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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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封印されしもの、その88~呼び戻されしもの③~


「どこ行きやがった、ガキィ!」

「兄ちゃん、見失った!」

「だから探してるんだろうが! テメェも探しやがれ!」

「八つ当りはやめてよぉ」


 ボートとケルスーは力に任せて暴れるあまり、レイヤーを見失っていた。もちろん単に見失ったのではなく、レイヤーがその身を隠したのである。

 魔王となったボートとケルスーの実力は、以前とは桁違いだった。二人ともその特性は変わらず、ケルスーは強化された連結剣を使用し、ボートは力押し。だがケルスーが振るう剣はもはやレイヤーでも躱すのが精一杯であり、ボートの膂力はダロンを捻り潰すことも容易く行える領域にあった。

 分が悪いと感じたレイヤーは一端身を隠して彼らの襲撃に備えたが、ボートとケルスーもわかっているのか、別れて探そうとはしなかった。これでは隙を突くのも難しい。


「(こうなると、無視するのも手だな・・・これだけ広い場所なら、早々彼らがアルフィリースと出会うこともないだろう。それに向こうには腕利きの団員が沢山いる。いかにあいつらが強力でも、遅れをとることなんてないはずだ。だけど――)」


 これでいいのだろうか、とレイヤーは思う。確かに実利だけを考えるのなら、ここは撤退すべきだ。だが、果たしてそれでよいのだろうか。自分が目指すべき場所とは、戦士としての矜持とは何なのかをレイヤーはもう一度考えた。


「(どう考えても割に合わないけど・・・今までなら絶対にやらないのだろうけど・・・だけど!)」


 レイヤーは結論に悩みながらもその足はもはや動いており、体は自然とボートとケルスーの前に出ていた。理屈では悩んでいたようだが、本能は既に答えを出していた。

 出てきたレイヤーの姿を見て、ケルスーが少々意外そうな顔をした。


「不意打ちを狙っているかと思ったんだがな」

「そのつもりだったんだけどね、やめたよ。君たち相手に、それではダメだとなんとなく思ったからね」

「嬉しいねぇ、殺されに出てきてくれるなんざ」

「さ、探す手間が省けたね、兄ちゃん」


 ボートとケルスーはニタニタと笑っていたが、レイヤーはいたって真剣だった。以前の二人とは全く違う、一つでも気を抜けば殺されるだろう。先ほどまでと違ってこちらに条件が良いのは、今度は部屋の中に柱という遮蔽物があること。彼らの武器に対しどこまで妨げとなるは疑問だったが、最大限活かさない手はなかった。


「(一手間違えると殺される。さあ、集中しないと)」


 レイヤーの集中力が最大限に高まっていく。ボートとケルスーも魔王となったとはいえ、元は名のある傭兵。レイヤーの集中力を感じ取ると、もはや無駄口は叩かなかった。

 そして襲いくるケルスーの連結剣。以前より大きくなり大蛇のごとき様相となった剣は、レイヤー目がけて柱の間を縫うように飛んできた。レイヤーは剣先を変えられないようにわざと紙一重で躱すと、ケルスーに向かって突進を開始した。


「しゃらくせぇ!」


 ケルスーがもう一刀を背中から抜く。二刀となった連結剣が別々の角度からレイヤーに襲い掛かる。刃ではなく連結部を上手く柱に引っかけて方向転換をする剣は思わぬ方向からレイヤーに襲い掛かり、レイヤーに剣を抜かせていた。


「くっ」


 レイヤーはケルスーに近寄りがたいと感じると、目標をボートに切り替えた。ボートと接近戦をすれば、ケルスーの剣が届きにくいだろうと感じたのだ。果たして、それは目論見通りだった。

 ボートは魔王となったことで以前ほど鈍重ではなくなったが、それでもレイヤーの速度にはついてこれなかった。ボートがレイヤーを捕まえようともがくが、レイヤーはつかず離れずボートと一定の距離を保つ。丁度ボートが間に入るようにしてケルスーと対峙しているため、ケルスーも剣を使いあぐねていた。


「何やってんだ、ボート! どきやがれ!」

「だって、兄ちゃん! こいつすばしっこくて」

「俺がそいつの動きを止めてやる。どけぇ!」


 ケルスーの剣が唸る。レイヤーには一つの仮説があったのだが、魔王がそもそも話すとは聞いたことがない。魔王の知性が人に達しないとしたら、彼らの忍耐などは以前よりも劣っているのではないかと。

 その考えは当たっていた。もしケルスーが人間のままだったら、こんなに早く冷静さを失いはしなかったろう。ケルスーの剣が二刀まとめて飛んできたのを見て、レイヤーは一気にボートとの距離を詰めた。そして足をかけて転ばせると、その巨体を思いっきり連結剣の方に突き飛ばした。

 ケルスーがあっと思い剣先を逸らしたが、連結剣の横腹で思い切りボートを打ち据えることになった。ボートがぎゃん、と鳴いたが、二人の意識が離れた隙にレイヤーはもう一つの連結剣にとびかかり、その切っ先を剣で殴りつけ、方向を変えていた。切っ先の変わった剣は、ボートのどてっぱらを思いきり打ち抜いていた。

 ボートの口から、血がごぼりと流れた。


「兄ちゃん・・・ひでぇや」

「ああっ、ボート!」


 ケルスーの意識がボートに集まった瞬間、レイヤーは柱の影から影へと滑るように移動し、ケルスーの背後から斬りかかった。ケルスーも超人的な反射でもって連結剣をレイヤーに向けたが、レイヤーは最高速のままくるりと一回転してその剣を躱すと、ケルスーの体を袈裟がけに斬り裂いていた。



続く

次回投稿は、6/19(金)19:00です。

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