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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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黒の巫女、白の巫女、その29~ただ一つを求める者⑦~

「戻ったようだな」

「ええ、無事に会えました」

「どうなった?」

「想定した状況の中ではもっとも順調でしょうか。数刻後には彼女たちと合流して脱出します。隊長も今のうちに休まれては? 首尾よくここを脱出できたとしても、神将たちに追いかけられれば激戦の連続になると思いますが」


 傍ではゼルドスとベッツが持ち込んだ酒瓶を片手に、大いびきをかいて寝ている。先ほどまで昔話に花を咲かせていたのだが、酔ったところで寝てしまったようだ。こんな状態でも戦闘が近づけば一瞬で起きるから、不思議なものだ。

 グロースフェルドとヴァルサスは視線を互いに戻し、ヴァルサスはそっと本を閉じた。


「では言葉に甘えさせてもらう」

「どうぞ。私も準備だけしたら少し眠ります」

「頼むぞ、お前が要なのだからな」

「わかっていますよ。でも私がいなくても、団長ならなんとかしそうだから不思議なものです」

「買い被りだ。剣士が魔術士をどうこうできるなど、彼らに油断がない限り無理だ。それよりいいのか。彼らはかつての部下だろう? オリュンパスの大司教どの」


 ヴァルサスの言葉にグロースフェルドは苦笑した。


「立場など、彼らの中ではあまり意味を持ちません。神将たちはそれなりに私を尊敬してくれましたが、神官、修道女たちには疎んじられたでしょうね。むしろ、私が敵であるとわかれば嬉々として殺しに来るのではないでしょうか」

「戦う覚悟はあるのか?」

「――どうでしょうね。できれば殺したくないというのが本音です。我が兄弟子どものようにかわいがった面々も、それなりの地位についているようだ。ただ、白の位階が出てきたら覚悟してください。私の全力でもってしても相手になるかどうか」

「やはりこの宮殿を出るまでが勝負だな。まぁ、なんとかなるだろう」

「本当にうちの団員たちは肝が太い。あなたも、この二人も。私ほど大胆な人間はそういないと思っていましたが、さすがに自信がなくなりましたよ」


 グロースフェルドはまた苦笑していた。責任ある立場にいたせいでそれなりに笑顔などは得意だが、苦笑するのはブラックホークに来てからだ。だがこの傭兵団に所属するようになってから、グロースフェルドの日々は満ち足りていた。かつてグルーザルドと戦い、傷ついたヴァルサスと出会ったのはまさに運命に感謝すべき出来事だったと思う。たとえ彼のせいでそれまでの全てが失われたのだとしても、ブラックホークの面々と過ごす日々はかけがえのないものだった。


***


 深夜。アルフィリースはグロースフェルドに言われた通り仲間をそっと起こすと、旅立ちの準備をして音がしないように部屋の扉を外に押し開けた。見張りがいると思われていた入り口は、全くの無人だった。それどころか周囲には魔術も含めた、一切の気配がなかった。

 リサに確認をさせたうえでアルフィリースが扉を押し開くと、そこには手に乗るサイズの半鳥半人の使い魔がちょこんと座っていた。愛嬌のある顔をした彼は、アルフィリースを認識すると慌てて立ち上がり、慣れていない様子の礼をした。そして飛びながら彼女たちを案内するつもりなのか、一本の紐を取り出し、それを全員で握って一列で歩くように指示したのだ。

 アルフィリースたちは使い魔に続く。不思議なことに、歩きながら彼らはふわふわした感覚に包まれ、突如として目の前の光景が切り替わることがあった。それは暗闇に入ると必ず行われる。アルフィリース達は光景が切り替わるたびに酔うような感覚に襲われたが、それでも歩みは一定の速度で歩き続けた。


「これは魔術を使っているのか?」

「『影歩き』というやつですね。隠形の術の一種ですが、とても高度なやり方です。気配を消しながら、同時に短距離の転移を行う。影を歩いている間は狭間の世界にいるとも言われ、一歩踏み外せば二度と元の世界に戻れないそうです。その分魔術の気配がほとんどないので、見つかりにくいですが」

「怖いことを言うなよ、ラーナ」

「そのための紐ですよ、ニア。それでもこれだけの高度な術を、これだけ連続して使い魔に行わせるなんて・・・その神官は何者ですか?」

「ブラックホークでは変態神官扱いだったけどね。イル、危ないらしいから紐を決して離さないでね」

「はーい、ママ」


 イルマタルは既に元の姿に戻っていた。寝て起きると元に戻っていたのだが、どうやら幻夢の実は効果もそれほど長続きしないらしい。だが、懐に多くの実を隠し持っていたイルマタルがさらに口にしようとしたので、アルフィリースは慌てて止めた。

 イルマタルは成長した姿を気に入ったようだが、あまり見せびらかすものではないと考え、アルフィリースは幻夢の実をイルマタルから没収したのだ。イルマタルがふくれっ面をしたが、アルフィリースは頑として譲らなかった。その代りに携帯していたお菓子で機嫌を直すあたり、まだまだイルマタルも子どもだった。

 影歩きを繰り返して酔ったように気分が悪くなりかけた頃、彼らはある部屋の前に到着した。すると部屋の扉が開いて、招き入れる者がいた。


「お待ちしていましたよ」

「ここまでは上手くいったようね」


 部屋の中にはグロースフェルドだけでなく、ヴァルサス、ベッツ、ゼルドス。それにレイヤー、タジボ、セイトもいた。



続く

次回投稿は、10/29(金)23:00です。

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