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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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快楽の街、その9~永遠の安息~

「ウィクトリエには迷惑をかけ通しだ。我々の我儘のせいでな」

「そうだね。でも愛していた」

「そうだ。世界で二番目にな」

「一番は?」

「こら、女子の口からそのようなことを言わせるでない」


 テトラポリシュカがじゃれつくように夫の胸を叩いた。そしてそのあと顔をゆっくりと撫でるのだ。


「旦那殿、後悔はしていないか?」

「何を?」

「私と同じ時を歩んだことだ。私を放っておいて人としての生をまっとうする選択もあった。それを共に時間を止める魔術に身を浸したせいで、寿命を縮めることになってしまった。それに友人や家族も先にみんな死んでしまった。それでもよかっ――」


 テトラポリシュカの言葉は夫が頭を撫でたことで遮られてしまった。そしてテトラポリシュカは夫の澄んだ目を見て理解した。これ以上の言葉は不要であると。二人はただ融け合うように抱きしめ合い、そしてやがてゆっくりとその命の灯を消していった。


***


「・・・今、母が亡くなりました」

「テトラポリシュカが?」


 アルフィリースたちはラキアに乗って既にアルネリア近郊まで戻ってきていた。いつものように近郊の適当な森でラキアが人型に幻身し、アルフィリースたちと共にアルネリアに戻る途中だった。その際、突如としてウィクトリエが語り始めたのだ。

 だがウィクトリエの表情には悲しみの色こそ浮かぶものの、さほど動揺はしていないように見えた。


「意外と落ち着いているわね。どうしてわかるの?」

「魔術で何かあったら危機がわかるようになっていました。一つの可能性として十分ありうることだと頭では理解していましたが、いざ起こってみると・・・」

「何も感じない?」

「ええ、驚くほど」


 ウィクトリエは何も感じないことを逆に悲しく思っているように見えた。その様子を見て、アルフィリースが肩を優しく抱きながら告げた。


「母とは、随分と長い間思念で語り合うだけの間柄でした。いつも要件があれば私が片付け、動き回るのは私。頭を撫でられたのも、一緒にどこかに出かけたのも、もはやはるか遠い記憶の彼方です。それが私と母テトラポリシュカの、当たり前の母子関係でした。

 ですが禁呪の氷柱の中にいれば、どんな強靭な存在でも生命は削られる。わかっていたことですが、母の命が消えるその時がきたのかと」

「大切な人が亡くなった時は、後から実感がやってくるときもあるわ。死んだときはまず信じられなくて、そしてお墓の準備をしながら悲しくなる時もある。涙は何日も何か月も遅れてやってくるかもしれない」

「アルフィにも経験が?」

「師匠の時はね。それに、グウェンドルフの受け売りよ」


 アルフィリースは肩をぽんと叩くと、ウィクトリエから離れ際、さらに言葉を残した。


「貴女の家族はいなくなってしまったかもしれないけど、これからは私たちが――この傭兵団が新しい家族だわ。決して忘れないようにね」

「励ましてくれていますか?」

「事実を述べたまでよ。私はそういう傭兵団を作ってきたつもりだわ」


 アルフィリースはそれきりテトラポリシュカのことを話題にしなかった。だがウィクトリエは思ったのだ。おそらく自分が母と父の亡骸を見ることはもうないだろうと。今まで眠りについた時と同じように、彼らは永久の凍土で眠りについたはずだ。いつも彼らがそうしてきたように、きっと仲睦まじく永遠に眠ることだろう。一つ確実なのは、彼らはずっと幸せだったということだけだ。母であるテトラポリシュカは、死んでようやく本当の安息を得られたのかもしれないと、ウィクトリエは北を見ながら思いをはせていた。

 そして彼らはほどなくして傭兵団の宿舎に戻ると、残っていた者は目を丸くしてアルフィリースたちを出迎えた。なぜなら彼らが帰還することに関して、何の先ぶれもなかったからだ。宿舎の中から慌てて出てきたのはエクラである。彼女とコーウェンはあらかじめおおよそお事情を知っているものの、それでも気が気ではない様子だった。


「アルフィリース! 一体何があったのか説明はいただけるのでしょうね?」

「おいおいね。留守の間は変わりない?」

「ええ、大きな変化はありません。ですが他の者は――」

「無事よ、心配しないで。後から合流するはずだわ」

「お帰りなさいませ~」


 割って入った間の抜けた声はコーウェン。口調は相変わらずだったが、その表情はいつもよりも差し迫ったように見えた。その表情から、アルフィリースは状況を察した。


「エクラ、こちらはウィクトリエよ。彼女はこれからこの傭兵団に在籍するわ。大隊長格の待遇で迎えて頂戴」

「ええ!? いきなりですか!?」

「彼女の戦い方を見れば納得するわ。現在の私の傭兵団でも最強候補の一人よ。竜人のタジボ共々、案内してあげて。タジボはとりあえず賓客扱いね」


 矢継ぎ早に指示するアルフィリースを見て、いつものことだったかと諦めのつくエクラ。彼女といると、常に驚きと騒々しい毎日だということを思い出した。


「はあ・・・よく考えればいつもそのようなものでしたね。それではこちらへどうぞ」

「よろしくお願いします」

「お世話になりやす」


 ウィクトリエは小さくお辞儀をして、タジボは鷹揚に挨拶をしてエクラに続き、他の者も一度部屋に戻っていく。長旅の汚れもあるので着替えたいのは山々だったが、アルフィリースとコーウェン、それにリサ、ニアはアルフィリースの執務室に急いで入っていった。

 コーウェンが早速切り出す。


「アルフィリース、エクラから事情は聞きましたか~?」

「ええ、聞いたわ。ローマンズランドの件でしょう?」

「そうです~やはりこれは~」

「ええ、そうね。これは・・・」

「予想通りになりました~」

「予想通りになったわね」


 最後の言葉は、2人の口調が揃っていた。



続く

次回更新は、11/28(土)21:00になります。連日投稿です。

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