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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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快楽の街、その17~新しい依頼⑧~

***


「ミランダ様、ただいま帰還しました」

「ご苦労様ね、メイソン」


 ミランダの執務室に、メイソンが現れた。既に夜も更け、執務室にはミランダしかいない。机の上に一つだけ灯りをともして仕事をするミランダは、揺れる光に映し出されて陽炎のように儚く見えた。


「ミランダ様、お疲れでは?」

「疲労はしているわね。最近睡眠時間があまりなくても、動けるようにはなったけど。これは慣れね」

「たまには休暇を取られては?」

「ではあなたが代わりに仕事をしてくれるかしら?」

「・・・無理なことを申しました」


 メイソンは申し訳なさそうな顔で頭を下げた。この不遜な男も、ミランダの前でだけは従順だ。他の巡礼者がメイソンの今の態度を見たら、仰天することだろう。

 そしてミランダは、そんなメイソンをからかっているようでもある。ミランダは薄く笑うと、メイソンに向けて手を出し、報告書を求めた。その報告書に簡単に目を通すミランダ。


「・・・簡潔ね。省略している部分が多すぎるのではないかしら」

「所詮、形式だけのものです。記録に残せないものもあるでしょう」

「アノーマリーが死んだことは第一報で連絡を受けたわ。その他に何があったの?」

「氷帝バイクゼル。ご存じですか?」


 ミランダは首を振った。


「知らないわ」

「私も知りませんでしたが、察するに古竜のような古の化け物でしょう。ただその性は非常に凶悪で、どうやって倒したかも正直怪しいところが多数ありまして」

「詳しく話して」


 メイソンはバイクゼルについて話した。そしてミランダはしばらく黙っていたが、やがて思い出すように口を開いた。


「・・・なるほど、以前フェアトゥーセに聞いたことがあるわね。古竜たちは今はいないが、眠りについただけだと。だが眠りについたのは古竜だけではなく、魔人や、その他の強すぎる魔物や魔獣、幻獣も同じだと。彼らはかつて空を焼き、大地を薙ぎ払った戦いで自らの力を恐れて封印したのだと。その中の一体だったのかもしれないわ」

「恐ろしい相手でした」

「テトラポリシュカよりも?」

「正直、比較になりません。テトラポリシュカくらいなら私一人でもなんとか渡り合えますが、バイクゼルを見たら逃げの一手しかありません」

「それほどだったの」

「それほどですね。ああ、ちなみにテトラポリシュカは死亡を確認しました。眠るように、幸せな表情で死んでいましたよ。手厚く原住民たちによって葬られたそうです」

「ふん、奴のしでかしたことを考えると、幸せすぎる死に方ね」

「まあ死者に鞭打つのも、聖職者としてはいかがなものかと」

「随分と優しいじゃないの。アルフィはどうだった? どんな印象を抱いたかしら」

「アルフィリースですか」


 メイソンは言葉を濁した。そして眼鏡を直しながら告げていた。


「怖い女ですね」

「そうね、アタシもそう思う。どのくらい怖い女かしら?」

「私が出会った女の中では、1、2を争います」

「へえ」


 ミランダは面白そうにメイソンを見た。なぜなら、それはミランダがかつて抱いた感想と同じだったからだ。

 ミランダは興味を持って尋ねた。


「ではあなたはどうすべきと思うかしら?」

「状況次第で敵にも味方にもなる女です。情け深いが、必要に応じて味方も切って捨てることができる。敵に回すのは得策ではないが、味方にしておくのも恐ろしい。できることなら、始末してしまうのが安寧のためには必要です」

「だが、アタシの友人でもある」

「そこが問題です。殺したくないというのであれば、監視と手綱が必要でしょう」

「誰が適任かしらね」

「ウルティナがよいでしょう。あれなら武術でも魔術でも渡り合える」

「ならターラムの件のついでに、そのまま同行させてしまいましょう」

「ターラム?」

「マスターの依頼よ」


 ミランダは事情を話した。すると渋い顔をしたのだ。


「頽廃の象徴か。私の最も忌み嫌う場所だな、ですよ」

「素が出てるわよ。心配しなくてもあなたには別に仕事があるのよ」


 ミランダが一つの書簡を渡す。メイソンが開いて見ると、そこには土地の名前が列挙してあった。


「これは?」

「最近の辺境の状況を知りたいわ。貴方は主に辺境で活動してたわね」

「それはそうですが、別段何もありませんが」

「具体的な点は二つ。一つは辺境に住む原住民共、亜人共の生活が変わっていないか。二つ目は、この珠を持って行ってほしい」


 ミランダがメイソンに渡した珠は、透明で中に金属を封入したような形だった。それが土地の数だけ、入っていた。


「これは?」

「一種の魔術式ね。これを各土地に、誰にも見つからないであろう場所にこっそりと隠してきてほしい。置いてくるだけで効果があるから。それよりも問題は、一つ目の方。私の考えでは、亜人共の生活には変化があるはず。調べて、できる限り我々に協力を取り付けなさい。でなければ、排除なさい」

「排除? そこまでしますか」

「オーランゼブルの手札はどこにいるのかを考えるのよ。黒の魔術士はあくまで彼が主に使用する連中よ。彼がハイエルフであることを考えると、彼の威光は亜人や原住民ほどに力を発揮する可能性もある。ひっそりと彼らを抱き込んでいる可能性も考えないといけないわ。巡礼者は多しといえども、辺境に詳しくて熟達したのは貴方だけ。できるわね?」

「貴女の命令とあらば、喜んで」


 メイソンは恭しく礼をすると、ノースシールでの激闘の疲れを癒す間もなく出立した。そしてミランダは夜が深くなるにも関わらず、自らの仕事に没頭していったのである。



続く

次回投稿は、12/14(月)20:00です。

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