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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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封印されしもの、その95~魔王の棲家⑫~


***


「なんだ、これは?」


 ティタニアは地面の下から出てきた個体を見て、珍しく叫んでいた。姿のことを指したのではない。だがティタニアには珍しく、驚愕があった。

 それはその個体――アイガオーンが放つ存在感。ティタニアの考える、アノーマリーの作った人造の魔王とは大きく存在感を隔した、その個体である。

 長きにわたる闘争を繰り返したティタニアは知っている。魔王とはどんな種族のものがそう呼ばれるようになるにしろ、そこに至るまでの経緯がある。それはおおよそが彼らの恐怖にまつわるものだが、彼らが魔王と呼ばれるからには、相応の恐れられる理由があった。実力はともかくとして、アノーマリーの作った魔王には恐怖の背景となる歴史がない。そういった意味ではティタニアは、アノーマリーの作った魔王を恐れる理由はなかった。恐怖とは、積み重ねられることで感じられるものだとティタニアは考えていたから。

 だがアイガオーンを見て、ティタニアは恐怖を感じた。剣を奉じる一族として、ティタニアの本能が告げる。これは非常にまずいものだと。おそらくは、生誕の時点で大魔王並の素質がある。この生き物を世に出すわけにはいかない。ここで止めなければ、未曽有の大災害になるだろうという確信がティタニアにはあった。

 全力をもって殺す。必要とあらば、自らの魔術を行使しても。ティタニアがそう覚悟した時、その場に現れた者が何人かいた。


「ち、一難去ってまた一難か。悪霊から逃げたと思えば、次はこれか、これですか」

「これは――とんでもないね」


 そこに現れたのは、一人はメイソンである。オシリアの魔の手から逃れたメイソンだったが、逃げながら地下深くに潜るうちにここに到達したのであった。どうやらオシリアはまいたようだが、逃げた先がこの状況では舌打ちしたくなる心境も無理からぬ。

 そしてもう一人はレイヤーである。ケルスーを倒してここに来たレイヤーだが、嫌な気配を辿るとここに到着したのである。嫌な気配、すなわち強敵がいるであろうことを予感しているレイヤーだが、さすがに敵の強大さに驚きを隠せなかった。

 さらに一人はルナティカ。彼女は幻獣と行動を共にしていたのだが、彼らが氷竜などと遭遇するにつけて、巻き込まれてはたまらぬとばかりに離脱し、一人レイヤーを探していたのである。

 そうしてここに集った四人だが、軽くその場で目を合わせると互いの実力はなんとなく察することができた。一つだけ意外だったのは、ルナティカにとって久しぶりに見るレイヤーの存在が、この上なく大きく感じられることくらいだった。


「(しばらく見ないうちに何があった・・・いや、男子三日会わざればなんとやらだ。こういうこともあるだろう)」


 ルナティカはアイガオーンを警戒しながらするりとレイヤーの傍に近づくと、飄々とたたずむ彼に話しかけた。


「無事で何より」

「ああ、なんとかね。でも大した仕事はできなかったよ」

「報告はまた聞く。今はこの状況を何とかした方がいい」

「賛成」


 レイヤーはちらりとアイガオーンを見ると、シェンペェスを抜いて剣に語り掛けた。しばしの語り合いの結果、レイヤーはアイガオーンの方に足を進めた。


「レイヤー? まさか戦うつもり?」

「ああ、やってみるよ。いや、やってみたいんだ」

「かなりの敵。逃げた方が賢明」

「わかってる。でも僕はルナティカの教え子であると同時に、ラインの教え子でもあってね。あれをアルフィリースのところに行かせたくないんだよ。幸い、ここにはティタニアもいる。あの男も含めて三人がかりなら、きっと何とかなるよ」

「・・・四人がかりにする」


 ルナティカも自分のマチェットを抜いた。ルナティカにも戦士としての矜持はある。ここでレイヤーだけを置いて撤退するわけにはいかなかった。


「一つだけ約束。不利になったら退くこと」

「当然。命は惜しいからね」

「ガキども、いいか? いいですか?」


 ルアンティカとレイヤーの話し合いが終わったと思ったか、メイソンが突如として話しかけてきた。メイソンが顎でアイガオーンの方を促している。


「かなりの難敵だ。別に俺一人でなんとかできないでもないが、戦うつもりなら攪乱しろ、的を絞らせるな。デカい一撃なら俺かティタニアで叩きこんでやる。間違えてもとどめを刺そうなんて思うなよ?」

「連携を取ろうっての?」

「ティタニアがどうかは知らんがな。得体のしれん奴とやる時にはそのくらい慎重でいい。生きて帰ることが戦いでは何より肝心だからな。そして俺は使えるものは畜生でも使う。戦い方にこだわりなんぞないんでな」

「その考え方、意地汚くて嫌いじゃない」

「暗殺者風情の同意なんざ、願い下げだ」


 メイソンがぎろりとルナティカを睨んで言った。メイソンは各地の情報を収集するうえで、当然アルマスの銀の暗殺者のことも知っていた。そうするうちに、牽制しあうティタニアとアイガオーンの均衡が崩れようとしていた。



続く

次回投稿は、7/3(金)18:00です。

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