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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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封印されしもの、その70~戦士の覚醒⑧~

「・・・そうか、そうだったのか。全て、『オーランゼブルのせい』か」

「あ、ああ。そうだよ」

「先ほど語った言葉に、偽りはないか?」

「ない。君たちの一件は、私も興味を持って調べたんだ。世界中の誰よりも、私が詳しいはずだ。世に語られぬ事情まで含めて、全て。

 オーランゼブルは正しいかもしれない。だがその手段が非道――いや、あまりに人の感情を無視しすぎる。虐げられたことすら知らなければただの不幸で終わるのかもしれないが、世の中はそれほど彼が思うほど上手くできていない。私みたいな存在も含めてね」

「確かに――まさか千年近く生きていて、今さら当時の事情を知ろうとは。私も含めて、我々の一族が奴の精神束縛の術中にはまっていたとは考え付きもしなかった。だがそう考えれば納得のいくことも多い。私が剣帝となったのも、奴の手の内か。ふふふ、とんだ道化だな」

「もっと言うなら、彼は自分の手駒となるべく他にも多くの仕掛けを施していた。数多あるうちの、君は一つの成功例だ。ひょっとすると、ライフレスやアノーマリーも・・・」

「もう、いい」


 ティタニアからざわりと、一段階上の殺気が発せられた。上下の別などないはずのこの空間で、ピートフロートが一歩後ずさりする。

 今までティタニアの発する殺気は、不純物を削ぎ落した純然たる殺気であった。個人的な感情は排除され、相手の命を奪うためだけに発せられる剣のような殺気。ブラディマリアが無色透明と評した殺気だが、今は違っていた。たとえるなら黒く燃える憎悪の剣。憎悪と無念が混ざった、ティタニアの感情を前面に押し出した殺気だった。


「私は今、初めてやるべきことを思い出した。私達にこんな末路を辿らせたオーランゼブルは許せないが、それ以上にやるべきことを見出した。私は、本来の役目に戻る」


 ティタニアの精神束縛が解けた――ピートフロートはそう理解した。と、同時にピートフロートは自らの失敗を呪った。

 オーランゼブルの精神束縛はおそらく完璧ではないだろうと、ピートフロートは考えていた。人の精神を永続的に縛る魔術は、理論上は存在しない。定期的に魔術をかけ直すか、あるいは効果を継続させるための何らかの行動が必要である。ならば、単独行動をしている黒の魔術士なら、何らかのきっかけでその魔術が解けてしまう可能性も考えていた。事実、何人かの者は魔術が解けているようだ。

 ピートフロートはティタニアの魔術を解けば、この場から去るのではないかと考えた。最初はテトラポリシュカをアノーマリーに直接ぶつけて倒してしまうことを考えたが、覚醒したばかりのテトラポリシュカではそれも可能かどうかわからない。自分が直接戦いに参加できたらよいのだが、それはさすがに精霊としての特性上躊躇われる。

 ティタニアと遭遇した時、最初はどうやって彼女から逃げることができるかしか考えていなかったが、ふと思いついた。もしかすると、ティタニアはこの戦いから離脱させることが可能かもしれないと、この空間に引きずり込んだことで、ひょっとしたら精神束縛を解呪することが可能かもしれないと考えたのだ。何より、この始源の泥はあらゆる魔術を無効化する効果がある。オーランゼブルの精神束縛が緩まることは想像できた。

 果たして、その考え通りにティタニアの精神束縛は解けた。だが、その後どうなるかをピートフロートはあまり想像していなかった。いや、おそらくはオーランゼブルに恨みを持ちこの場を脱出するだろうと想像してはいたが、完全に想定が甘かったことを知ることになる。

 ティタニアは、ピートフロートが考える以上に鋼のような固い信念と、実力。そして底知れない怨念にも似た執念を備えていた。


「一つ感謝しよう、精霊よ。どうやら私の束縛を解いてくれたようだな」

「・・・どうやら思ったよりも早くそうなったようだね。でも、それなら感謝されこそすれ、殺気を向けられる理由はないと思うんだけど」

「役目に戻ると言ったろう? 私の役目は、一つは剣を奉ずるべき勇者を探すこと。だが、それらは全てこの世から魔王なる存在を排除するためだ・・・お前も確か、かつては魔王だったな?」


 ティタニアの殺気がさらに膨れ上がる。ここはピートフロートが形成した空間のはずなのだが、まさかティタニアの殺気が空間を埋め尽くすほどまで増大するとは思ってもいなかった。

 ピートフロートはティタニアを完全に拘束していると思っていた。そして以前彼女が呪印を解放した時の実力も情報を得ていたため、逃げるという行動に出ることが遅れてしまった。何も、ティタニアが全力を出したという確証はなかったはずなのに、ティタニアの実力はどのくらいだと勝手に思い込んでしまっていた。


「呪印、三段解放トレス


 これまでにないティタニアの力が発現し、ピートフロートが危機を感じて転移する直前、ティタニアの剣閃が自分ごと空間を両断するのを、はっきりとピートフロートは感じ取っていた。



続く

次回投稿は5/18(月)21:00です。

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