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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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封印されしもの、その80~歪んだつながり③~


「お前達は魔術協会の長だったはずだ。なぜ黒の魔術士に寝返った。本当のところを聞かせてもらおう」

「・・・私たちはもうずっと長い間、この世をさまよっている。不老不死など望んだわけではなく、互いを憎みながら。もう飽きたのだ、憎み続けるのは。よって、私たちは『死にたい』んだ。だが、誰も私たちを殺してくれない。私たちどうしであらゆる方法を試したが、どうやっても死ぬことがなかった。首を落しても、串刺しにしても、心臓を取り出して焼いても駄目だ。

 そもそも魔術協会に属したのは、人間の神秘を司る組織なら私たちの不老不死を解除する方法があると考えたからだ。だが、答えはどこを探してもなかった。あるいはこいつなら、と期待した天才もいたが、彼は私に目をつけられたのに気付いたのか、さっさと魔術協会を去った。その後騎士になるとか王になろうとしたとか聞いたが、まあ私から逃れるための言い訳だったのかもしれん。

 アノーマリーについたのは、奴が『生命の書』なる研究をしていたからだ。奴になら私たちの不老不死の秘密がわかるかと思ったが、奴の玩具にされるのはさすがに気色悪くてな。不死者だからと実験動物モルモットにされてはかなわん。

 それに研究の方向性が違う。助言は受けたかったが、もはや事態がこうなってはな。そこでティタニア、お前に相談だ」


 テトラスティンが薄く笑った。それこそ屈託のない笑顔で。これこそ、テトラスティンの偽らざる感情の表出だったろう。

 後ろではリシーが無表情のまま立っていた。前から無表情で無愛想な女だと思っていた。我々に気を許していないのだろうと。だが違った。あれは一切の感情が死んでいるのだ。サイレンスが作る人形よりも、人間らしくない人間だった。

 逆に、生き生きとして見えるテトラスティンもまた、発する言葉は死者のそれだった。


「私たちを殺してくれないか、ティタニア。それこそが望み。もう死に方を探して千年以上をゆうに過ごしている。最強の剣帝であるお前になら――あるいはできるのではないかと期待している。私たちを殺せればよし、そうでなければお前に用はない。死んでもらうとしよう」


 強者との戦いは気分が高揚する。一方で、得体のしれぬ者との戦いはいつも恐怖が付きまとう。自殺志願の不死者と戦うことになるとは、ティタニアの経験をもってしても同様の記憶はなく、ティタニアはさらなる力を引き出すこともその場を去ることも忘れ、思わずテトラスティンとリシーの妄念に引き込まれるように大剣を握ってしまっていた。


***


「(正確に冷気が追ってきやがる。カラクリはわかるが、ちいと厄介だ)」


 メイソンは変わらず冷気を避けながら、その出所を調べていた。徐々に頭には工房の構造が構成されつつある。

 メイソンは口調に似合わず慎重な性格だ。確実に勝てる場面以外では勝負を行わず、常に退路を確保しながら戦闘を行う。だからこそ巡礼の三番手にまで上り詰めたのであり、長らく戦い続けてなお生き残ることができた。

 今頭の中に工房の地図を作製しているのも、撤退のためであった。


「(一通り巡ったはずだが、出口にぶち当たらん。それに敵の姿もない。これは閉鎖空間に誘導されて、一方的に攻撃されているのか。どこのだれか知らんが、知恵が回るじゃねぇか。

 もっとも、相手が俺でなければの話だが)」


 メイソンは既に敵の場所に見当をつけていた。精霊に問いただせば、敵の位置を知ることも容易い。それにアルフィリースたちの場所も既に把握している。少々暴れても、影響はなさそうなのも確かめた。


「よし、頃合いか」


 メイソンは決心すると、突如として走り出した。目の前には彼の行く先を阻むように、冷気が壁を作る。だがメイソンは構わず突撃した。冷気の中に取り込まれるかと思いきや、回転する風の壁がメイソンを守った。

 冷気の壁で視界はほぼない。だが地図を頭にいれたメイソンにとって、視界の有無は問題ではなくなった。それに冷気が精霊たちの行動を阻むわけでもない。周囲の精霊たちの存在の耳を傾ければ、周囲に何があるかは目を開いているよりも明瞭に把握できた。

 走りながら精霊と交渉し、壁をどかす。一直線に走っていると、突如として自然の構造物ではない壁が出現した。白銀に輝くその壁は、魔術でも物理攻撃でもびくともしない。


「きたか。これがこの工房の仕掛けの一つ。糸に伝わる振動でこちらの位置を把握し、攻撃を行う、あるいは味方に知らせる。さながら優秀なセンサーだな。

 それに蜘蛛の糸はより合わせるとどんな鎧よりも頑強になるというが、こんな感じかね? さて、操っている奴の顔を拝むとしようか」


 メイソンは壁に触れると、おもむろに電流を流した。壁はしばらくそのままの形を維持していたが、やがて生き物のようにびくりとのけ反ると、あっという間にほどけて消えていた。

 電流を流して大元を辿るというメイソンの意図を察したのだろうが、既に時は遅かった。



続く

次回投稿は、6/6(土)20:00です。連日投稿になります。

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