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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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快楽の街、その1~戦いの知らせ~

「ラキア、詳しい話を」


 ラキアの言葉に、アルフィリースは表情を引き締めて問いかけた。誰もが容易ならざる話だということはすぐにわかったが、その本当の脅威をこの瞬間に把握していたのはアルフィリースただ一人だったかもしれない。

 だがラキアの話もまた詳細は不明だった。


「すまない、私も詳しくは知らないんだ。私はいつものように一人でぶらりと空を飛びまわり――」

「賭場ではなくて?」

「それも行ったが――そうじゃない! 真面目な話だぞ、リサ」

「和ませようとしたのに」

「リサ、ちょっと黙っていなさい」


 アルフィリースのいつになく真剣な表情に、リサも渋々沈黙した。ラキアは続ける。


「マイア姉さんのところに、凄い数の使い魔が来ていた。マイア姉さんが放った使い魔だけではなく、おそらく各地方の力のある精霊や、あるいは竜や魔女などでもあったのかもしれない。とにかく、彼らが告げていたのはローマンズランドの大侵攻だった。使い魔の報告はどれも要領を得ないものだったが、恐ろしいことが起きていることだけはわかった。

 同時に、アルネリアから使いがきた。アルフィリースに頼みたいことがあると言っていたので、コーウェンとエクラが要件を聞いたところ、やはりローマンズランドに関することだった。一度返事を保留にしてアルフィリースの意見を聞くことになったが、アルフィリースの行方を知っている者は誰もいなかった。当然だ、私以外の誰もノースシールから帰っていないんだ。アルフィリースはいつ帰るのかと聞かれたが、答えようがない。

 そこあでノースシールでアルフィリースたちが消えたことを伝えると皆の顔色が変わったが、手掛りが何も見つからない。私はラインのところとアルネリアを行き来してるうちに、ラインが残った連中をまとめて、一度帰還することになったんだ」

「なるほど。そこに私の使い魔が来たと」

「そういうことだ。聞けば、西側にいるというではないか。私はブローム火山に全力で飛んできたが、そこでここにアルフィリースがいると知らせる使い魔がいた。その使い魔の指示でこちらに来たのだ。

 あの白く、威厳すら感じる使い魔の主は誰だ、アルフィ。相当力のある魔術士と見たが、人間にあのような者がいるのか?」

「オリュンパス教会一番の魔術士よ。ラ・フォーゼと言うらしいわ」


 ラキアは唸っていた。


「う~む、あれほど力のある魔術士が存在しているとはな。本当に人間なのか?」

「そうだと思うけど」

「純粋な内臓魔力では真竜よりも遥かに上だぞ? そんな人間がいるものかな」

「事実よ。まずはそれを受け止めないと」

「あの~いいすか?」


 突然タジボが割って入った。どうやら気になることがあるらしい。ラキアは一目でタジボの正体を見抜いていた。


「そなたは、ブローム火山の火竜か?」

「はい、タジボと申します。そちら様は真竜の方でいらっしゃる?」

「ラキアという。天空竜マイアの妹だ」

「天空竜! 真竜の長グウェンドルフの義妹の妹でいらっしゃる。これは失礼いたしました」


 タジボがいきなりかしこまったので、ラキアは慌てて止めていた。


「よしてくれ、私はそんなに大した者ではない」

「そうそう、ただの博打好きの借金竜です」

「そんなに負けてない!」

「あれから何回エアリーに身ぐるみ剥がれたかバラされたいですか? エアリーが金に執着しないから無事に済んでいますが、正式に取り立ててればあなた、ターラムで100年は身請けをしないと返せませんよ?」

「うっ、わかった、わかったから。それ以上言わないでくれ」


 ラキアに悲壮な色が浮かんだので、タジボは目をぱちくりさせていた。どうやら真竜が人間にやり込められるとは思ってもいなかったのだろう。人生で最初に出会った真竜がラキアだったのは、間違いかもしれない。

 だがそんなある意味緊張感のない場ですら、アルフィリースの表情は渋かった。リサが気づいて再度話題を戻す。


「アルフィ、それほど深刻な話ですか?」

「ええ、とても深刻だわ」

「私はそうは思いません。そもそも、多方面に当時侵攻する軍隊の数を正確に数える方法がありません。50万は大袈裟。せいぜい20から30万でしょう。ローマンズランドは軍事大国ですが、50万となれば全軍以上の数です。その全てを攻めに使うなど、在り得ない。

 仮に50万の軍勢が本当だとすれば、ますます我々には関係がない。そんな大規模な戦いに駆り出される謂れがありませんからね。人間同士の戦争など、放っておけばよいのです。我々にはもっと大切なことがある。そうでしょう?」


 リサの言葉はもっともだったが、アルフィリースは首を横に振った。


「いいえ、リサ。それは違うわ。まず初めに、今回の戦いはおそらく歴史でも類を見ないほどの大規模な戦いになる可能性がある。この前私たちが参加した小競り合い程度の戦争でも、有名な傭兵団が多数参加したわ。平和になってしまったこの大陸で、傭兵たちは多くが仕事となる場所を探している。戦場はその最たるものだわ。この戦いに参加しないとなれば、現在の仲間たちにも傭兵団を離れる者が出るでしょう。参加しないという選択肢は、ありえないのよ。

 それにローマンズランドのアンネクローゼ王女と私は親交があるわ。彼女を無視したら、以後我々に来る依頼は減るでしょうね」

「ではローマンズランドの側につくと?」

「それはまだわからない。詳しい情報を得てから、最終的には決めるつもりよ。だけど、もう一つ気になるのは、きっと今回の一件には黒の魔術士が絡んでいる。ラ・フォーゼの忠告はきっとこれのことだわ。それに使い魔も間が良すぎたことも気になる。私たちは望むと望まざるにかかわらず、きっとこの戦いに参加せざるを得ない。ならば考えることは一つ。いかにして戦い、いかにして生き延びるか。そうじゃない、リサ?」


 リサはアルフィリースの言葉をしばし考えていたが、ふうっと大きくため息をついた。


「しょうがないですね、デカ女。いかにして勝つか、と言わないあたり、冷静さはあるようです。貴女の言うことにも一理あります。まずは情報収集をしましょうか」

「そういうこと。ラキア、貴女の背中に全員乗れる?」

「乗れるけど、速度を出すと危ないからゆっくり飛ぶことになるわ。アルネリアに到着するまで、数日かかるかもよ?」

「しょうがないわ。できるだけ急ぎでね」

「本当は嫌なんだけど、アルフィとの契約だものね。しょうがないか」


 ラキアはやや不満げな顔で真竜に戻ると、全員を背中に乗せるように促した。驚いたのはウィクトリエとセイト、タジボであるが、改めて彼らもアルフィリースと共にいることがどういうことになるのか、理解し始めていた。



続く

次回投稿は、11/13(金)22:00です。

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