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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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封印されしもの、その74~魔王の棲家⑨~

「なるほど。じゃあ」

「たとえ命令された戦場であったとしても、今の状況こそが我々に与えられた全て。全力で、死力を尽くして戦うのみだ。たとえ無駄なあがきだったとしても、死に際ぐらい自分達で選びたいね。駄目だろうか?」

「いえ、通常なら歓迎よ。そういった泥臭くて人情味のあふれる話は嫌いじゃない。だけど、私達はテトラポリシュカを助けなくてはいけないわ。今彼女はどこかしら?」

「テトラポリシュカ? ああ、今セカンドと戦っている奴のことか。大した実力者だが、セカンドの方が有利だろうな。ちなみに戦っているのはこの先だ。我々はそのために足止めをしに来たのさ。セカンドを殺されては、父上は色々な意味で困るらしくてな。あんなのでも一応は父だ、そしてセカンドは兄弟だ。守る義務がある」

「なるほど――だ、そうよ。ウィクトリエ」

「承知しました、アルフィリース。今は時間がない。あなたたち、疾く退いていただきましょうか」


 ウィクトリエがずい、と前に出る。その体からは気功と殺気がないまぜにされて立ち上り、さらには魔力までもが放出されていた。

 魔力と気功は通常、混合して使うことが困難である。似て非なる放出経路を同時に使用すれば、良くて衰弱死。一つ間違えれば暴発の危険性も伴うため、人間は本能的にその使用を禁じている。もちろん意識して両方を使うことも可能だが、非常に繊細な修行と長期間の鍛錬を必要とするため、人間の寿命では到達不可能なはずだ。

 これはウィクトリエだからできること。テトラポリシュカの血を引き、稀有な才能を持ち、そして人間よりもはるかに長寿な彼女だからできる芸当。そのウィクトリエですら滅多なことでは使用しないほど、命がけの戦闘方法。

 ウィクトリエの様子を見て、アルフィリースの仲間は自然と彼女に道を譲った。共に戦うとか、そういった段階レベルの戦いにならないことを悟ったのだ。同じような印象をバーサーカーたちは抱きつつも、だが彼らにも意地があった。


「退けと言われて退くと思うかい?」

「ならば実力行使あるのみ――大魔王の娘、ウィクトリエ。参る」


 ウィクトリエは額当を取り外し、額にある瞳を隠しもしていなかった。アルフィリースやリサにはなんとなく予想のついていたことであったが、ウィクトリエの正体に驚いた仲間も少なからずいた。だが、それも一瞬。もっと驚くことに遭遇することになる。


「潰れなさい、邪魔者」


 ヘカトンケイルたちは反撃は愚か、認識する暇もなかった。ウィクトリエが殴り飛ばしたのは、最も大柄なドライツェンと呼ばれた個体。一瞬で壁にめり込ませ、その頭部が変形するまで剛力で押し込んでいた。殺意で燃える目が、残りのヘカトンケイルたちを射抜く。


「一番大柄な個体でこれですか。なんだ、素手でも十分ひしゃげて壊せるようですね」

「・・・!」

「女ァ!」

「ドライツェン!」


 ズィーベンが武器を投げつけていた。投げればブーメランのような軌道を描く曲刀二本。ウィクトリエがよけようとしたが、潰したはずのドライツェンによってその体を拘束される。

 だがウィクトリエは体を拘束されたまま、体を半身に、ドライツェンに拘束された状態で身じろぎ程度の動きで当身を食らわせる。一瞬痺れたドライツェンから大剣が零れ落ち、すかさずウィクトリエはその剣を奪うと、飛んでくる曲刀を弾きがてらドライツェンを股から直上に両断していた。その鮮やかな一連の動作に、思わずヘカトンケイルたちからもため息がこぼれる。


「おおうっ」

「こりゃあ・・・全滅フラグってやつか? 敵にしても極上すぎるだろ」

「だが、それでこそやりがいがある。我々の命を測るにはこれ以上ない相手だ」

「確かにそうだな。おい、ズィーベン。曲刀を投げちまったようだが、まだ武器はあるか? なけりゃ・・・おい?」


 エルフが後ろを振り返ると、先ほどズィーベン自身が投げた曲刀が彼の兜に突き刺さっていた。そのままぐらりと後方に倒れるズィーベン。エルフは呆然とする前に、自分の後方に咄嗟に槍を出していた。もう一本の曲刀が槍に弾かれたが、まさに間一髪だった。

 ウィクトリエが無表情にその結果を見つめていた。


「さすがに一連の動作で三体を葬るのは虫が良すぎましたか。さて、そうなると一体一体片付け方がよさそうですが」

「そう簡単にいくと思うか? 警戒してりゃいくら動きが速かろうが――」

「手っ取り早くいくとしましょう」


 ヘカトンケイルたちを囲むように現れたのは、大小様々な鉱石の矢。明らかに金属性の高位魔術だが、詠唱はなかった。わけもわからず困惑するヘカトンケイルに向けて、ウィクトリエの無慈悲な死の宣告が告げられた。


魔射連弾デュアルカノン


 エルフは後悔していた。確かに時間稼ぎをしろとは命じられたが、ただで死ぬつもりはなかったし、生き延びて、もっと色々な大地で戦ってみたかった。ヘカトンケイルとして作り直される前にはどこかの人間であったのかもしれないが、その時の記憶はない。だが、この白一色の閉ざされた世界ではなく、もっと青々とした広い世界を恋しく思う気持ちは確かにあった。生きてさえいれば、そのような場所で戦うこともあるかと思っていた。

 だが聞いておくべきだった。せめてどのような敵と戦うのかくらいは。そうすれば、こんな馬鹿正直に敵の正面に立って、無数の矢に晒されることもなかったろうにと。



続く


次回投稿は、5/26(火)20:00です。

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