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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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封印されしもの、その62~反作用③~

「ピートフロート、待ちなさい。あなたは一体何を考え、何をしようとしているの?」

「多くを語ることはできない。ただ、結果が君のためになればいいと思っているよ、アルフィリース。最初はただ命じられて、次に興味が湧いて君やラーナに同行したけど、今は君のことを本気で案じているのさ。

 やり方には諸説あると思うし、君の考えややり方にそぐわないこともあると思うから、勝手にやらせてもらった。でもこれで最後だ」

「最後?」

「さすがに精霊として君に干渉しすぎた。いかに真竜の加護を受ける立場といえど、これ以上の干渉は自然の摂理を壊すだろう。私は君の元を去るよ、アルフィリース。その方が互いのためだろうから。

 摂理を壊した代償は、自分ではなく周囲に還っていく。ここにいる魔女、そして精霊や魔剣はゆめ心得ておくことだ。過ぎたる力はというのものは自在に使えるものではない。オーランゼブルはそのことを忘れている。付け入る隙があるとしたらそこだが、もう既にアルフィリースが気にかける問題ではないのかもしれない」

「どういうこと?」

「君も可能性の一つとして考えているのではないのかい? 他の誰が気づかなくても、この闇の上位精霊はそうそうごまかせるものではない」


 ピートフロートの言葉にアルフィリースははっとしながら、同時に険しい顔になった。


「ピートフロート、あなた・・・なら、テトラポリシュカはどうしたの?」

「言ったはずだよ、勝手にやらせてもらったと。これからどうなるかは、私もあずかり知らぬことさ。ひょっとしたら間に合うかもしれないし、そうではないかもしれない」


 ピートフロートの意味ありな言葉の直後、工房が大きく揺れた。地震ではない。何らかの衝撃による揺れだ。衝撃の後、ピートフロートは続けた。


「アルフィリース、上位精霊としての最後の忠告だ。人の手の届く範囲というものは知れている。人一人が守れるものはそう多くない。いつの時も守るべきものは、その手から溢れていく。

 嘆くのは自由だが、嘆きすぎてはいけない。この世界では、人はそれと知らないだけで容易に自然の摂理を外れることができる。人間が人間を辞めることも、実はとても簡単にできることなんだ。特に君の場合は容易だろう。その素質も、伝手もある。

 だが間違いなく、その代償は訪れる。忠告するまでもなく君は賢いから知っているかもしれないが、念のため、ね。絶望を深さで測ってはいけないよ。時と共にいかなる絶望も薄れるものだ。希望がそうであるように」

「ピートフロート、抽象的な話は結構よ! 答えなさい。テトラポリシュカを、どうしたの?」

「・・・上位精霊によるありがたい薫陶を無視するとはさすが。では答えてあげよう。君も考えた方法の一つを、もっと直接的にやらせてもらった。私と彼女はちょっとした知り合いでね。もう彼女に憎まれるのにも慣れたから、このくらいどうってことはないさ」

「・・・なるほど、やってくれたわね」

「君の描いていた理想とは違うかもね。だけどこの場は想像以上に混乱している。それにアノーマリーなるものについて多少調べたこともあるけど、想像以上にあれは容易な相手ではない。ティタニアがいたとして、果たして倒せるかどうか。犠牲失くして勝利はないかもしれない。

 さて、そろそろ行くよ。そこのウィクトリエが凄い形相で睨んでいるから、殺されたくはないからね」


 ピートフロートは少々おどけた様子も見せながら、その姿を闇に沈めて消えた。多くの団員にとって、ピートフロートは親しんだ存在ではない。姿を隠しているわけではないので傭兵団に居候していたことは知っている者がほとんどだが、姿は妖精の時に似せていたためせいぜいユーティと同じ妖精だと多くが思っていたし、上位精霊だと知っている者は魔女やアルフィリースなどごくわずかだった。

 その魔女にして、まさか剣帝をあっさりと罠にはめるほどの魔力を隠しているとは、誰も思ってはいなかった。上位精霊とは魔力の塊のような存在だが、そのものが戦闘に長けているわけではなく、ウィンティアのように戦いなどとは無縁だと考えられていたから。ピートフロートがかつて魔王として活動していたことを知っているのはラーナくらいだったが、そのラーナにして、ピートフロートがここまでの力を隠しているとは思っていなかった。

 ただアルフィリースだけは、ピートフロートの性質について何らかの直感があった。あれは自分と『よく似た』者だと。ただ、自分よりもためらいがなく、思った通りに行動に移してしまうのが、どうしてもアルフィリースにはまだ納得がいかないところがあるとはいえ。

 アルフィリースとて考えた可能性なのだ。テトラポリシュカを単独で敵にぶつければ、アルフィリースたちの被害を最小限に抑えられるであろうことは。その手段を考えていなかったわけではない。ただ、そこまでアルフィリースは慈悲なく行動に移すことができなかっただけだった。

 だが、いずれピートフロートが行ったように、無慈悲な決断をいずれ迫られることは、なんとなくアルフィリースも想像していたのは違いない。



続く

次回投稿は、5/4(月)22:00です。

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