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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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封印されしもの、その57~取引②~

「――なるほど、なるほど、そうきたか。まさか逆にボクに取引を持ち掛けるとは。それは考えていなかった」

「で、どうするの? 受けるの、受けないの?」

「ああ、受けないわけにはいかないだろうさ。でなければ面白くない、そうだろう?」


 アノーマリーはさも面白そうにニタニタと嫌な笑みを浮かべた。彼にとってそれは称賛だったのだが、見ている者には不快極まりなかった。


「で、テトラポリシュカを撤退させる代わりにオーランゼブルの目的を教えるのだったね。だけど本当にテトラポリシュカを撤退させられるのかい?」

「完全に保証できることなど、この世にそうありはしないわ。でも私には自信がある、それで十分としてくれないかしら?」

「そりゃあそうか。下手な言葉より、今の言葉の方がよほど信頼できるね。だがボクもオーランゼブルの目的に関しては完全に知っているわけではなく、あくまで推論に過ぎない。それでもいいかい?」

「十分よ」


 アルフィリースは力強く頷いた。アノーマリーはしょうがいないとばかりに肩をすくめ、ややおどけて話し始めた。


「まずボクの黒の魔術士での役割は、魔王を作ること。これはオーランゼブルの尖兵としての意味を持っていたと思う。ボクは魔王を作るための素材を集める手伝いをオーランゼブルにしてもらう代わり、できた作品を彼に提供していた。彼の意に沿うような志向性を持たせることもあったが、おおよそボクの意図通り作らせてもらっていた。

「面を制圧するための大型魔王。点を制圧するための運用性を重視したヘカトンケイル。そう考えてよいのかしら?」

「その通りだと思うよ。合成獣って自然と大きくなることが多いから前のような魔王ができてしまうんだけど、それじゃあ運用には向かないからね。魔術で転移させるのも一苦労だし」

「一つ疑問があるわ。本気で人間の制圧を考えているなら、どうして魔王に自己増殖の能力を付けなかったの?」


 アルフィリースの疑問の意図を奥の者は理解しなかったが、アノーマリーは本当に嬉しそうに体を震わせた。


「・・・本当に君は優秀だ、アルフィリース。こんなことになっていなければ、ぜひとも助手に欲しいくらいだよ」

「御免こうむるわ。で、どうなの?」

「結論から言うと、増殖能力を付与することは理論上は可能だった。だがそうなると、彼らはあっという間に生態系の上位に食い込み、様々なバランスが崩れるだろう。だからこそあえて彼らには自己崩壊の命令を組み込み、自己増殖の能力を剥奪した。優秀な兵士の条件とは、強力で命令に従順であることに加え、一定の周期で死ぬことだね。長く生きているとろくなことがない、クベレーのように」

「クベレー?」

「こっちの話だよ。その点、最近開発した魔王は優秀だ。ボクはバーサーカーと呼んでいるけど、彼らは非常に強力で、寿命も短い。極めつけは、人間から変身が可能なことだね。志向性もある程度事前に決定できるし、運用しやすいことこの上ない」

「待って、人間から魔王に変身するですって!?」


 アルフィリースが恐ろしいことを聞いたと、悲鳴に近い声を上げた。アルフィリースがこのような声を発するのは非常に珍しいことで、アノーマリーの言葉の意味を理解したリサやライン、魔女たちもまた青ざめていた。


「どんな条件で変身するの?」

「条件は少し不安定だけどね。移動手段を確保するために元は考え出した理論なんだけど、魔王を任意の場所で『発生』させることが現在では可能だ。方法は簡単、エクスぺリオンっていう液体を濃度を調節して体に打ち込むだけ。それで即席の魔王が完成する。ただ発生後の成長調整ができないし、ある程度は変身後にどのような姿になるかはわかるんだけど、完全に予測できるわけじゃない。だから細かな作戦では使用できないし、局地的に混乱をもたらすのには向いているかな?」

「・・・なんて恐ろしいものを作るの・・・一体なんのために?」

「さて、どうだろうね。ただオーランゼブルは喜んでいたね。彼の目的はこの世に混乱をもたらすことなんだろうから」

「混乱をもたらしてどうする。元々この世の中は一見安定に見えても多少の混乱は常にあるじゃねぇか」

「大規模な戦争が必要なんだよ、たぶん」


 アノーマリーはおどけてみせる。アノーマリーにも最初から想像がついていたことだが、オーランゼブルの目的はおろらく――


「調律のとれた、大規模な戦争。それがオーランゼブルの欲したものだ。そのためにカラミティは潜入工作を続け、サイレンスは人形を使って工作を重ね、ヒドゥンは暗躍していた。ライフレスやブラディマリアは魔王となる材料の召集。ドラグレオはなんのために運用されていたのかわからないけど、おそらくはカラミティとブラディマリアに対する抑止力だ。制御の効かないドラグレオに以前君たちも遭遇したと思うけど、ボクらの手に余る存在だからね。

 あれ? だったら――」


 ドゥームは何のために仲間に加えたのかとふっとアノーマリーは考えた。彼の実力は最初は非常に劣っていた。確かに死ににくい人材であり、各所で混乱をもたらしたり土地を汚染したりと一役買ってはいるが、そんなことはブラディマリアやカラミティでもできることだ。ドゥームが仲間であることの明らかな有用性が考え付かない。

 だがアノーマリーの悩みは、アルフィリースの言葉によって中断された。



続く

次回投稿は、4/24(金)10:00です。

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