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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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封印されしもの、その63~テトラポリシュカ⑮~

***


 アルフィリースたちがアノーマリーやティタニアと遭遇している時、ピートフロートによって再度転移させられていたテトラポリシュカは、自分が奇妙な空間にいることに気付いた。


「やれやれ、今度は雪の中ではないようだが・・・雪の中の方がましだったかもしれんな」


 暗闇の中、テトラポリシュカがまず気付いたのは、地面の感触。温かいのはよいが、まるで誰かの体温のような温かみが地面から伝わってくるのは気色が悪い。それが証拠に、地面は時々脈打つように揺れている。

 空気も汚れていた。人の口臭を間近から嗅がされるように、臓腑の匂いが周囲には立ち込めている。あからさまに臭いわけではないが、臭気を軽度に含み、生ぬるく湿気が多い空間は、呼吸するだけでも精神的に参りそうだった。

 テトラポリシュカは息を潜めながら、ゆっくりと周囲の状況を探った。暗闇にいる中で慌てて魔術で光を灯せば、それは格好の的になることがある。周囲に敵意を示す者がいないことを悟ると目を徐々に慣らし、それでも埒が明かないことを悟ると、光の球を作り出して地面をころがしていた。周囲の様子が徐々に照らされ、テトラポリシュカはうっ、と不快感をあらわにしていた。


「とんだ魔窟に来たようだな。壁に巡らされたこれは血管か?」


 壁や地面は脈打っていた。傷つければおそらく血が出るだろうが、その気にはなれなかった。見知らぬ巨大生物の体内ということもありえる。攻撃すればどのような反撃があるかわからない。

 テトラポリシュカは夥しい数の戦場を潜り抜けた猛者である。その直感が、彼女を慎重な行動に出させていた。


「空気があるだけまだマシだが、いったいここはどこだ? ピートフロートめ、妙な場所に飛ばしてくれる」


 うかつにセンサーを飛ばすのもためらわれた。センサーは周囲の状況を探れるが、同時に反応できる者がいればこちらの位置を知らせることにもなりかねない。テトラポリシュカはゆっくりと歩き出したが、そのたび肉壁のような床がぐにゃりと沈むことが、なんともいえない不安を掻き立てる。


「おお、気持ち悪い。早くここから出たいものだ」


 だがその希望に反し、歩いても先を照らしても、出口らしきものは見当たらなかった。それどころか、歩くたびにどこからともなく自分に対する敵意が飛んでくる気がする。

 テトラポリシュカはまず壁に行き当たり、その後壁に沿って探索をしようかと考えたが、その方法は中断せざるをえなかった。ため息と共に、油断なくテトラポリシュカは呼びかけていた。


「見ているな? どこにいる、姿を見せろ」


 その言葉に対する返答はない。だが代わりに、天井からするすると巨大な目玉が降りてきた。不気味な光景だが、巨眼族というものもかつては確かに存在した魔物だ。明確な意思を持っているのかそうでないかも定かではなかったが、集団で行動する習性があり、気が付けば陣営に巨眼族がいたこともある。

 口が後頭部についている彼らは面と向かって話すことがほとんどないし、また知能が高い個体も少ないせいでテトラポリシュカは直接会話をしたことがほとんどない。会話が可能なのはそれぞれの集団の長数体くらいで、それでも会話に一苦労した覚えがある。一方でこちらの命令は行き届くようで、また同族では奇妙な叫び声や不快音でもって交信をしていた。何とも気味の悪い連中だったが、気配を消すことに長けた連中だったので、斥候としては重宝していた記憶がある。

 だが目の前の目玉は、テトラポリシュカの記憶とは違い、滑舌の良く自由に言葉を話してみせたのだ。


「お前は誰だ。情報にない」

「それはそうだ、初めて会うからな。迷いこんだのだが、出口はあるかな? できればこんなところは御免こうむりたくてね」

「迷いこんだ。侵入者ということか」

「ここの部屋の主がお前なら無断で立ち入ったことは謝るが、私としても本意ではなくてね。すぐに立ち去るから出口を――」

「その言葉、肯定とみなす」


 目玉は赤く光ると、するすると天井に引っ込んだ。同時に、地面が揺れて形を変形し始める。テトラポリシュカは思い出した。巨眼族が赤く光る時は、明確な敵意を示した時であることを。


「話が通じそうで通じない奴だな! こっちは疲れているっていうのに」


 テトラポリシュカは舌打ちをしたが、この部屋全体がどうやら敵の支配下にある様子。一刻の猶予もなかった。

 そうこうするうちに地面は裂けて口となり、あるいは肉が盛り上がって腕となり、目が増えたり、心臓のように脈打つ臓器もあったりした。臭気はますます強くなり、そこかしこからは酸のような溶解物や、ガスが噴出し始めていた。


「部屋自体が体内みたいなものか。普通の生き物とまるで逆だな。さて、どこから攻撃したものか」


 テトラポリシュカはとりあえず心臓のようなものが見える場所に魔術を打ち込もうとした。だが魔力の収束が思うようにいかない。人間の胴体はある火球を作りたかったのに、できたのは手のひらよりもやや小さな火球だった。

 思いがけない結果に、テトラポリシュカが悪態をついた。



続く

次回投稿は、5/5(火)22:00です。GWなので、連日投稿してみましょう。

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