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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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封印されしもの、その59~取引④~

「どうしたセイト。何があった?」

「・・・来る。でも大丈夫だ、俺たちに対する殺意はない。下手に動かない方がいいだろう」

「? 何のことだ?」


 セイトは独り言のように言ったきり、レオニードの言葉には応えなかった。その直後、異変は起きた。

 まず、アノーマリーの上半身が突如として消えた。目の前の光景が削られたことに目を丸くするアルフィリースたち。そして、背後から凛とした声がかかった。


「裏切るだけでは飽き足らず情報を漏らし、敵するとは。恥を知りなさい、下郎」


 殺気もあらわによく通るティタニアの声が聞こえたかと思うと、忘れていたようにアノーマリーの切り口から血が噴き出した。ティタニアがいたのは部屋の入り口。アルフィリースたちのはるか後方から、剣圧だけでアノーマリーの上半身を吹き飛ばしていたのだった。

 同時に、頭上からアノーマリーの声がする。斬られたのはまたしても分身であったらしい。その口調には恨みつらみなどなく、どこかおどけているようでもある。


「不意打ちは卑怯じゃないのか、剣帝ティタニア」

「それは相手がまっとうな生き物の場合だ。得体のしれぬ、まして精神まで汚濁した者相手に、尋常に立ち会う気は毛頭ない」


 ティタニアが猛然と殺気を放つが、アノーマリーは相変わらずへらへらとしたままであった。


「うわー、久しぶりに真剣になじられたね。ゾクゾクするよ!」

「貴様こそその態度、微塵もぶれることなく変態のままだ」

「その調子だよ! もっとよろしく!」


 アノーマリーがぱちんと指を鳴らすと、下半身だけになった個体がティタニアの背後に転移し、傷口から触手を伸ばしてティタニアを羽交い絞めにした。同時に両腕は剣が振れないように拘束している。


「絡みついといてなんだけど、キミに絡んでいる時間はないんだよね!」

「こちらにはある」

「せっかくの誘いだけど、逢瀬はまたの機会に!」


 背後のアノーマリーがぶくぶくと膨らみ、自爆の様相を見せる。同時にアノーマリーは手の中に炎の球を作り出し、魔術で攻撃する姿勢を見せた。本格的な戦闘の様相を見せる状況に、アルフィリースたちが慌てて距離を取る。

 ティタニアに絶対不利な状況で、しかし悠然と構えていた。だがその背筋にぞくりとしたものが走る。元凶は背後で膨れるアノーマリー。爆発するのだろうが、その規模ではなく、爆発を食らうこと自体がまずいと感じ取れた。

 ティタニアは一瞬で全身の筋肉を膨張させ、直後脱力。その際にできたわずかな隙間を利用して、背後の膨張するアノーマリーを突き飛ばした。そして背中の黒い大剣を抜き、転移でどこかに飛ばしてしまった。

 そしてほぼ同じくして迫る火球を、黄金の大剣で弾き返す。


「げっ」


 アノーマリーが驚いて弾き返された火球を躱すが、その隙を利用してティタニアは跳んで間を詰め、アノーマリーを微塵にしていた。だが、アノーマリーとティタニアは同時に舌打ちした。


「これも偽物か!」

「そういうこと。だけどあんまり予備がないんだよね。この攻撃でも時間稼ぎすらできないとなると、どうしたものかねぇ・・・未完成だけど、やっぱり使いますか」


 首から下は八つ裂きにされたアノーマリーの目は、口調程に笑っていなかった。さしもの彼にもティタニアを前にして、軽薄な口調程に余裕はないのかもしれない。

 アノーマリーの体が崩れて崩壊し、ティタニアは一度剣を収めた。その目が鋭く、アルフィリースを捉える。その目には、アルフィリースを牽制するに十分な威圧感があった。


「アルフィリース、先に一つ伝えておく。私の邪魔をするな。いかなる理由があろうともだ」

「・・・さて、それは困ったわね。私も目的があってここにいるのだけれど」


 アルフィリースは慎重に言葉を選ぶ。先ほどアノーマリーと話す時よりも、何倍も慎重に。ティタニアの表情は真剣そのもの。アノーマリーと違い、いかなる冗談も通じないことがわかっていた。それでも交渉くらいはできないかと探っていたのだが。


「アルフィリースよ、私にも目的がある。それはアノーマリーを殺すことだ。見た通り、奴は本体がどれかも知れん。だが奴を殺しきるなら、準備のできていない今が最大の機会となろう。ならばこそ、私はいかなる手段を用いても奴を殺す。周囲のいかなるものにも配慮することはないかもしれない。いいか、これは忠告ではなく事実だ。命が惜しければ今すぐにここを立ち去れ」

「・・・立ち去ることには同意するわ。でも今すぐにと言うのは同意しかねるわね」

「そうか。ならばせいぜい巻き添えを食らわぬように気を付けることだ。それと一つ確認しておきたい。先ほど聞こえてしまったのだが、テトラポリシュカ。奴を仲間に引き入れる気があるのか、貴様は?」


 この質問に周囲の空気が一層冷えたような気がした。アルフィリースもさすがに返答に悩んだ。答え方一つで、自分たちにティタニアの刃が飛んでくる可能性があると感じた。いや、制約のせいでアルフィリースには刃が向けられないとしても、周囲の人間がどうなるかはわからない。

 だがアルフィリースは正直に答えた。虚偽の答えの方がよほど危険な気がしたのだ。


「仲間・・・にはこれからなる予定よ。どうも彼女は気が合いそうだからね。まずかったかしら?」

「いや、まずいとは思わん。テトラポリシュカが気の良い女だというのは知っている」


 予想外の答えにアルフィリースは意外そうな顔をしたが、ティタニアの言葉は鋭かった。



続く

次回投稿は、4/28(火)22:00です。

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