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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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快楽の街、その13〜新しい依頼④〜

「あの~お言葉ですが~、ターラムの支配者とはなんですか~? あの街は自由商業連邦の一つ~、街の運営はギルド長と選出された市民代表によって議会が行い、支配者などはいないはずです~。そもそも街の利権は複雑に入り組んでいるはずですし~、支配者などいても思うように旨みも吸えないでしょうし~、支配者でいる意味もないはずですが~」

「それに、そんな工作なら私たちじゃなくて、アルネリアの間者にやらせればいいんじゃないの? 余程適任だと思うわ」

「それができれば苦労はせん、既に口無しでも巡礼でも試し済みだ。現地に長らく潜らせておる『草』でさえまるで正体がつかめず、巡礼を派遣しても一切の手掛かりなし。このミランダ本人を派遣しても実体がつかめなかったのだからな」

「そう、アタシでも無理だった」


 ミランダが口惜しそうに話す。


「あの街は魔窟だ。正体を隠して潜入しようが、威光を振りかざして堂々と行こうが、決してのその正体を現さない。面ごとに色と形の違う多面体のような街だ、まるで全容がつかめない。アタシも何十年も前から何度も訪れた街だが、そのたび受ける印象が違う。

 だが多面体には必ず核がある。あれほど多様な性質を持つ街にもかかわらず、瓦解せずに何とかなっているのがその証拠だ」

「・・・噂では」


 リサが躊躇いがちに発言したので、そちらに注目が集まる。リサ自身も発言してよいものかと考えていたようだ。


「私が集めた情報の中に、ターラムに関する噂がありました。ターラムにはかねてから、『秩序の守り手』なる存在がいると。欲望渦巻くターラムに秩序などとおかしな喩えをするものだと思っていましたが、街の棲み分けは適切に行われているからこそ崩壊することもなく、ターラムはその姿を数百年も守っていると言われているそうです。

 今回の依頼は、その秩序の守り手なる者を探し、説得して味方につけるということでよろしいのでしょうか」

「味方に付けずとも、せめてアルネリアに敵対をしないようにしてほしい」

「もし敵対するようなら?」

「――任せる。ワシですらその実態は把握しておらんのじゃ。何をどうせよと言えるわけがなかろう」


 ミリアザールも困ったように返答した。だがアルフィリースも慎重になるべきと判断したのか、表情はまるで変わらなかった。


「それで報酬は? 言っておくけど、半端な報酬じゃあ割に合わないわよ」

「わかっておるわい。報酬は結果にもよるが、もしターラムを味方につけることに成功した場合、お前たちにワシが持っておる土地を一つくれてやろう。それでどうじゃ?」

「土地を?」


 アルフィリースの目の色が変わった。そしてしばらく考え込むような姿勢をしたが、どうやら腹の中は決まっているようだ。


「場所は?」

「候補地はいくらでもある、大陸のそこかしこにな。こう見えても諸国の成立に関わった我々よ。諸国が忘れていようと、様々な場所に土地の借用書を残している。いざとなれば土地が接収できるようにな」

「さすがミリアザール、汚いですね」

「阿呆、当然の権利じゃ。ワシらがどれだけの人的、資産的被害を出してきたと思うておる。元々のワシらが獲得した土地を貸出し、人間の独立を促してきたのじゃ。中には割譲しようと言ったのに、自ら貸与でよいと申し出た者もおる。それらを返してもらって何が悪い」


 ふんぞり返るミリアザールに向けて、コーウェンが悪い笑みを返した。


「強弁ですね~」

「お主に言われとうない。で、受けるのか、受けないのか」

「受けないなんて選択肢はないのでしょうけど、受けましょうか。魅力的な申し出だわ。土地の候補はまた一覧にして見せて頂戴。広さと場所を含めてね」

「よかろう」

「依頼の期限は?」

「雪が降るまでに成果をみせよ。それ次第じゃ」

「ならばすぐにでも向かうわ」


 そしてアルフィリースはすぐに席を立った。どうやら既に依頼について頭を巡らせ始めたらしく、世間話すらせずに出て行った。残された部屋ではミランダとミリアザールが顔を見合わせている。


「で、どう思う?」

「どうって、何が」

「依頼の成功確率じゃよ。我々の情報網をもってしても存在すら確認できん相手じゃぞ? 見つかると思うか?」

「アルフィの人を引き寄せる力に賭けるしかないさ。あの子はそういう星の巡りに生まれた者さ。あの子で見つからないのなら、本当に噂に過ぎないのかもしれない。アタシたちにできることは、何も成果が上がらなかった時にどうするかを考えることだ」

「具体的にはどうする?」

「強引な手段を取ることになるだろうね。もしターラムを始めとする北部商業連邦が抑えられたら、ローマンズランドの拠点が南にできちまう。そうなるくらいなら、アタシたちの手で商業連邦を強引に抑えるさ」

「できるのか?」

「そのためのアタシだろう?」


 ミランダはにやりと笑みを浮かべると、カップを置いて席を立った。


「さて、アタシもすぐにかかるとするよ。その前に一つだけ。八重の森の攻略状況はどうなったんだい? 次で詰め切るんだろう?」

「・・・何もなかった」

「はい?」


 ミリアザールの暗い表情に、思わず聞き返すミランダ。



続く

次回投稿は、12/6(日)20:00です。

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