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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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封印されしもの、その79~歪んだつながり②~


「「呪印、解放」」


 リシーとテトラスティンが唱和する。そしてリシーの体は炎に包まれ、テトラスティンの体は鋼鉄の表皮で補強された。燃え盛る剣士と、鋼鉄の魔術士。構えたティタニアに、まずはテトラスティンが凄まじい速度で突撃した。

 ティタニアは至近距離からの魔術を想定したのだが、テトラスティンはさらに一歩踏み込み、素手でティタニアを殴りつけた。ティタニアも予想外の攻撃に驚いたが、それで一撃をもらってしまうほど愚鈍でもない。

 間髪入れずに反撃しようとしたティタニアに向けて、テトラスティンがふっと笑う。まるでティタニアの心を見透かすような笑いにティタニアは苛立ちを覚えたが、すぐさま余計なことを考える余裕はなくなった。テトラスティンの近接戦闘が、あまりに熟達していたからだ。

 貫手、掌底など打撃だけでなく、蹴り技も豊富。技の豊富さにティタニアが反撃の一撃を選び損ねていると、テトラスティンの背後で膨大な熱量が形成された。テトラスティンの背後に見えるのは、長い手のように広がった炎。


「炎を操る? リシーが魔術士で、貴方が拳士だとは!」

「勘違いしないでくれ。魔術士はその修行の過程で、極限の肉体的訓練を必要とすることもある。少し暇だったものでな、ついでに格闘術も修めてみただけだ。リシーも同じく、暇だったから剣術と魔術に手を出したという寸法だ」

「ついでの領域を超えていますよ!」


 リシーが炎の腕を操り、遠距離からティタニアに攻撃を仕掛ける。ティタニアもテトラスティンの攻撃を受けつつリシーの攻撃を優先して叩き落とそうとしたところに、隙が生じた。テトラスティンの拳を剣の腹で受け止めたつもりでいたが、テトラスティンの拳が変形し、剣山のようになってティタニアの体を貫いた。


「ぐっ」


 幸いにして重要な臓器などに届いてはいないものの、痛みを避けることはできない。ティタニアの隙を作るのには十分な一撃。間隙を縫うようにして、うねる炎の腕がティタニアに迫る。


「なめるな!」


 ティタニアが片腕で黒剣を振るうと、その場の空間は断絶され、炎はわずかにティタニアの片腕を焼いただけで吸い込まれた。そして左手の金の大剣はテトラスティンの鋼の表皮を貫いて、背中まで貫通している。


「奢ったな。その程度の魔術装甲では、我が剣は防げません」

「・・・なるほど、奢っていたかもな。だが、それはそちらも同じこと。どうしてこれで私たちが止まると思った?」

「!?」

「やれ、リシー!」


 テトラスティンの返事を待たずして、再度リシーの炎が襲いくる。先ほどよりも明らかに高密度の、溶岩のように質量を備えた炎。巨大な手の形をしたその炎は、テトラスティンごとティタニアを攻撃した。

 ティタニアは咄嗟に黒剣を下段から振り上げ防ごうとしたが、剣圧が不十分なのは明白。巨大な炎の手がティタニアとテトラスティンを押し潰す。

 直後、ティタニアは炎に包まれながら後退し、燃え盛る外套を破り捨てて炎を振り払う。大剣に突き刺していたテトラスティンは既に振り払っており、炎が収まるとその中から炭化したテトラスティンらしきその物体が姿を現した。

 ティタニアが歯ぎしりをしながらリシーを問い詰めた。


「正気か、貴様ら! 仲間を手にかけるとは、外道の所業!」

「・・・ティタニア、あなたは間違っています。私とテトラは仲間ではない。むしろ、私にとってテトラスティンは怨敵です。憎みこそすれ、決して庇いなどしない。それに、この程度でテトラスティンも私も死にはしない」

「その通りだ」


 炭と化したテトラスティンが動く。中から治癒魔術の光がテトラスティンを包んだかと思うと、一瞬で炭は剥げ落ち、中からは傷一つないテトラスティンが出てきた。さながら不死鳥のような再生。

 あまりに早い再生に、ティタニアが目を疑った。


「馬鹿な、確かに死んでいたはずです! それに心臓を貫いた感触は間違いない――いや、そうか。あなたたちは不死者か」

「まあそういうことだ。望んでなったわけではないがね」


 テトラスティンが金の魔術で衣服を生成しながら語る。その口調は淡々としており、どこか厭世的な響きも含んでいた。

 

「ちなみに私たちの戦闘技術は、互いの殺し合いから派生したものだ。もう千年はゆうに経過したか。私は別に怨敵とも思っていないのだが――リシーはどうしても私を許してくれなくてね。生まれはごく普通の、小さな農村の子供だった。きっと戦闘における何の才能もありはしなかったろう。

 だが互いに殺し合いを不眠不休で行う中、私たちの戦闘技術は向上していった。互いを殺すために、あらゆる技術、魔術、方法を試した。結果、リシーはこの世でも有数の剣士となった。この前サイレンスの人形を相手取ったカンダートの戦闘でなんとなく察し、そして君と戦わせることでほぼ確信した。私たちを殺せるほどの者は、黒の魔術士にも早々いるものではないとね。

 残念だよ。ある程度お前たちが思うように活動できるよう、こちらで誘導してやったというのに。とんだ期待外れだった」

「なんですって?」

「私たち魔術協会の情報網はどのぐらいだと思う? アルネリアが口無しを人の中に紛らわせるのに対し、我々は人のいない地域に結界などで監視網を敷く。また占星術を駆使し、魔術素養のある者を選びだす。その情報網は、人のあまりいない辺境や荒地にも及んでいる。

 諸国の国境に使用される結界を考え出したのは誰だ? 魔術協会だ。そのくらいできて当然だとは思わないか?」

「・・・」


 ティタニアは黙ってテトラスティンの話を聞いていた。今さら魔術協会や黒の魔術士の話などどうでもよかった。脅威となるのは二人の実力。だがティタニアにしてみれば、どうにかならないほどでもない。二人の実力が現在で最大ならば、の話だが。

 だがそれよりも、この相手は見定めねばならなかった。ティタニアの目標にとって障害となりえるか否か。これほどの実力があり、かつ不死である存在が、大人しく世の中に埋もれて過ごすわけがない。

 ティタニアは戦闘の最中であるにもかかわらず、問いかけていた。



続く

次回投稿は、6/5(金)20:00です。


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