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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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封印されしもの、その50~戦士の覚醒⑤~

「言わない方が良いかと思ったが、どのみちあなたたちはこの件に関わるのでしょう。協力を仰いだ以上、話しておきましょう。それにアルフィリースに死んでもらっては、お師匠様は困るようですし。

 この工房の主はアノーマリー、我々の中で魔王の作製に携わっていた者です。各所で集められたり行方不明になった人間、あるいは生き物全般――死んでいても関係ないようですが、それらはアノーマリーが回収し、魔王として運用していました。奴がいなければ、お師匠殿の計画は実行に移せなかった、あるいは形を変えていたようです」

「つまり、そいつらが溢れ出たからこの大地は危険にさらされたと?」

「でしょうね。どうしてそうなったかは、アノーマリーにもわかっていないようでしたが。ですが、大切なのは結果です。アノーマリーは私たちの計画よりも大切な何かがあり、結果として離反する決断をした。ならば処断されるのは当然でしょうね」

「なら、ティタニアはアノーマリーを殺しに来たんだね?」

「そのように命令を受けています。もっとも、奴がこちらに帰ってくる気があれば、交渉くらいはしてみようかと考えていますが。お世辞にも好きだとは言えぬ変態ですが、一応仲間でしたので。その分の義理くらいは果たしておきたいと思います」

「優しいんだ」

「仁義礼節くらいは弁えていますよ。ドラグレオのような破壊魔や、ドゥームのような快楽殺人者になるつもりはありません。いかな立場になろうとも、人としての矜持を忘れたことはないつもりです」

「人としての矜持、ね」


 レイヤーはティタニアの言動に矛盾した何かを感じたが、今その点を指摘するのは非常によくないような気がした。事実、オーランゼブルの精神束縛による矛盾を迂闊に指摘すれば、矛盾の元をただすために質問主を攻撃する可能性もあったが、レイヤーがそうならなかったのは運がよいとしかいいようがない。

 レイヤーにとって大切なことはまずこの場を生き延びることであり、黒の魔術士の目的がどうだとか、ティタニアやアノーマリーがなぜ戦うことになったかなどは二の次だった。肝心なのは、アノーマリーがこのノースシールの騒乱の元凶であり、それらの調査、あるいは解決のために自分たちは派遣され、そしてティタニアもまた同様の目的のためにこの土地を訪れたということだ。

 ならば話は早い。


「ティタニア、僕からも個人的にお願いしたい。少なくともこの戦いの決着がつくまで、僕を同行させてもらえないだろうか」

「なぜ」

「今目的が同じなら、戦う理由はない。それどころか、目的が同じなら手を組むことは可能なはずだ」

「断ります。その剣で、先ほどの礼は果たしたはずです。もう義理は感じないし、それ以上に邪魔でしかありません。むしろ私の戦いの邪魔をしないようにこちらから頼みたいくらいですから。それにこう言ってはなんですが、あなたがたとしても、私とアノーマリーが戦った方が都合がよいのでは?」

「そうだ。だからこそ僕と組んでほしい。アルフィリースたちがアノーマリーの場所に到達する前に、何としても僕たちでアノーマリーを仕留めたいんだ」


 レイヤーの口ぶりに、ティタニアが納得できないといわんばかりに首をかしげた。


「不思議なことを言う少年ですね。あなたはアルフィリースの仲間ではないのですか。なぜそう自分一人で戦おうとするのです?」

「仲間・・・かどうかはわからない。でもあの人は僕にとって大切な人だ。大切な仲間を救ってくれた、生きる場所と生き甲斐をくれた。僕はあの人の障害になるであろう敵を、片端から斬って回る。それが僕の使命だと思っている」

「その割に騎士剣を使うようですが、それは騎士の宿業ではないでしょう。それどころか、剣士の使命でも戦士の役割でもない。やっていることの本質だけ見れば、それは外道の所業です。わかっていて言っているのでしょうか」

「無論だ。僕は格好いい何かになるつもりはない、元より外道、鬼畜で結構。人から蔑まれようと、ただあの人のために剣を振るう。その覚悟はできている」


 そう、レイヤーのことを知っていながら、手を差し伸べてくれたあの日から、レイヤーの決意は固まっていた。それに、傍にはラインや他の騎士、剣士たちが大勢いる。おそらく、ゲイルやエルシアも成長すればアルフィリースの周りで剣を振るうようになるだろう。レイヤーは、不意に襲い掛かる火の粉が彼らを燃やしてしまわないように、その力を密かに振るうだけが望みだった。命すら惜しむようなものではなく、その人生に望むものはない。人とは違う能力を持って生まれ、汚い所業も平気で行えるほど倫理観が欠落していると思っているレイヤーは、一生を日陰で過ごす覚悟はもう決まっていた。

 ティタニアはレイヤーの顔をじっと見つめていたが、その言葉と覚悟に嘘がないとわかると、一つため息をついた。


「・・・いいでしょう。君の是非が私に問えようはずもない。あなたの提案を受けるとしましょう」

「では僕と協力を?」

「勘違いしないでいただきたい。私はあくまで自分に与えられた仕事を果たすだけです。邪魔にならない限り、同行させてやってもよいだけです。ですが、このままでは高い確率であなたは私の足を引っ張るでしょう。いかに優れた剣を持とうとも、満足な戦い方も知らないようでは」

「幻獣と三日三晩戦い、屈服させた。それでも不足だろうか」

「ええ、不足です。そういう次元の戦いの話ではありません」


 ティタニアはどこから取り出したのか、一本の剣を手に持っていた。思わずレイヤーが目をこすって確かめたが、どこから取り出したのかはまるで見当もつかなかった。

 ティタニアがその剣を無造作に放ってレイヤーに寄越した。レイヤーが受け取った剣は一見何の変哲もないように見えたが、剣自体が怪しい殺気を放っているように感じられた。



続く

次回投稿は、4/10(金)11:00です。

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