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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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黒の巫女、白の巫女、その14~火の山⑦~

「――活気がないわね」

「元々数も少なく、年長の竜が多いのだ。我々が最も若い竜になる」

「新しい竜はいないの?」

「ここ数百年生まれていないな。他の集落ではそうでもないが、ルージュの一件があってからは父も母も塞ぎがちになってな。それでこの体たらくだ。そもそも卵を産めるような若い雌がルージュ姉だけだったのもある。

 それとこれとは今回関係はないが、父もルージュ姉の一件以降、いまいち厭世がちでな。母も亡くなってしまったし、今回のことももっとはやくどうにかできたとは思うのだが」


 スヴァルの言葉は半ば以上愚痴に聞こえたが、アルフィリースには竜の事情はどうすることもできない。そうこうするうちに、一際大きな洞穴の前にアルフィリース達は到着した。入り口には先ぶれに出たぺルンが仏頂面で立っている。


「族長がお会いになるそうだ」

「お体の加減はよろしいのか?」

「そうも言っていられないとさ。久しぶりに親父殿が体を起こしているよ」


 ぺルンの言い草からはあまり父親に対する敬意のようなものは感じられなかったが、アルフィリースたちは促されるままに奥へと入っていった。そこにいたのは、体を横たえながらも頭を起こし、好戦的とされる火竜には似つかわしくない穏やかな眼をした火竜だった。

 火竜は元々巨躯の竜だとは聞いてはいたが、グウェンドルフよりも二回り以上は大きいだろう。立派な角と牙を備えてはいるものの、その体には生命力があまり感じられなかった。そして何より、その目は既に輝きと色を失いつつあった。


「眼が――見えないのね?」

「察しの通りだ、人間の客人よ。このような態勢で無礼を許してほしい。もはや幻身も、体を存分に起こすこともままならなくてね」


 老いた火竜はゆっくりと話し始めた。


「族長のウンブラだ。愚息たちがご迷惑をおかけした」

「本当に。互いに傷がなかったのは幸いだわ」

「まことに。お詫びと言ってはなんだが、君たちの望むものをこの集落から持ち出すと良いだろう。火竜は武器職人でもある。ブロームの地はかつて、武具を鍛える地として名を馳せた。ドワーフたちが去って久しいが、残っているもので使えるものがあれば、持っていかれるがよかろう」

「なら、そうさせていただくわ。でも、本当の目的はそうではないでしょう?」

「――もちろんだ。わが娘、ルージュに何があったか聞かせてもらえるかな?」

「もちろん。それが彼女との約束ですから」


 アルフィリースは沼地でサーペントに聞いたことを語り始めた。ドラゴンゾンビとなってもサーペントのことを慕っていたルージュのこと。そして最後に彼女の魂は救われたこと。そして一族に対する思いも。気づけば、周囲には幻身した他の火竜たちも集まっていた。皆老齢ではあったが、話があることを聞きつけていたらしい。ただ静かに、彼らはアルフィリースの話に聞き入っていた。

 アルフィリースの語らいは長くはなかったが、話を聞いた火竜は多くの者が涙していた。もちろんウンブラも。


「そうか――娘は満足した生であったか。火竜としては愚かではあったが、雌としては幸せであったろうか」

「そこまでは私にはわからないけど。私の話、信じてくれる?」

「無論だ。虚言があれば、小手に宿ったルージュの魂が異常を訴えるだろう。それに真竜の小手を託され、今も真竜の子どもにそれほど慕われる者が嘘をつこうはずもない」

「真竜の娘?」


 ウンブラの指摘にぺルンが驚嘆したが、同時にイルマタルが術を解いて姿を現した。ぺルンは今の今まで気づいていなかったらしい。それはタジボもスヴァルも同じだったが。

 ウンブラはゆったりと息子たちを諭した。


「この目は光が見えぬ分、他のものは良く見える。見事な術の使い方。幼くとも真竜よな」

「へへへー。ありがとうね、おじいちゃん」

「なんのなんの」


 イルマタルの微笑みに、ウンブラが相好を崩した。子ども好きする性格なのかもしれないとアルフィリースは想像していた。

 そしてウンブラは続ける。


「さて。せっかくの話を聞かせてくれたのに申し訳ないのだが、老体にはいささか刺激の強い話でな。考え事もしたいし、少々時間をくれないか。今宵はこの集落に逗留されるがよかろう。お主たちの安全は、このブローム火山にすまう火竜の族長の名にかけて、ウンブラが保証しよう。その間に、タジボあたりから事情を聞かれるがよろしいだろう。タジボ、状況を説明してさしあげろ」

「あいよ」


 ウンブラが目を閉じたゆっくりと体を横たえたので、アルフィリースたちはタジボに促されて別の洞穴に移動した。そこはウンブラの洞穴よりも光が多く、中も小奇麗にされていた。タジボに促されるまま、アルフィリースたちはそこに座る。


「俺の穴倉の一つです。主に接客用に使っているので、綺麗にはしてあるつもりです」

「接客・・・ああ、フェニクス商会の」

「その通り。商魂たくましい獣人たちはここまで出向いてきますからね。今じゃそれも無理でしょうが」


 タジボは再度お茶を運ばせると、事情を説明し始めた。スヴァルもぺルンも、その場に同席していた。



続く

次回投稿は、9/29(火)11:00です。

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