快楽の街、その15~新しい依頼⑥~
「ちゃんと防音しとるわ。安心して話しや」
「・・・馬鹿を言うな! そんな計画はなかった!」
「そうよ。確かに私たちはミリアザール暗殺計画を練ったし、ある程度まで実行もしたけど、それは全て牽制程度の意味。危機管理を促しこそすれ、本当にそんなことを実行するわけがないじゃない! むしろそうやって本当の犯行者を炙り出すことこそが――」
「ならええわ。ほなら、ワイ達以外の誰かが動いた、ゆうことや。探さんといかんな、そいつ」
「誰だ、それは?」
ブランディオはしばし考えたが、思い当る様子はなかった。
「ワイも知らん。確かにラペンティのばあさんがワイらを集めたのは、より良きアルネリアのためや。自ら反勢力になることで、現在のアルネリアに不満を持つ連中を集め、それを勝てない戦いに放り込むことで始末しとる。ラペンティのばあさんの本心を知るのは、ワイらとあと数名だけや。中には、本気で造反するつもりの奴もおるやろなぁ。
そんな有象無象共の中にで、最高教主を狙うことができるほど目端が利いて、動ける奴がおるとは思えんのやけどなぁ」
「他の組織ではなくて? 例えば、アルマスとか」
「利益がないだろう。あの連中は金にならないことと、戦争が広がらないことはしない。この時期に最高教主を始末しても、効果的とは思えない」
「そやなぁ、やるならアルネリアが勝ちそうな戦争の真っ最中とかやろなぁ。今やっても、逆に警戒されるだけ・・・あ」
ブランディオは自分で言っておいて何事かを思いついたようである。そしてニタリと笑っていた。
「・・・なるほど、そのセンは考えられるか。さよか、さよか」
「おい、何をぶつぶつ言っている?」
「別にぃ。ちょっと面白い可能性を思いついただけや。もしワイの予想が当たっとったら、心配はそれほどせんでもええかもな」
「どういうこと?」
「やっぱりミリアザールは女狐っちゅうことや。ほなまたな。アルフィリースの護衛、気張ってや」
「おい、貴様!」
「あ、そうそう。ターラムに今とんでもなく物騒な連中がきとる。ことと次第によっては、本気であんさんらの出番があるかもしれへん。きちんと目を光らせておくんやでぇ?」
ブランディオは去ったが、それこそ狐につままれたような顔をしたマルドゥークとウルティナが後に残されていたのだ。
ブランディオはその足でアルネリアの市街に向かうと、馴染みの店に顔を出した。遠出のために食料を買い込むためであった。奥から、人の好さそうな親父が顔を出す。
「おっちゃん、遠出用のやつ頼むわ」
「あいよ。何日だい?」
「とりあえず十日分。あとはなんとかするわ」
「それならすぐだ、奥で待ってな。ああ、それと旅には道連れが必要だろう? 若い女が一人で待ってるぜ」
「年増じゃなくてか」
「馬鹿言っちゃいけねぇ。女にゃ敬意を払うもんだ」
「もっともや」
ブランディオは荷物の準備を店主に任せると、自分は奥に入っていった。そこには、グローリアの教官であるハミッテがいた。
「なんや、あんたか」
「ご挨拶ね。誰が年増ですって?」
「あちゃあ、聞こえてたか」
ブランディオはまるで悪びれもせず、舌を出してハミッテに応えた。だがそれを差し引いてもハミッテは不機嫌そうである。
「私はこれでも仕事中よ? 呼び出して何の用?」
「ちょいと聞きたいことがあってな。八重の森に呼ばれたやろ? 成果はどうやった?」
「・・・呆れた、どうしてそんなことを知っているの?」
ハミッテこと杠は驚きを隠せない一方、この男ならあり得るかもしれないと納得していた。この男と知り合って随分になるが、いまだにその気質が読めない。今までの巡礼とも口無しともまるで違う男は、まだ底を見せてはくれなかった。
続く
次回投稿は、12/10(木)20:00です。