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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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封印されしもの、その115~悪意を継ぐ者①~


「さて。ここを全部壊して、撤退だ」

「(小僧・・・実体のない相手を殺気で斬りつけたように錯覚させたか。一流の使い手の業だぞ、それは)」

「そうなの?」


 あっけらかんとして答えたレイヤーに、シェンペェスが驚きを隠せない。


「(自分がしたことの凄さもわかっていないとは、これだから子どもというものは恐ろしい。それにさきほどの気配の消し方といい、立ち回りといい。まさか最初からこれを狙っていたのか?)」


 シェンペェスの語り掛けに、レイヤーは首を振りながらアノーマリーの操作していたものを壊していく。


「それこそまさかさ。たださっきアノーマリーとティタニアが戦っているのを見て、戦い方を考えたんだもの。あそこの戦いに参加できるほど己惚れているわけではないし、それよりもできることをすべきだと考えた結果さ。

 一つはアノーマリーの工房に侵入して何かイェーガーの役に立ちそうなものを持ち帰ること。もし誰かが逃げようとしたら、その後ろから仕留めるくらいのことはしようと思ってね」

「(それは・・・剣士の戦い方ではないな。暗殺者のやり方だ。卑怯とは思わないのか)」

「全く思わないね。僕は戦い方にはこだわっていない。騎士としての剣はラインに習っているけど、それはあくまで戦い方の一つだと今でも思っている。人前で振るうならああいう剣が良いと思うけど、僕一人なら――どれほどでも残酷になれるし、結果がみんなのためになればいいんだよ」

「(だがそれではお前が報われまい)」

「構いやしないさ、どうせ短命だろうから」

「(!?)」


 突然のレイヤーの言葉に、シェンペェスも思わず驚きを隠せなかった。


「(短命だと? 何を根拠にそう思う?)」

「勘だけどね。人と同じ体格なのに、何か精霊の力を行使したわけでもなく並外れた力が出る。これはどこかしら人間にかかるべき制御みたいなものが外れていると思うんだ。傷の治りも尋常じゃなく早いし、人としての機能を明らかに逸脱しているとよくわかった。幻獣と休みなく戦っても、ほとんど疲れを感じなかったんだ。もうこれは鍛えてどうなるものでもないだろう。

 その分、生命力を人より多く使っていると思う。何の代償も伴わない力なんてきっとないんだ。むしろそうでなければ、あまりに不平等じゃないと思わないか?」

「(む・・・いや、だが)」


 シェンペェスがなんと答えてよいのかを考えるうちにも、レイヤーは淡々とアノーマリーの最後の実験室ともいえる場所を破壊していた。二度と魔王を作れなくするためである。

 ひとしきり目につくものを壊したところで、レイヤーは周囲を見渡した。


「さて。何が役に立つのかはわからないけど、本や書類の何点かはここから持ち出すとしようかな。活用の仕方はアルフィリース団長に任せるとしよう。これで、最後の仕上げだ」


 レイヤーは地面に落ちた灯りのための油の樽を蹴りあげると、それらを斬って部屋に十分な油をまいた。そして去り際、機械の一部のかすめるように斬りつけて火花を散らし、部屋を炎に包んでいた。


「これでよし。あとはルナとこっそり合流する方法を考えないとね」


 レイヤーはこれでこの大地での仕事はあらかたやり終えたと感じていたが、最後に仕留めそこなった悪霊の二人――あちらの方が何かしら嫌な予感を呼び起こすようであり、仕留めそこなったことを気にかけていた。そして、彼らが抱えていた女のことも。

 今後何らかの波乱の幕開けのような気がして、レイヤーはせっかく黒の魔術士の一角を倒したのにも関わらず、単純な達成感に浸るわけにもいかなかったのである。


***


「あれは・・・?」


 工房の奥深くに進むティタニアたちだったが、それに付き従うラーナは不思議なものを一瞬見た。それは分かれ道の通路のはるか向こう。視界が開けていてすら見ることのできないほど遠くで、闇の中に確かに白い腕と髪が動いた。闇を支配するラーナだから気付いた一瞬の変化。ラーナは足を止めて、自分が見たものが何かを考えた。今急がなければならないのはわかっている。だが見逃してよいものではないことが本能が告げた。


「どこだろう・・・どこで私はあの腕を見て・・・」


 後ろを走るラーナの動きに気付いた者はそう多くない。殿を務めていたラインと、横を走っていたメイソンくらいだった。その二人だけが、ラーナにつられて止まっていた。


「どうした、ラーナ」

「いえ、先ほど見たものが・・・待って、まさか――」

「おい!?」


 ラーナが突如道過ぎを外れて走り出した。その行動にラインが呼び止め、全員が気づいて振り返る。


「ラーナ、どこに行く!」

「待って、あれはまさか――」


 よく見知った、光を受けて銀に輝く乳白色の髪。透き通るような美しい白い肌。淫魔の血を引く自分だが、純粋な美しさにかけてはこの人にかなわないだろうと何度も思った。それでいて世を見通す見識と、魔女としての能力。この人に師事できる自分は幸せだと敬愛した師、フェアトゥーセ。その腕と髪を見間違うはずがない。

 ただ、疑問はどうしてフェアトゥーセがこんなところにいるのか。嫌な考えが頭をよぎるが、今は一刻も早く追いつくことが必要だ。なぜなら、彼女を抱えていたのは――



続く

次回投稿は、8/10(月)15:00です。

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