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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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快楽の街、その4~賢者の独白③~

「オーランゼブル様、その女が仕掛けていた仕掛けを全て解除しました」

「ご苦労、ファーシル」


 オーランゼブルの前で恭しく礼をしたのは、オーランゼブルと同じく灰色の目、尖った耳をしたエルフの少年だった。彼は手にポルスカヤが作った使い魔を複数抱えていた。それらを無造作にぽいと捨てると、ファーシルはオーランゼブルの前に膝をついた。


「我らが長の手を煩わせるまでもありません。必要があれば私にお命じください。すぐにでも望み通りの形に分解してみせましょう」

「それは困るな、ファーシルよ。こう見えてまだ必要な存在なのだ、これは」


 ポルスカヤにとってこれは意外な展開だった。オーランゼブルには誰も信頼できる者がいないと思っていたのに、まさか助手がいようとは。しかも魔術士として、相当な力量を備えている。これは容易ならざることだと、ポルスカヤは己の油断を呪った。

 もはやポルスカヤは驚異にならぬと考えたのか、オーランゼブルは悠然と彼女の方に振り返った。


「とんだじゃじゃ馬だが、これの役目はまだ尽きておらん。今一度記憶を失い、アルフィリースの元に戻るがよい。ここでの出来事の記憶を、すべて忘れてな」

「・・・」

「抵抗するのか? それはできまい。お前の命運は私に出会った時に尽きている。何者でもないお前に名を与え、力の使い方を教えた。お前は自分の気の向くままに生きていたつもりだろうが、実際は私の手のひらの上で踊っていたのに過ぎないのだ」

「(・・・のか)」

「む?」

「(私を最初に見た時から、そのつもりだったのか)」


 驚いたことに、ポルスカヤが念話で話しかけてきた。念話を含めて一切の魔術が使えないと思っていたオーランゼブルには意外なことだったが、逆にまだ抵抗できるポルスカヤの存在が多少嬉しくもあった。予想外のことを腹立たしくもあり、かつては嬉しくも思っていたことを思いだるオーランゼブル。


「最初は・・・そうではなかったさ。ただ世に揺蕩うだけのお前を見つけ、名を与え、存在意義を与えることに楽しみとやり甲斐を見つけていなかったと言えば嘘になる。私はこう見えても賢者と呼ばれた存在だ。導くことには喜びを見出しているし、また義務でもあると考えている。

 だが私にはやらなければならないことができたのだ。そのためには一族や娘すら犠牲にしてきた。お前を犠牲にしない理由は、どこにもない」

「(・・・ふざけるな! 私をなんだと思っている! それなら最初から何も与えなければよかったんだ! そうすれば私は――)」

「なんと言われようと、謝る気はない、憐れみもしない。お前は、最初からこうなるのが最も良かったのだ」


 ポルスカヤは心の中で歯ぎしりをしながら、オーランゼブルの手がゆっくりと伸びてくるのを見ていることしかできなかった。それほどオーランゼブルの魔法は強力であり、また思念体であるポルスカヤには最悪の相性であった。

 ポルスカヤの反応が完全に消失したのを見ると、オーランゼブルは彼女に新たな命令を与えた。ポルスカヤが無表情のまま何度か頷いたのを見ると、オーランゼブルは彼女を解放した。そしてその場に再度座り込んでいた。


「ふう・・・多少なりとも肝が冷えるのは、何年ぶりかな」

「お疲れさまでした。しかし、よろしかったのでしょうか」

「何がだ?」

「『縛り』が少々緩いように感じましたが」


 ファーシルの指摘はもっともだった。オーランゼブルが魔法で与えた命令は実はそれほど複雑なものではない。アルフィリースとポルスカヤが特定の条件下に陥った場合に強制的に取らせる行動と、禁則事項をいくつか加えただけである。

 だがオーランゼブルはファーシルの意見を否定した。


「いや、あれでよいのだ。あまり命令事項を多くすると、魔法の持続時間が短くなる。これから先、私が好きな時にあれに会いに行けるとは限らぬ。アルネリアの結界は強化されているし、さしもの私とて誰にも悟られずに侵入し、そして脱出することは難しいのだ。アルフィリースの周りにも真竜が何体かいるし、アルネリアの外であってもそう簡単に彼女に干渉することはできん。

 それにアルフィリースとは何度か会っただけだが、かなり聡い人間に成長しているようだ。さすがは私を出し抜いた人間の弟子、というところかな。あまりポルスカヤの反応が妙だと、気付かれてしまうかもしれないからな」

「なるほど。あえて、ということですか。私が浅慮でありました」

「まぁ、これくらいが妥当な方法であろう。さて、妙な闖入者のせいでいらぬ手間を食ったが、壊れた工房の修復は任せてよいか?」

「もちろんでございます。長様は、あの部屋へ?」

「うむ、中心式の場所に向かう。バイクゼルの覚醒で、不具合が生じていたからな。また完全には直っていないかもしれん。全く、アノーマリーは余計なことをしてくれたものだ。どうりで最近妙に式が乱れることが多いと思っていたら、まさか外部からそのような干渉をしているとは。だがアルドリュースの奴に一度邪魔されたのが良い経験になっておるわ。お蔭で修復の方法を考えるのに、以前ほど手間がいらぬ」

「確かにそうですね。私もお手伝いしますか?」

「いらぬよ。それより念のため周囲の警戒をしてくれ。他に誰かがここに近づくようなことがあれば、この工房の場所が知られてしまうかもしれん。それだけは避けねばな」

「はい、お任せを」


 ファーシルは恭しく礼をしてオーランゼブルの退出を見守ると、足早にポルスカヤが壊した結界や工房の修理に向かった。そして誰もいなくなった部屋で、一つの影が形を結ぶ。それはドゥームの分身ともいうべき、小人位の大きさのドゥームだった。



続く

次回投稿は、11/19 (木)22:00です。

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