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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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封印されしもの、その120~テトラポリシュカ21~

「教官、いや、アルフィリースに一つ頼みたいことが。わが娘、ウィクトリエのことだ」

「勝手に頼まれても困るがね」

「嫌と言えば、この場で私は魔眼を暴走させる。そうなれば、さしもの教官も無事ではすまいでしょう? それに、そんなことになれば、アルフィリースの信頼は地に落ちるはずだ。違いますか?」

「ちっ、狡いことだけは覚えよってからに。まあよかろう、聞くだけ聞いてやろう」

「ええ、聞いてもらいますとも」


 テトラポリシュカはウィクトリエの表情をちらりと見たが、既に彼女は覚悟が決まっているようだった。こうなることは、ずっと前から言い聞かせてきたことだ。やはりこの時が来てしまったが、思ったよりは後になった。それが母娘の同じ思いであった。


「ウィクトリエの魔眼についてです。この子の魔眼は特殊で、自分の魔眼は一つしかありません」

「多目天としては、非常に脆弱な部類に入るな」

「ええ、最低二つは魔眼を持つのが我らが種族ですから。最初は夫が人間ゆえと思いましたが、その一つが非常に特殊。この子の魔眼は、他の魔眼を吸収するのです」

「ほう?」


 影が興味深そうな声を出した。様々な魔眼を見てきた経験がある影だが、他の魔眼を吸収する魔眼とは初耳である。だが同時にその欠点にもすぐに気付く。


「だがそれほど便利な能力となると、かなり使用方法が制限されるはずだ。いかに便利とて、使いたい放題ではないだろうからな」

「おっしゃる通りです。一つには、奪う相手の合意が必要なこと。そして奪う数には限りがあること。そしていくつ魔眼を持っていようが、発動できるのは一度に一つ。現在わかっているのはそのくらいでしょうか」

「なるほど。ではどの魔眼を継承させる気なのだ? 全部できるわけではないのだろう?」


 影の問いかけにテトラポリシュカは無言で返した。その様子で、影も、アルフィリースも同時に事情を察していた。


「・・・なるほど、その暴走する魔眼を継承させるのか。というより、それしかできなかったのか」

「はい。なので、ウィクトリエには彼女を見守る者が必要なのです。今までは私がいましたが、これからは彼女を必要に応じて止めることのできる存在が必要になる」

「その役目をアルフィリースに、あわよくば私にさせたいと言うのか。なんとも図々しい申し出よな」

「見返りはあります。このウィクトリエを傍に置けば、アルフィリースの戦力にもなりましょう。事情は聴きました。いかなる理由かはわかりませんが、伝説の賢者オーランゼブルに対抗するには、ウィクトリエも必ず必要になるかと」

「戦力としては確かにそうかもな。どれ、アルフィリースにも聞いてやろう」


 影は意識の中にいるアルフィリースに話しかけた。しばしの沈黙が周囲に流れる。だが結論は思いのほか早かった。


「・・・まあ、なんとなく想像できた答えではあるが」

「了解してくれたでしょう?」

「即答だったよ。さすがに剛毅な女よ。必要とあれば、自分がウィクトリエを手にかけることまで考慮して返事をしている。だがアルフィリースが伝えてくれと言うにはな、『部下としてではなく、食客として、友人として私の傭兵団に居候しないか』だと。全く怖い女だ」

「ふふ、確かに怖いですね」


 ウィクトリエはその言葉の意味をわからなかったが、影とテトラポリシュカは理解していた。部下でないということは、必要に応じていつでも切り捨てることができるということだ。ウィクトリエがいることで団に損害が、あるいは不要と感じたらルナティカやその他の方法で始末しても、傭兵団イェーガーの結束には何一つ関係ない。そう二人は理解していた。

 ただアルフィリースの考えは少し違った。狩猟民族の長であるウィクトリエなら、兵を預けて独自に動かした方が良い働きをする可能性があったのだ。自分の意図の元だけでなく、自分と肩を並べて動ける指揮官。アルフィリースが欲した人材はまさにそういった人物だったのだ。

 ともあれ、アルフィリースの同意を得られたテトラポリシュカは、自らの魔眼の継承をウィクトリエに行った。継承と言っても大したことを行うわけではない。自らの胸にある魔眼にウィクトリエの手のひらを当てれば、ウィクトリエは魔眼の能力を継承できるのである。ウィクトリエの額にある瞳が怪しく光ると、吸収したことが影にもわかった。


「簡単なものだな」

「両者の合意の元に行うものですから。力の吸収自体も魔眼が行いますし、儀式的なものは何も必要ありません」

「なるほど」


 影が納得した時、その場に場違いな鴉が入ってきた。地下に鳥が潜ってくるはずもないことは明らかで、アルフィリースには見覚えのある鴉だった。ライフレスの使い魔である。

 使い魔は三人に割って入るように優雅に着地すると、急いているかのように話し始めた。


「ここにいたか! ドゥームの奴はどうした」

「ドゥーム? いや、見ていないが」

「奴め・・・人に働かせるだけ働かせておいて、さっさとこの場から去ったのか。この失態は奴の命で償わせるとして、非常にまずい事態だ。すぐに地上に上がって来い!」

「何があった?」

「真竜の群れだ! しかもこちらに敵意が満ちている、な。オーランゼブルの奴め、ティタニアや俺すら信用していなかったのだ。あんな隠し玉があるなら、俺たちなど必要なかったろうに。とにかく急げよ。いつでもやつらはこの工房に対して攻撃する構えだ。俺の停滞している魔法に奴らのブレスが直撃したら、この工房はひとたまりもないぞ」


 それだけ言うと使い魔は崩れ去り、後には重い静寂だけが残った。三人は顔を見合わせると即座にその場を離れようとしたが、テトラポリシュカは既に一人で立つこともままならない状態だった。



続く

次回投稿は、8/20(木)14:00です。

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