良い街じゃなさそうだから、仕事が済んだらとっとと帰りなよ」

「うーん、どうしようかな。面白いお店が多そうだから、ちょっと遊んでいきたいんだけど」

「呆れた! あんたもそんなところだけ男ってわけ? 信じらんない!」


 突然起こりだして部屋を後にしたエルシアに、きょとんとするレイヤー。そのレイヤーの肩をゲイルがぽんと叩いた。


「レイヤー、お前も同志だとは嬉しいぜ」

「は?」

「店は後でじっくりと選ぶとしよう。既にめぼしい店には目を付けてある。懐と初心者に優しい店にしようぜ」

「いや、稼ぎには余裕があるから少々値が張っても――」

「俺の稼ぎに合わせろよ、馬鹿! 連日エルシアに奢らされて、すっからかんなんだよ!」


 ゲイルはレイヤーの頭をぱんと叩くと、エルシアの後を追いかけて出て行った。叩かれた頭をさすりながら、レイヤーがレトーアに問いかけた。レトーアはくすくすと笑いながら、その様子を見守っていた。


「・・・なんで? 面白そうな出店が多かっただけなのに・・・」

「どうやら誤解されたようだね。仕方がないよ、彼女はまだ子どもだからね。君の鈍感さも相当なものだけど」

「謝ったほうがいいかな?」

「いや、その必要はないだろう。むしろ謝ったほうがこじれそうだ」

「そうなのか、よくわからないけど」


 レイヤーはそもそもエルシアとも顔を合わせるつもりはなかったので、さっさとその場を出ようとして、足を止めた。


「二人のこと、頼んでもいいかな? むしろ、そのつもりなんでしょ?」

「うーん、私にも優先事項はあるからね。あまり若い戦士を危険な目に合わせるつもりはないし、それなりに見守るつもりでいるけど」

「それでいいよ。あとは二人の才覚次第だ。僕もあまり彼らにかまけることはできないからね」

「心配ではないの?」

「いつまでも子供じゃないんだよ、お互いにね。彼らのことは大切だけど、保護者じゃないんだ」

「そうか。君は強いだろうに、それだけに自由にならないことも多いのか」


 レイヤーのことを見透かしたかのようにレトーアが頷いたが、レイヤーもまた鋭い言葉を返した。


「自由にならないことは確かに多い。それもまた楽しいけどね」

「護るものがないからかい?」

「少ないだけだよ。そしてあまり増やすつもりもない。逆に聞くけど、人間でないあなたに守るものはあるの?」

「――鈍感なのか鋭いのかわからない子だね、君は」


 レトーアの目がきらりと光る。レイヤーもまたまっすぐにその瞳を見返した。


「護るべきものはある。だからこそ人の形をしているんだ。だけど、まだどうなるかはわからない。私に言えるのはそのくらいだ」

「ちっともわからないね。でも敵ではない?」

「そのつもりだ」

「ならいいよ。だけど敵になるなら容赦しない。眠らない相手でも、いくらでも不意を突く方法はあるんだかr」

「怖い子だ。でもどうしてわかった?」

「インパルスやダンサーと同じだからだよ。気を付けた方がいい、リサやルナティカに面と向かって出会ったら気付かれるだろう。体格の割に一歩に対する振動と重量が一致していない。気を付けることだね」

「・・・参考にしておこう」


 レイヤーが去った後で、レトーアは複雑な感情を抱いていた。それはレイヤーを危険視するのと同時に、嬉しい感情だった。


「なるほど、彼がアルフィリースの仲間にいるのか。ならば一つは安心かな。ピートフロートとの連絡が取れなくなったせいで懸念が一つできたのだが、早々アルフィリースに危険が及ぶことはあるまい。一度見ておいてよかった。

 だが念のため、インパルスの忠告に従ってフォスティナには会っておくとしよう。そのためにギルドまで動かしたのだからね」


 レトーア――魔剣レメゲートは部屋を出て、ターラムの雑踏に向かった。



続く

次回投稿は、1/6(水)18:00です。

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