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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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封印されしもの、その56~取引①~

「それは困る、面倒なのは嫌いなんだ。キミたちを倒すのなんてわけもないと言うほど尊大でもないけど、今は手間をかけたくない。要点をかいつまんで話すことにするよ。

 ボク自身が魔王だ。つまるところ、ボク自身が合成によって生み出された生命と言うことになるね。今までキミたちが相手にしてきた魔王となんら変わりのない生物さ。元になった命はあるけれど、自然発生した命じゃないね」


 さらりと衝撃の発言をしたアノーマリーに対し、アルフィリースたちはそれぞれの反応を示した。訳がわからないというもの、驚嘆の表情をするもの、侮蔑、憐れみ、嫌悪。その中でアルフィリースだけが何も表情を変えることなくアノーマリーの言葉を待っていた。

 アノーマリーはそんなアルフィリースたちの表情の満足したのか、あるいは想像していたのか。アルフィリースの方を見ると彼にしてはやや自嘲気味の表情で語り続けた。


「憐れみは結構だよ、諸君。ボクは確かに生物としての起源は怪しいものだが、現状の自分に満足していないわけではない。そもそも個は何か、という議論に関してはとても一日では語りつくせないからここでは省略するけども、ともあれボクは自我と目的を持ってここにいる。それが最も重要なことさ。

 そしてボクを生み出した魔術士は、一つの目的を持っていた。それは究極の生命を作ること」

「究極の生命?」

「そう、究極の生命だ」


 アノーマリーはアルフィリースが不可思議な顔をしたことがよほど面白かったのか、得意そうに問いかけた。


「的を得ないといった表情だね」

「抽象的な表現過ぎてね。究極、といっても何をもって究極と呼ぶのかがまるでわからないわ」

「その方向に思考が及ぶだけでも大したものだよ。ボクを作った魔術士が考えた究極の生物とは、人間よりも優れた存在のことだ。彼はどうやら人間至上主義過ぎたようでね。人間がこの世で最も優れた生物だと信じ込んでいた。ボクもある意味では同意するけど、実際検証の余地が多い事柄だよね」

「そうね。究極の生物が人間、とはとてもではないが言えない気もするけど」

「ところが意外とそうでもないんだ。人間は自分で気付いていないけど、人間の意識や自我と言うものはそれぞれが根源、あるいは太極、あるいは――まあいいか、これも長い話だ。

 ともかくボクは自分を作った魔術士の命令通り、究極の生命を研究しているのさ。その集大成が『生命の書』であり、ボクは正直これにしか興味がない。その他のことはどうでもいいんだ。

 だから生命の書が完成すれば、これはきっと人間にとっても利益になる出来事だと思うんだよね。だって、とても優れた種族を人工的に作り出すことができるんだから。今まで人間が誰もできなかったこと――たとえば辺境の冒険だったり、もっと進めば『外の世界』に到達することだってできるようになるかもしれない。

 そりゃあ短期的にはたくさんの死者が出るけどね、人間の歴史なんてどうせそうやって作られてきたじゃあないか。王と言う名の意識の統一者の元に、国同士が争い、勝った方が負けた方の意識を駆逐してのし上がる。今の人間の歴史はそのもののはずだよ。その過程でそりゃあすごい数の人間やその他の生物が死んだはずだ。ボクのやっていることは、ある意味では必要な犠牲なんだよ」

「ちょっと待て、お前は――」

「なるほど、わかったわ。先ほどの取引、受けましょう」


 ラインが何事か反論を言いかけた時、アルフィリースが突然アノーマリーの意見を肯定した。その発言に、ウィクトリエやロゼッタですら眉を顰めた。


「おいおい、アルフィ。お前ともあろうものがこんな糞野郎の言い分を聞くのか? さしものアタイでも、こいつは今ここでやった方がいいと思うぞ」

「黙りなさい、ロゼッタ。私はあなたたちの命に対して責任がある。今ここでこんな化け物と戦う気はないわ。このアノーマリーはその気になれば私たちを殺すことは容易いと思っているし、私もここで余計な消耗をする気はないわ。私はこの取引を受ける」

「んなっ・・・」

「へえ、賢い選択は好きだよ。面白みには欠けるけどね」


 アノーマリーがにやにやと小馬鹿にした笑みを浮かべており、仲間は非難めいた目をアルフィリースに向けていたが、アルフィリースはその一切を無視していた。そしてあろうことに、こんな提案をしたのだ。


「ではあなたが私たちを見逃す代わりに、この場所から私たちは去るわ。それでいいわね?」

「ああ、冗談で取引なんて言葉は使わない。それでは面白くないからね。約束は守るから面白いのさ」

「では今度は私から取引よ、アノーマリー。この場からテトラポリシュカを撤退させる代わりに、黒の魔術士――ひいてはオーランゼブルが何をなそうとしているのか。その計画を教えなさい」


 アルフィリースの発した言葉に、今度はアノーマリーが目を丸くした。先ほどの人を小馬鹿にしたような表情は消え失せ、驚きの表情で目を見張っていたのである。



続く

次回投稿は、4/22(水)10:00です。

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