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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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封印されしもの、その54~テトラポリシュカ⑭~

「ピート、貴様! やっていいことと悪いことがあるぞ!」

「知ってるよ。でもこちらも一刻を争うかもしれなくてね。昔のよしみでもう一度言うけど、君ひとりの犠牲で済むなら安いものなんだよ、ポリカ。むしろ、死んでくれればありがたいとさえ思っている。

 君は知らないことだけどさ、君がもしアルフィリースと深く関わろうものなら、非常に世の中の流れとしては困ったことになる。アルフィリースが間違いなく君を受け入れるであろうからこそ、余計にまずいんだ。世の中は君のやったことを忘れたわけじゃない。その全てが悪だったとは思わないが、それでも噂や悪評と言うものは勝手でね。君を保護していたということがわかった瞬間、何のかのと難癖をつけてアルフィリースはあらゆる集団から睨まれ、討伐されることになる。ただでさえ、彼女は魔術協会に睨まれている。ポリカ、君はもうこの大地以外で生きていくことはできないんだよ。

 このノースシールの封印が解けた段階で、君の運命は決まったんだ。余計な希望は持たないことだ、大魔王テトラポリシュカ」

「・・・それは真竜の使い魔としての意見か。ピート」


 テトラポリシュカが友人に真摯な視線を送った。ピートフロートはその視線に耐えかねたが、視線を外すことの危険性をわかっていたため、その視線を正面から受け止めざるをえなかった。


「いや、ただのピートフロートとしての意見だよ。せめて時間があればと思う。別の方策を立てる時間があったかもしれないから。恨んでくれて結構だ」

「いや、おおよその事情は察することができる。初代の氷原の魔女も私に言ったことだ。『問題が解決したわけではない、先延ばしになっただけだ』とな。だが時間が解決することもあるだろうと話し合ったのだ。だが・・・解決はしなかったようだな」

「あと50年早ければ。あるいは50年遅ければ事情は変わっていただろう。今なのはまずかったよ、ポリカ。これから戦乱の世になる。飽和状態となったこの世は、これ以上の混乱に耐えられない。

 黙ってこのまま戦って死んでくれ。もしそれでも生き延びることができたら――その時は好きにするといい。僕を殺してくれてもいい」

「そんなことはしないよ、ピート。今では数少なくなった友人じゃないか、なあ?」

「・・・そうだね」


 ピートフロートは転移を起動し、テトラポリシュカを送り出した。行き先は先ほどの工房の中。ピートフロートは抜け目なく転移の起動式を仕掛けてから撤退したのである。

 ピートフロートは一人雪原の中で天を仰ぎ、ため息をついた。転移を起動させたときのテトラポリシュカの表情が忘れられない。なんと、穏やかな表情だったことか。まるで全てを許すかのように。ピートフロートは天を仰ぎながら独り言ちた。


「君のことは好きだけど、君ってやっぱり残酷だよポリカ。せめて恨んでくれたらよかったのに・・・」


 ピートフロートはそして自らも転移を使用し、アルフィリースたちの元へと戻っていった。


***


 糸使いの魔王アラウネから逃れたヴィターラは、かろうじて一命をとりとめていた。彼は探索を続けていたオロロンと合流することに成功し、一度広間へと戻ることにした。オロロンも各所で魔王やヘカトンケイルの部隊と散発的に交戦し、徐々に自軍の戦力を消耗させてしまっていた。そして敵の戦力や状況などを考慮し、力押しではどうにもならないことを悟って撤退を決意する。事実上の敗北と言ってもよかったが、一族の長としての責任感が彼に勇気ある撤退を選択させた。

 そして撤退をしたところ、入り口の広間でアルフィリース達と遭遇したのだった。


「何者!」

「お前たちこそ!」

「双方落ち着きなさい!」


 真っ先に仲裁に入ったのはウィクトリエ。彼女は幻獣であるオロロンやヴィターラの存在を知らないわけではなかった。そのためいち早く彼女が先頭に立ち、事情を説明したのだった。


「・・・なるほど、事情はわかった。テトラポリシュカが動いていたのか。それほどの事態だということか」

「ええ、テトラポリシュカ様は事態を重く考え、また封印が解けたために人間達を外の世界から呼び寄せました。このことにより外の世界の事情や、あわよくば『渡り』を付けたいと考えていたようでしたが。まずは事態収拾をしないと何ともならないと考えまして」

「もっともなことだな。このノースシールも変転の時ということか。だが、肝心のテトラポリシュカはどこだ?」

「それが・・・」


 ウィクトリエは首を横に振った。ピートフロートはいつの間にか合流していたが、彼は先に撤退し、安全な場所を確認していたと言い張るばかり。行動が怪しいことは明らかだったが、証拠がないため誰もそれ以上問い詰めることができなかった。

 当然ウィクトリエもピートフロートの行動を疑ったが、仮にも上位精霊である彼に直接意見や反抗することには限度がある。ウィクトリエはこれ以上の追及を不可能と考え、黙らざるをえなかった。

 ウィクトリエの表情を不可解に思ったオロロンだが、ヴィターラはなんとなく彼女が苦しい立場であることを察したようだ。



続く

次回投稿は、4/18(土)10:00です。

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