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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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封印されしもの、その67~呼び戻されしもの②~

「兄ちゃん。俺、あいつ知ってるよ」

「ああ、俺もだ。あいつは忌々しくも、俺たちを殺しやがったガキじゃねぇか。こんなところで会えるたぁ、アノーマリーのクソご主人様にも多少は感謝の念を覚えるってもんじゃねぇか!」

「やっぱり、あの時の!」


 レイヤーは思い出した。エルシアとゲイルを助けるため、深い闇の中で倒した傭兵たち。強敵だったが、確かに残さず殺したはずだった。ひとつあの時と違うのは、確かに残虐そうな連中だったが、ここまで禍々しい気を放ってはいなかったはず。


「そうか、人間を辞めたのか。匂いも気配も、人間じゃないものね」

「俺たちの気配に気づくだけでも、お前も十分に人間とは言い難いじゃねぇか」

「そうだ。俺の力を上回るだけでも、十分お前も人間じゃない!」

「そうかもしれない。で、どうする? せっかく生き返ったのに、また僕に殺される?」


 レイヤーが珍しく挑発的な言葉をかけた。その言葉にボートもケルスーも顔を上気させ、怒りの表情になった。


「ぬかせ! 人間を辞めて手に入れた力、以前のものとは桁違いだってことを教えてやる!」

「そうだ。もう力でなんとかできると思うなよ!?」

「ああ、そう。でも僕も以前とは違う。お互い、試してみるとしようか」


 レイヤーは戦いを好むわけではない。だが今は、なぜか戦ってみたいという衝動にかられていた。それは新たに目覚めつつある自分の力に対する期待なのか、それとも強敵を前にした時の自分の本能なのか。そこまでレイヤーは考えてはいなかった。

 その戦いを背後に、テトラスティンはそっと部屋から姿を消した。先にリシーが向かった先では、より激しい自分たちの戦いが待っていることを知っていたから。


***


 アノーマリーが黒の魔術士を抜けると告げてから、ドゥームは自らが殲滅させたとある村で一人考え込んでいた。土着の精霊だろうか、鳥のような生き物を象った像が傾いているが、その頭を背もたれにくつろいでいるように見える。

 普段はうるさいくらいまくしたてるドゥームが、もう何刻もその姿勢のまま黙りこくっている。さしものオシリアやマンイーターも気まずくなり、珍しくも彼女たちの方からドゥームに話しかけることとなった。


「ドゥーム。何を考えているの? オーランゼブルの命令のこと? それともアノーマリーのこと?」

「・・・ああ、心配させちゃったか。両方だよ、両方。いずれアノーマリーは裏切り、僕の行動もばれるとは考えていたことではあったけど、ちょっと時期が早かったかなと思って」

「以前話してくれた、この後の計画があるわよね? 大きく支障が出るのではないかしら」

「そうだねぇ・・・」


 ドゥームはオシリアと一つの約束をしていた。彼女と初めて出会った時、圧倒的な闇と絶望を抱えたオシリアを前に、彼女を服従させるために交わした契約。それは、この世のあらゆる生物を絶望の淵に叩き込むこと。それはドゥームも考えていたことだが、本当に全ての生物を闇に落としたのでは、半永久的に楽しむことができなくなる。ドゥームはオシリアとは違い、ずっと生き物の絶望を飴玉のようにしゃぶっていたいのだ。そういった意味では、ドゥームはある程度目標を固定し、それ以外は捨ておきたかった。人間は放っておいても増えるとはいえ、あまりに殺すと絶滅しかねない。

 だがオーランゼブルの計画が段々と見えてくると、その実行がなされた時の結末を考えるが、あまりドゥームが望む状況とは一致しないのではないかと考えた。何より、オーランゼブルの計画は『面白く』ない。人を殺しながら、人のために行うという。その節操のなさも気に入らなかった。少なくとも、ドゥームの矜持とは相反している。


「謹慎はいいんだよ。別に誰にも悟られず動くことは、僕らなら可能だ。ただ、僕は絶望が見たい。リサちゃんをはじめとする、何人かの極上の絶望を味わっていないんだ。せっかく大掛かりな準備を進めていたのに、それをどうしようかと思ってね。何通りか手段を考えていたんだけど、決め手に欠ける気がしてね。どうやったものかと、あれこれ悩んでいたのさ」

「・・・なるほど、それで結論は出たの?」

「それが出ないんだよね~。方法は何通りもあるんだけど、ノースシールの状況は相当混沌としているみたいなんだ。ティタニアには現状ではどうやっても僕は勝てないし、それにどうやらアルネリアの介入があったり、アノーマリーにも隠し玉があるみたいで、よほど時期と方法を見計らわないと藪蛇になりそうなんだよね」


 ドゥームが首を振りながら少々おどけてみせる。だが見た目ほどに余裕がないことは、オシリアにもわかっていた。


「そのためにクベレーやティランに介入したのではなくて? なんのために、あの魔王に密かに色々なことを吹き込んできたの?」

「まあそうなんだけどね。最後の一手を仕込む時間がなかったなぁってことなんだよ、実際。それにアノーマリーのところにはテトラスティンがいるでしょ? あいつは本当に何を考えているのかわからないから、不確定要素が多すぎるんだよ」

「確かにね・・・ノースシールには生物が少ないから、私たちみたいな悪霊がそもそも介入しにくいわ。難しいわね・・・」


 ドゥームに引き続きオシリアまで考え込み始めると、暇になったのはマンイーター。彼女はインソムニアを取り込み知性を増したとはいえ、その本性が変わるわけではない。マンイーターにとって、計画などは本来どうでもいい。ただマンイーターはドゥームに従いながら、その本能と欲求のままに行動するだけなのだから。



続く

次回投稿は、5/12(火)21:00です。

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