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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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黒の巫女、白の巫女、その12~火の山⑤~

 そうしながらもアルフィリースたちは道を進む。道と言うよりは荒れた山肌を歩くだけで、ごつごつした岩以外はほとんど何の変哲もない光景が続く。時に間欠泉が吹き出す以外は、ほとんど魔物らしい魔物も見ない。いたとしても、彼らからこちらに攻撃を仕掛けるようなことはまずなかった。


「・・・おとなしいですね」

「食べるものが少ない以上、もっと襲われることを警戒していた。実際、偵察の途中では何度も襲われた。強くはないから問題なく退けれるけど、体表が固い生物が多いから厄介」

「こちらが集団だから警戒しているのでしょうか」


 ルナティカの感想に対するリサの予想は、半分合っている。他にはレイヤーの持つ幻獣の剣だったり、レイヤーあるいはセイトの放つ殺気に恐れをなしているとは、リサも考えついていない。

 それからしばし歩いたところで、多くの者が違和感を覚える。そしてリサの歩みが止まることで、一斉に全員が臨戦態勢に入った。


「敵ね?」

「少なくとも、向こうはそのつもりかと。我々の進路と真正面からぶつかります。数は三体。四足歩行で、ロゼッタくらいの体高があるでしょうか」

「避けれる?」

「無理ですね。進路を少しずらしたのに、こちらの方にわざわざ合わせてきました。やる気満々のようです」

「しょうがないわね」


 アルフィリースが剣を抜こうとしたが、レイヤーがそれを制した。


「団長が戦うには及ばない。さっき約束した通り、アルネリアに帰るまでこの面子の前では戦っていいのでしょう?」

「そうね。そういう約束にしたわ」

「ならばまずは僕が。手に負えなかったら頼みます」

「・・・いいわ。なるべくなら殺さないように。血の匂いは他の敵を呼ぶわ」

「努力します」


 アルフィリースの命令を受けて、レイヤーが前に出た。ほどなく目の前に現れたのは、大きな甲羅を背負った、首の長い亀のような生き物。双頭の頭からは、ちろちろと火が覗いていた。眼は赤く爛々と光り、アルフィリースたちをしばし観察すると戦闘開始を告げるように鳴いた。


「クォォォン!」

「やる気満々だね」


 レイヤーが前に出ようとしたその瞬間を狙い、火で熱せられた岩が口から放たれた。レイヤーは横に素早く躱すが、着地点を狙うように三体、六個の頭から次々に熱せられた岩弾が放たれる。


「知性があるのか」

「(おい小僧、知恵を貸そうか?)」


 シェンペェスがレイヤーに語り掛けるが、レイヤーは否定した。


「(この程度の相手なら必要ないね。ただ素手で触るのは熱そうだ。君の力を借りるとしようか)」

「(ならついでの幻獣の剣の力も借りておけ。何も、剣を振るわなくとも力を使うことはできる。氷の加護ってやつだ)」

「(なるほど)」


 具体的なイメージがレイヤーの頭の中に浮かぶ。レイヤーはシェンペェスの助言を得ると、岩弾をかわしながら敵の死角に回るように動いた。見た目どおり、敵はそれほど速く動けないらしい。

 敵の周囲を円を描くように動きながら、レイヤーは間合いを距離を詰めると、一気にその距離を潰すように動いた。


「速い!」


 周りがあっと思う間もなく、レイヤーはシェンペェスで敵の甲羅、頭皮、尾に斬りつけた。だが尾の皮膚が薄く裂けただけで、それ以外にはシェンペェスの強度をもってしてもまるで傷がつけられない。


「(固いな!)」

「しょうがないね」


 レイヤーはシェンペェスを収めると、素手で敵の尻尾を掴んで振り回した。魔物の巨体が唸りを上げて振り回され、もう一体の魔物にぶつかって仰向けにされる。そして残った一体の下にレイヤーは素早く潜りこむと、気合と共に魔物を持ち上げ、青天井にしてしまった。魔物は四肢をばたつかせたが、甲羅が大きいため元の体制に戻るのにはかなり難渋するようだ。口から岩弾を吐くどころではないらしい。


「これなら抵抗できないかな」

「むぅ、ちょっと信じられない力ですね」

「凄まじい力だな。彼は大地の精霊にでも祝福されているのか?」

「いえ、そんな気配は今までなかったのですが・・・」

「ここまでの力を隠していたのか」


 仲間たちは驚きを隠せなかった。レイヤーに剛力が眠っていることを知っているのは、ルナティカくらいのものだ。そのルナティカでも、まさかここまで大型の魔物を振り回すほどに力があるとは思っていなかった。魔術の補助なくこれだけの怪力を発揮できるのは、まさに異能といっても差し支えない。戦いを許可したアルフィリースでさえ、目を丸くしていた。

 アルフィリースの方を向き直ったレイヤーは、いつもの調子で声をかけていた。


「団長、これでいいかな?」

「あ、ええ。十分だと思うわ。では先に進みましょうか」

「そうはいかん!」


 アルフィリース達が再度進もうとした途端、一段高い場所から制する声がかかった。鋭い声のした方を見ると、そこには赤い鱗の竜人が憤怒の形相でこちらを見下ろしていた。


「竜人だと?」

「ミュスカデ、彼らがこの土地の管理者なの?」

「ああ、確かにそう聞いたことがある。私も以前は連れてこられただけだから、彼らには直接会ってはいないがな。だが竜人は好戦的といえど多くは竜の眷属であり、人間よりも知性、体力共に秀でた存在だ。その分数は少ないから、魔女のように自分たちに縁のある土地でひっそりと暮らすことが多いのだが」

「完全に敵視されていますよ。すごい殺気です」


 リサがひそひそと囁く。竜人がいるとなると、先ほどの大亀も大方彼らがけしかけたのだろうと予想はつく。現に竜人は仰向けになった亀に向けて、手にした槍をくるりと回すことで消し去ってしまった。どうやら使い魔として召喚されたか製作されたものらしい。

 使い魔の強さで、術者の能力を測ることができる。ミュスカデの険しい表情を見る限り、竜人は術者としても魔女よりも下手をすると上である可能性すらある。

 アルフィリースは困惑しながらも、竜人に問いかけた。


「えっと、私たちはこの土地に迷い込んだ者です。早々にこの土地を去るつもりではいますが、このように一方的に攻撃を仕掛けられる謂れはないと考えますが?」

「・・・とぼける気か、人間。その手につけた手甲はなんだ! その手甲は真竜の鱗から作り出したものだな。そしてその手甲に一部宿るのは火竜の意志――我が姉のものだ! どこでそれを奪った!?」

「姉・・・え?」


 アルフィリースは自分の手甲のいわくを思い出していた。そうだ、確かにこれはグウェンドルフの鱗を加工したものだが、それに加護を加えたのは・・・


「待って、誤解しているわ――私は」

「問答無用! 誇り高き真竜が、人間に自分の一部を分け与えるわけがなかろう! ましてブローム火山の火竜の一族は自分の体を分け与える時、それを家族の契りとする。だが俺たちはそんな話は聞いておらぬ! 卑しい盗人め、罰を受けろ!」


 アルフィリースの言葉も空しく、槍を構えた勇ましき竜人はアルフィリースめがけて飛びかかってきた。



続く

次回投稿は、9/25(金)12:00です。

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