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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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封印されしもの、その118~悪意を継ぐ者④~


***


「やあ、ケルベロス。見張りをご苦労さま」

「ワ、ワォーン・・・」

「さ、寒いべっ!」

「危うく凍死するところだっただ!」


 地表に転移したドゥームを待っていたのは、アノーマリーがかつて作ったオークとポチの合成獣、ケルベロスだった。ドゥームが万一に備えて転移の拠点を守らせていたのと、地上で異変があったら伝えるように監視として残していたのである。周囲には監視用の巨眼族と、何体かのバーサーカー型のヘカトンケイルがいた。これらはアノーマリーではなく、クベレー自らが工房の機能を使って作り出した個体である。

 さらには傍にリビードゥ。城を作製した拠点からも彼女を離し、地表との連絡をさせるために今回は連れてきていた。無理に拠点から引きはがされたリビードゥは不満顔だったが、空の一点を見つめるとドゥームに報告した。


「さっき念話で連絡した通りよ。あれだわ」

「なるほど。確認はしていなかったが、やっぱりそう来たか」

「予想してたの?」


 ドゥームは返事の代わりに一度目を閉じて肯定とした。


「ああ。エクスぺリオンの使用場所――君に渡していた数よりも、明らかに作っていた数の方が多い。あんなものどこに使うのかと思っていたけど、オーランゼブルがあまりに真竜の対策をしないのでね。もしかしたらと思っていたんだけど」

「既に真竜には何の対策も必要なかったということ?」

「そう考えてよさそうだ。僕の友達もその可能性を教えてくれたしね」

「友達? 誰?」

「内緒」


 ドゥームは無邪気な表情でそれだけ告げると、不可思議な顔をするリビードゥを尻目に、オシリアを座らせて目の具合を見た。思ったよりも傷は深い。


「オシリア、再生は無理かい?」

「いえ・・・徐々に塞がっている感触はあるわ。そもそも、悪霊に傷なんていう概念はないから、これも私の想像力の問題なのですけど。まさかあまりの殺気と剣筋に、斬られたことを自覚させるなんてね。恐ろしい剣士だわ」

「確かに。侮れない人材が育っているね」

「姐さん、傷を負っただべか?」

「どこのどいつだっぺ、うちの姐さんを傷物にしたのは!」


 ドグラとダグラの頭が憤慨して吠えたが、オシリアはうるさいとばかりにケルベロスを吹き飛ばした。悲鳴を上げながら雪面を転がり落ちるケルベロス。ポチの悲しい泣き声が雪原にこだました。

 オシリアが傷を負ったことを知ると、リビードゥが途端に態度を変える。


「はっ、ざまあないわね。誰にやられたの?」

「・・・あなたには関係ない」

「その調子じゃあ名もない小者が相手ってところね。相手を侮るからこういうことになるのよ、いい気味だわ」


 オシリアはリビードゥをくびり殺したい気分になったが、睨む目もないためぐっと我慢していた。リビードゥにしてみれば、自らの王たるドゥームをいつもいいように嫐るオシリアが気に食わない。この二人の相性は最悪であるため、ドゥームもできるだけ接触させないようにはしているのだが、今回ばかりはしょうがなかった。

 そしてドゥームはもう一つ気になることを、雪原を這い上がってきたケルベロスに聞いた。


「で、他の工房にいたアノーマリーの分身はどうなの?」

「クベレーからの連絡だと、突如として全員が崩れたみたいだべさ。それぞれが自立した個体と言っても、経験を共有する能力を付加した以上本体となる個体がいて、他の分身は本体に依存する――ってのがクベレーの結論だったべか」

「んだんだ。そんで実際、全ての工房でアノーマリー様の分身が崩れていなくなったらしいべ。クベレーの理論は正解だったんだべなぁ」


 ダグラとドグラがうんうん、と頷いていた。ドゥームもまた同意するように頷いていた。


「で、お前たちはアノーマリーが死んだことをどう思う? やはり寂しいか?」

「んー・・・いや、別に俺たちのことを大切にしてくれたってわけじゃないし、こき使ってばっかだし、ぶっちゃけ死んでせいせいしたっぺ!」

「んだなぁ。俺たちとしては飯と女をくれれば、ご主人様は誰でもいいんだべ」

「飯と女は同じ意味でねぇか?」

「男も飯だけども、まずいから嫌いだべさ」

「ワンッ!」


 ポチの同意にドゥームは苦笑する。アノーマリーの欠点といえば、自分も含めて仲間に恵まれないことだろうと思ったのだ。

 アノーマリーの死を知って安心したドゥームは、リビードゥを呼び寄せて耳打ちをした。


「リビードゥ、キミの情報網を使って噂を広げてほしいことがある」

「いいわ。誰にどんなことを広めればいいかしら?」

「アルネリアに向けて、アノーマリーが死んだことを広げるんだ。オークの一団や、バーサーカーを犠牲にしてもいい。クベレーのいる工房と、僕がこっそり使っている工房以外の守りが甘いことを伝えるんだ」

「? 何のために?」

「余計な工房は間引いておくためさ。オーランゼブルには少々焦ってもらうとしよう。それにアルネリアの戦力を測るのにも丁度いい」

「アルネリアを? 今更?」


 リビードゥは疑問を呈した。それもそのはず、ドゥームとオシリア、それにマンイーター、リビードゥ、インソムニアと魔王何体かで陥落寸前までいったアルネリアである。いかに不意をついたとはいえ、その戦力は知れているはずだった。

 だがドゥームは首を振るのだ。


「あまり彼らを舐めない方がいい。戦力を補強しているようだし、当時は巡礼がいなかった。いざことを構えたら全然予想と違ってました、なんてバカみたいじゃないか。それに彼らは聖別した武器を使うからね。なんのかんのと、僕たちにとっては最も脅威となりうる敵だよ。

 それにまさかと思うが、わざと深く攻め込ませておいて、自分たちを侮らせる――なんてのは勘ぐりすぎかな?」

「いえ、疑うに越したことはないわ。わかったわ、貴方が私たちの王だものね。私の人脈でなんとかしてみるわ」

「悪霊が人脈ってのも変だけどね」

「私は生きた人間にも知り合いが多いのよ、そのように城を築きましたからね。ここには胸糞悪い女がいるし、私は去るとするわ」


 リビードゥがそう言って姿を雪原から消すと同時に、ドゥームたちの上空を黒い飛翔体が高速で飛んでいった。ここからなら、彼らはアノーマリーの工房まで100も数えぬうちに到着するだろう。そうなれば、あの地にはネズミ一匹残らない。先ほど念のため忠告しておいたが、アルフィリースたちの脱出が間に合うかどうかはぎりぎりになりそうだ。この事態がどのタイミングで来るかはドゥームにもわからなかったため、アノーマリーの工房への潜入は大きな失敗を伴う可能性もあった。ドゥームにとっては、賭けに勝った気分だった。

 だがドゥームはここで一つの疑念を抱く。



続く

次回投稿は、8/16(日)14:00です。

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