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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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快楽の街、その14~新しい依頼⑤~

「八重の森の奥には『何も』なかった。言葉通りもぬけの殻だったのじゃよ。カラミティの姿形も、その配下の何物かもいた痕跡すらなかった。ただ一つ、巨大な穴を除いてはな」

「巨大な、穴?」

「そう、穴じゃ。どのくらい大きいかというとな、ロックルーフがすぽりと収まるくらいの巨大な穴じゃ。深さは想像もできんわ」

「冗談でしょ? 小さな尾根なら覆ってしまうロックが入るってことは、小山が入るってこと? その穴は何なの?」

「想像はできるがな。なんだと思う?」


 ミランダは巨大な穴に鎮座する魔物を想像しようとして、やめた。嫌な予感しか浮かばないからだ。強大過ぎる敵の幻想は、余計な精神的負荷を産む。それが一文の得にもならないことを、ミランダは経験で知っている。


「・・・聞くまでもない、か。痕跡はなかったのね?」

「なかった。あれほど人的資源と労力を費やして、収穫無しとなってしもうた。疲労感だけが残った遠征となったわ。まあよくよく考えれば、ドラグレオとブラディマリアが南の大陸を空けている段階で、カラミティもいないと考えるべきじゃったわい」

「それはそうか」

「で、どうする?」


 ミランダは少し悩んで、首を横に振った。


「本当に徒労だとは思わないけど、これで実戦不足だったアルネリアの周辺騎士団や神殿騎士団にも経験値がついたわ。魔晶石の効果も上々だったのでしょ?」

「ああ、実戦にはなったな。多くの者が魔晶石を使いこなせるようになっている。大戦期以上の大盤振る舞いよ」

「具体的には、何名の騎士が?」

「二千名程度じゃな。これだけで一国を滅ぼすことができるだろう」

「ならばそれはそれでよいでしょう。カラミティの方は――心当たりがないでもないわ。アタシに任せてもらえるかしら?」

「ほう、期待してよいのか?」

「半々ね。それよりも大陸会議と統一武闘大会に集中してちょうだい。春になればすぐよ?」

「わかっとるわい」


 逆に釘を刺されたミリアザールがうるさそうにミランダを追っ払うと、ミランダも早々に退散した。そして手を上げて楓を呼び寄せると、鋭い声で命令した。


「マルドゥーク、ブランディオ、ウルティナを呼んで頂戴。すぐに私の仕事場に来るように」

「はい、ただちに」


 そうしてミランダはアルベルトを伴って、速足で自分の仕事場に引き上げていた。


***


「で、誰がミリアザール最高教主の暗殺を企んだのかしら?」


 ミランダはやってきたマルドゥーク、ブランディオ、ウルティナが揃うなり、いきなりこんなことを言い出した。あまりの言葉に、一瞬ぽかんとする彼ら。口達者なブランディオですら完全に意表を突かれたのか、言葉を失っていた。

 ようやく冷静さを取り戻したマルドゥークが、なんとか言葉を紡いだ。


「・・・ミランダ様、それはどういう意味ですか?」

「言葉通りよ。私の調べだと、あなたたち三人の中の誰かが実行犯だとみているのだけど。能力、人脈、隠蔽の仕方まで考えて、あなたたちほどの能力がなければ実行は困難でしょう」

「まーた暗殺騒ぎがあったんでっか? 聞いてませんわ」


 ブランディオは恍けた口調だったが、目は真剣だった。ミランダはその目を見て、事情を察した。


「・・・そう、ならいいわ」

「用件はそれだけですか?」

「いや、あなたたちにはターラムに飛んでもらいたい。アルフィリースの仕事の補佐についてほしいのよ」

「なぜです? 我々が主導するならともかく、一介の傭兵ごときの補佐など」

「そのお前たちで何ともならないから、彼女に白羽の矢が立つのでしょう。文句を言う前に、自分の力で汚名を返上するがいいじゃないの、マルドゥーク」

「くっ」


 マルドゥークは不甲斐なさと苛立ちから唇を噛んでいたが、ブランディオは飄々としたものだった。


「ミランダ様、ワイは遠慮させてもらいますわ」

「これは命令よ?」

「それはわかっとるけど、南がきな臭いんや。南方の蛮族どもが、この前のグルーザルドに対して勝利したもんやから、今度は連合を組んで攻め入ろうとかしよる。この時期にグルーザルドが南にかかりきりになるのはまずい。そう思いませんか?」

「ふむ、確かにね。具体的にはどうするのかしら?」

「小火やったら水かけたら消えますやろ。そんだけですわ」

「いいでしょう、任せます。ウルティナは何かある?」

「いえ、私は現在かかりきりの仕事はありませんので、ターラムに向かいたいと思います。何名か私の補助に巡礼をお借りしてもよろしいですか?」

「現在アルネリア内にいる者でよければ、自由に連れていくといいでしょう」


 ミランダの許可を得たので、簡単な打ち合わせをした後、三人はミランダの執務室を後にした。退室した後も、誰も一言も発しない。それもそうだろう、誰もがミランダの発言に度肝を抜かれ、そのまま話が進んでしまったのだ。

 だがその道すがら、突然ブランディオが切り出した。


「で、どっちが主犯なん?」

「は!?」

「・・・!?」


 いきなりの言葉に、先ほど以上の冷や汗が背中を伝う二人。まだここは深緑宮の中、誰が聞いているかもわからないのだ。二人は慌てて周囲を確認したが、ブランディオの態度は堂々としたものだった。



続く

次回投稿は、12/8(火)20:00です。

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