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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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快楽の街、その7~闇の小人③~

「時間停滞の魔術か」

「停止ではないが、体感時間では外部の数十倍の時間だろう。ここなら人目を気にせず話せる。さて、少し話をしようか」


 ユグドラシルは穏やかに告げると、岩の上に腰を下ろして敵意のないことを示した。ポルスカヤは変わらず警戒をしたまま立っていたが、戦いにならないことは予感していた。


「何をしに来た」

「言った通り、話をしにきた。お前の存在はとても重要だからな」

「それはアルフィリースに関わるからか?」

「そうだ」


 ポルスカヤは鼻白んだ。


「私そのものはどうでもいいわけか?」

「そこまで言っていない、アルフィリースが特別だというだけだ」

「同じようなものだ。そこまで御子というものは重要な存在なのか?」

「知らないのか?」


 むしろユグドラシルが呆れたような声を出していた。だがポルスカヤは鼻息荒く反論した。


「ああ、私の役目はアルフィリースの監視だ。最初こそ上手く融合、操作ができなかったため暴走が繰り返されたが、ある程度生活を共にするようになって精神の境界は安定している。だが精神の主導権は私の方が強く、私は彼女が物心つく前から成長を知っているが、面白い成長をしたとは思うものの、オーランゼブルが欲するような人材には思えない。優れた人材だとは思うが、あくまで人間の範囲内の話だ。どうしてオーランゼブルが危機に際して私が主導権を握り、守るように命じたのかはわからんままだ」

「だが、今ではお前もまた憎からずアルフィリースのことを思っている。違うか?」

「それは・・・」


 ポルスカヤは自分でも徐々に自覚していることを突かれて、言葉に詰まった。最初は確かにオーランゼブルの命令だったが、アルフィリースに稽古をつけることまでは命令されていない。アルフィリースの身を護ることだけを考えれば、何も訓練を付けてやる必要は一切なかった。

 ましてアルフィリースの精神を揺さぶるように命令されているのに、ラーナの妨害があったとはいえ最近では一切実行していない。理由はと言われれば、アルフィリースのことを気に入っているからとしか言いようがなかった。

 ユグドラシルは続けた。


「お前は自我が明確になりすぎたのだ。最初にお前が戦場で発生したころ、お前は意志を持たぬ悪意と憎悪の塊だった。自我を持ち他者にりつくようになっても、お前の本能は戦いにしか向かなかった。風向きが変わったのはテトラポリシュカなどの仲間を持つようになってからか。それでも根底にある憎悪は消えていなかったようだが、アルフィリースと生活するようになって完全に存在理由が変わったな。

 お前はその理由をわかっているのか?」

「随分と上からの物言いだな。お前はわかっているのか」

「想像の上では」


 ポルスカヤは考え込んだ。確かに理由はわからない。アルフィリースと生活するうちに確かに自分の無意識に変化が出ているのはわかる。だがその理由はわからないままだった。と言うより、指摘されて初めて自覚したというべきか。

 ポルスカヤはほとんど無自覚のままに聞きなおしていた。


「なぜだ? アルフィリースといることでどんな影響があったのだ?」

「本質の変性か、はたまた共感力の高さか・・・それこそがアルフィリースの本当の力なのかもしれないな」

「本質の変性だと? それは一体・・・」

「可能性の話だ。それより」


 ユグドラシルはすっとポルスカヤに向けて手をかざした。その意図を感じてポルスカヤがはっとする。今更気付いたのだ、ユグドラシルがどうしてこの場に現れたのか。


「お前、私を捕えるために来たのか」

「一口に言うのは難しいな。まず最初にお前という個人がどんなものかを見定めに来た。その結果、危険でなければそのままでよいと思った。そしてできれば穏便に済ませたい」

「それが上から目線だと言っている!」

「その通りだ。だから穏便にお願いするつもりだ」


 声を荒げたポルスカヤに、平静のままのユグドラシル。しばし間を置き、ポルスカヤも息を大きく吐いた。


「・・・一つだけ教えろ。お前はアルフィリースの敵か、味方か」

「味方だ」

「それは将来的にもか」

「それは知らぬ。だがオーランゼブルと俺は協力関係にはあるが、目指すところが基本的に違う。オーランゼブルはアルフィリースのことを自分の目的のための手段の一つと考えている。だが私の場合、おそらくアルフィリースが唯一の存在になるだろう。彼女がどのように成長するかで、おそらく私の思い描く未来は全くその貌を全く変えることになる」

「ならば、お前はこれからもアルフィリースに干渉を?」

「死なない程度にはな。私の干渉が過ぎると、それはそれで好ましくない結末になるかもしれない。その匙加減が難しくてな。だからお前の力が必要なのだ。これからもアルフィリースを守ってやってほしい」


 ポルスカヤが再び考えた。そして躊躇いがちに頷いていた。


「いいだろう。私もまだアルフィリースと共にいて悪い気はしていない。それに修行も途中でな。半端は好かん」

「無事かどうかは聞かないのか? ノースシールで別れたばかりだろう」

「ふん、簡単に死ぬような女か、あれが。どうせ無事に決まっているし、徐々に守ってやるような存在ではなくなりつつあるよ。だが一つ私の言うことも聞いてもらいたい。お前の願いを聞くのだからな」

「交換条件というわけか、いいだろう」


 ユグドラシルが面白そうな顔をしていた。自分に交渉を持ちかける相手は珍しいからだ。そしてポルスカヤは次のようなことを言った。



続く

次回投稿は11/24(火)21:00です。

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