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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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封印されしもの、その47~呼び戻されしもの①~

***


 ヴィターラは目の前の光景が信じられなかった。この迷宮の通路を通ることのできないヤマゾウたちは外で待たざるをえず、幻身できるヴィターラだけがこの場所に来た。もちろん幻身すると戦い方は愚か、立ち振る舞い方まで変わってしまうため、勝手が違うという事情はある。だが基本的に自分の体である以上人間の姿になろうが、扱いに困ることはほとんどなかった。

 それに、人間の姿になって時々雪原を歩くのはどこか新鮮な感じがするので、若い頃のヴィターラは良く変化して雪原を冒険するのがひそかな楽しみだった。もちろんその体のまま戦いに巻き込まれたこともあるが、並の相手にヴィターラが手こずることはまずなかった。

 だが目の前に出現した魔王は、ヴィターラの想像をはるかに超えていた。いや、正確には魔王が3体いるのだが、そのどれもが見たこともないくらい強力で、共に戦うキバヒョウやユキオオカミたちの攻撃を意にも解さぬかのごとく薙ぎ払う。

 どれも姿は人に似ている。一体は真っ白な棒が人型をとったような姿をしており、その体は金属なのか、キバヒョウやユキオオカミの攻撃をものともしなかった。眼も口もない朴訥な棒きれのような魔王は、無造作に打ち払う仕草で一匹一匹のキバヒョウたちを確実に打ち倒していく。その息の根を止めるまで、原型が残らぬほどにキバヒョウたちを執拗に殴る様に、さしも勇敢な獣たちもたじろいでいた。

 他2体は姿こそ人間であるが、一体は剣士のように剣を振るい、その剣がうねる蛇のように獣を薙ぎ払う。そしてもう一体は頑強な体にものをいわせ、自らが傷つくのも躊躇せず獣を締め殺す、あるいは殴り殺していた。彼らが人間でないとわかるのは、目がナメクジのように飛び出ているからだ。言葉は人間そのものだが、容姿は人間のそれから既に逸脱していた。

 そのうち殴り殺していた、大柄な魔王が剣を使う魔王に問いかけた。


「ケルスー兄ちゃん、こいつら弱いよ。すぐ死んじゃう」

「そうだなボート。だが弱くても別にいいじゃねぇか、この迷宮を守るのが俺たちの役目なんだからよ。アノーマリー様にそう言われたんだから、しょうがねぇじゃねぇか。それに、手ごたえのありそうな奴なら一体残っているぜ」


 剣を持つ魔王、ケルスーがじろりとヴィターラを睨んだ。大柄な魔王ボートはヴィターラを見ると、にたりと気色の悪い笑みを浮かべ、巨大なサルのごとく宙を飛んで襲い掛かった。

 ヴィターラはその攻撃をかわしたが、ボートの手は不可解に伸びてヴィターラを捕えんと追いかけてくる。


「待ちなよぉ、遊ぼうよ!」

「ごめんだな」


 ヴィターラは地面を踏みしめると、大地を魔術で隆起させて道を塞ぎ、そのまま逃げに徹した。仲間をやられて退く気はなかったが、これ以上の損害は避けたいのと、一体ずつおびき寄せて倒そうと思ったのだ。

 ボートは盛り上がった壁を壊して追いかけようとしたが、ケルスーがそれを止めた。


「待ちな、ボート」

「なんだよ、兄ちゃん。今からいいところなのに」

「放っとけ、俺たちの仕事は奴らを全滅させることじゃない。撤退すればそれでよし。仮に出直してきても、俺たちが相手をする必要はないんだ。アラウネの奴が追っかけてったからな。あいつに好きにさせとけばいいんだ。どうせこの迷宮は奴の腹の中と同じだからな。一文にもなりゃしねぇ余計な仕事はするな」

「それもそうだね。でも、報酬の話ってアノーマリー様としたっけ?」

「ん・・・そういやしてねぇな。どうもやる気がでねぇと思ったら、俺としたことが成功報酬の話をすっかり忘れていたぜ。なんで傭兵の俺らがタダ働きしねぇといけないんだっていう」

「そうだよ。大切なのは、戦を生業とする者としての意識だって言ってたじゃない」

「そうだな。じゃあさっそく報酬の交渉をアノーマリー様とするとしようか。おい、引き上げるぞボート」

「あいよ、兄ちゃん」


 どこか外れたこの兄弟の会話は、転移の魔術と共に消えた。その様子をひっそりと見守っていた者がいることは、彼らも気付いていない。

 そして一方、一時的に撤退したヴィターラ。残った仲間をまとめて体勢を立て直していたが、嫌な予感が常に付き纏っている。



続く

次回投稿は、4/4(土)11:00です。

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