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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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封印されしもの、その107~ヘカトンケイル⑪~

 アノーマリーも覚悟を決めたのか、魔術も使って激しい抵抗をした。だがティタニアと影はその優れた体捌きを持って、斬りこみながらも攻撃をかわし次々と核を切り出していった。見ているセイトやヤオも、なんと凄まじい二人かと感嘆していたが、ティタニア当人だけは感想が違っていた。


「(なんと無駄のない戦でしょうか。やろうと思えば、どこまでも流麗に、美しくもできるのだろう。これは――アルフィリースではないことは明白。こんな戦い方は、人間にはできはしない。これは、なんなのです? この人は――誰だというの?)」


 ティタニアの頭には、もはや敵の仕留めた数などは頭に入っていない。それに、自分への攻撃も含めて、アルフィリースとなった影が予測して防いでいることも、もう気づいている。その時点で、ティタニアは素直に競争に対する敗北を認め、アノーマリーを仕留めることに全力を注いでいた。

 また逆に焦っているのはアノーマリー。これほどの実力を持つ相手が、着々と息を合わせながら向かってくる。さしものアノーマリーもこれでは勝てる気がせず、むしろ敗北は必至だった。せめて時間があれば脱出も可能だろうが、その時間も与えられない。アノーマリーは、追い詰められていた。


「(こんな、こんな馬鹿なっ! どこで計画が狂った? 僕の計画は完璧だったはずだ。そう、ティランがおかしな行動をするまでは――待てよ。どうしてティランはおかしな行動をしたんだ? そもそもその原因を突き止めるためにここに戻ってきたんだけど、すぐさまティタニアが追撃に出たと聞いて、原因究明もそこそこに対策を練って――そういえばティタニアが追撃に出たと情報をもたらしたのはクベレーだが、どうやってそのことを奴は知ったんだ? この大地に広域に警戒網を張っているのかと思っていたが、それならアルフィリースたちの来訪やメイソンの存在にも気づいてもいいだろうし――あ)」


 アノーマリーは瞬間、全てを理解した。研究に没頭すると他のことが目に入らなくなるのは自分の悪癖だとよくわかってはいるが、まさかこんなところに落とし穴と正解があるとは。

 踊らされていた。今、そのことがよくわかったのだ。この結末は、おそらくそいつが描いた図面の通りに進行している。いつからなのか。おそらくは、遺跡に同行する時――いや、ひょっとすると、フェアトゥーセを預かってしまった時から、こうなることをどこかで考えていたのかもしれない。

 ただその計画がまだ具体的でなかったため、アノーマリーも不審に思いながらも、あまり深くは考えなかった。


「(そうか――そういうことか。それなら納得がいく。よくもやってくれた――と、言いたいが、やられた方にも責任があるね、これは。だましだまされは世の常だ。運もあるだろうけど、これは僕の方にツキがない。さて、そうなるとどうするかだが・・・痛みを伴う結末になることはもはや、やむをえないね)」


 アノーマリーは何重にも策を巡らせている。その中でかなり最悪の選択をしなければならないことになりそうだが、どうにかこの場を切り抜ける方法は残してあった。

 そして影は敏感にアノーマリーの攻撃の勢いが変わったことに気づいていた。倒す攻撃から防ぐ攻撃へ。手数こそ多くなり激しさを増しているように見えるが、一つ一つにかける殺気が足りない。影は敏感に察知した、こいつは逃げるつもりだと。


「(ははぁ。これだけの実力を備えながら、逃げることに対して何の躊躇もない。戦士の誇りの欠片も持ちあわせてはいないが、だからこそ厄介だな。仕留め切ることが非常に難しい。そして今度こいつが再戦を挑んでくる時は、自分が必ず勝てるだけの物量と間合いを選んでくるだろう。戦いの高揚感という過程に快楽を見出さず、ただ勝利という結果のみを求める敵は確かに厄介だ。

 なるほど、メイソンに入れ知恵をした奴はこいつのことをよく知っている奴だな。ならば、一つ乗っておくのも悪くはなかろう。が、その前に!)」


 影が踏み込みを早くした。ここまで自分を出張らせておいて、駒として扱われるだけでは面白くないと思ったのだ。アノーマリーにも、この戦いの結末を考えた奴にも、冷や汗をかかせてやらねば気が済まなかった。


「逃がさんぞ、小僧!」

「ボクのことを小僧って呼べる奴は久しぶりだね! だが、こっちもこのままやられたんじゃ、腹の虫が収まらないんだよ!」


 じりじりと後ずさるアノーマリーの最大の核に向けて突撃した影を、無数のアノーマリーの分身が取り囲む。ティタニアの周囲にも出現させていた分身を全て一度収容し、一瞬で影の周囲に出現させてみせた。その手には系統の違う魔術から、槍、剣、弓矢などの種類の違う攻撃方法が準備されている。


「捌いてみろよ! 全方位からの多種多様な攻撃だ! 隙は無いぞ!」


 アノーマリーが吠えた。彼にしてみれば、生まれてから初めて本気で戦った瞬間かもしれなかった。戦いは魔王たちに任せ、今まで素材の徴収や、有利な場所からしか戦いを仕掛けてこなかった。そのアノーマリーが、戦いにおいて一種の賭けに出たのだ。

 だが影の反応は冷ややかだった。


「――なるほど、お前は本当に戦い慣れていないな。戦いとは、自ら死地に踏み入れて得られるものがある。それは計算では決して成立しないものもあるのだよ。

 お前の戦いは計算し、罠を張り、自分に有利な場所から一方的に攻撃を仕掛けるもの。だがそんなくだらん攻撃は、本当の強者には通用せん!」


 影は全方位から迫る攻撃に対し、さらに踏み込んで突破を試みる。その決断の早さには、アノーマリーやティタニアでさえ目を見張った。

 だが影は左手で飛んできた剣を逸らし、後方の槍と矢を同時に撃ち落とした。右から来た火球を直上に弾いてさらに増幅させ、直上から来た氷の弾丸と岩の塊を同時に消し去った。正面から来た戦輪チャクラムを膝で弾くと、一瞬で魔術で造りだした鋼線を括り付け、回し蹴りの用量で周囲を薙ぎ払い残った攻撃を叩き落とす。そして足元からせりあがる鎌による攻撃を踏み台にして飛んでいた。



続く

次回投稿は、7/26(日)16:00です。連日投稿になります。

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