封印されしもの、その68~訪れる男④~
「ねぇねぇ、ドゥーム、オシリア。次は何をして遊ぶの?」
「マンイーター、少し静かにしておきなさい。その遊び方を考えているのよ」
「遊び方なんて、どうでもいいよ。楽しければいいんだもん。ねえねえ、誰と遊ぶの?」
「マンイーター。だから少し静かにと――」
「楽しければいい、か・・・なるほど」
オシリアは怒ろうとしたが、ドゥームには何か感じるところがあったようだ。その身を起こして、何かを決心したようだ。
「――確かに、少し考えすぎたようだ。マンイーターの言う通り、僕たちにとって一番大切なことは、楽しむことだね。最近陰謀やら何やらが楽しくて、もっとも基本的なことをつい忘れていたよ。
さて、そうなると話は早い。僕たちもあちらに行くとしよう、現地でなければ楽しめないよね」
「待って、ドゥーム。もしこの行動がオーランゼブルにばれたらどうするの?」
「その時は僕たちも黒の魔術士を辞めればいいんだよ。身を隠すなら、闇そのものに等しい僕たちより上手くできる連中なんていないんだろうから。さっ、行くよ」
こうと決めるとドゥームの行動は早い。戸惑うオシリアを尻目に、さっさと動き始めたのだ。マンイーターもオシリアもドゥームに続き、後に残された廃墟ではドゥーム達に殺された村人たちが怨霊となり、うめき声を途切れることなく上げていたが、それすらドゥームには出陣を彩る喝采にしか聞こえていなかったのだ。
***
「あの・・・野郎っ!」
メイソンは全速力で後退していた。追いかけてくるのは、冷え切った空気。空気が追いかけてくるその端から、壁が凍って行くのがわかる。極低温による一瞬の凍結。空気に追いつかれれば、一瞬で肺が凍り死ぬだろう。さしものメイソンも逃げの一手。
さきほどアノーマリーに同盟の話を持ち掛けた折、あっさりとアノーマリーは断ってきた。その理由は、
「ミリアザールは信用できないね、その下にいるミランダとかいうのも。オーランゼブルもアルネリアも、本質は同じでしょ? 自分の主張を通したい、ただそれに伴う犠牲の数が違うだけで。どちらがよりマシな善か論じるなんて、時間の無駄だね。もっとも、どちらも悪じゃないかと個人的には思うけお。ボクは使い潰されるのは御免だ」
と、のことだ。その理由を聞いた瞬間にメイソンはアノーマリーの排除を決定したが、アノーマリーの方が一手早かった。メイソンがアノーマリーを捉えるために行動を起こす前に、既にアノーマリーは攻撃を始めていた。
部屋に侵入してきた、極低温の冷気。まだ攻撃の主は姿を見せていないが、魔術で防げぬ攻撃に、メイソンは心当たりがあった。
「(一度離脱するか? いや)」
自身の安全を考えるだけならその手もよいだろう。だが、ここに来たそもそもの目的は、テトラポリシュカの行動を掴むことだ。確かに封印は解けている。アルフィリースと行動を共にしたのも間違いない。だが、その姿がどこにも見当たらない。今は一体どこで何をしているのか。メイソンの仕事はまだ半ばだった。
破壊僧といっても差支えないメイソンにも、仕事には誇りを持っている。そして今は、信仰の対象であるミランダがいる。そう簡単には引き下がれない。
メイソンは戦いを決意した。
「仕方ねぇ。ちぃと面倒だが、やれってことか」
メイソンは冷気に向けて水、風、土の魔術を全て試す。メイソンが使役できる精霊の種類は4や5にとどまらない。『反則的な交渉術』と名付けられた彼の能力は、その場にいる全ての精霊と交渉する能力だ。体に中にある小流を使った魔術や、違う場所から相性の良い精霊を引っ張ってくることなどは一切できない代わりに、メイソンは認識できる限りのその場にいる精霊全てを使用することができる。五大元素に加えて光、闇だけでなく、有象無象の精霊全てが彼の僕となる。状況とその場の性質次第では、使用できる魔術の種類は10を超えることもあり得るのだ。
またその能力の特性上、彼は見知らぬ土地に行ったとしても能力を100%以上発揮することが可能だった。それこそが、メイソンが辺境を主戦場とする理由だ。辺境はメイソンにとって、精霊が豊富に存在する心地よい場所でしかない。都会こそ、メイソンにとっては苦手以外の何物でもなかった。
能力の使用方法によっては、相手の能力を奪うことも可能である。テトラポリシュカも言うように、その場の精霊との相性を深めることにより、場の支配を行うことが可能だ。全ての精霊に交渉を強要できるメイソンの能力は、実質その場全ての精霊と相手との交渉を断絶することもできる。
だからこそヒドゥンの魔術を封じることも可能であり、また黒の魔術士に対する切り札足り得るメイソンだが、目の前の冷気は少々勝手が違っていた。メイソンの交渉による支配を受け付けないのだ。
続く
次回投稿は、5/14(木)21:00です。




