封印されしもの、その46~戦士の覚醒④~
「貴女は敵か?」
「そうであるなら、こんなことはしません」
「ならば何の目的が?」
「落ち着くがよいでしょう、少年よ。もし私が敵なら、我々は既に剣で語るのみ。剣士に言葉は不要ですから。だがそうでないなら。好んで戦う必要があるとは思えませんね」
諭すように告げられ、レイヤーは冷静さを取り戻す。
「・・・わかった。では僕を助けた目的を聞きたい」
「交換条件を出したいのです」
ティタニアはくるりと広い空間の周囲を見回した。辺りに敵の気配はない。ヴォルスが率いた一団も、もはやレイヤー以外に生存者はいなかった。
「既にここで一日以上探索と戦い通しですが、不眠不休で戦ってはいつか不覚を取ります。そろそろ休息が必要でしょう」
「なるほど。休む間、番をしろと」
「そうです、もちろん交代で私も番をしましょう。必要ならば、私が持っている食糧を分けてもよいですし」
「食糧は持っているけど、たしかに休憩は欲しいね。いいよ、乗った。だけど、あなたほど強ければ、僕と組む必要はないのでは?」
「眠っている私よりも、起きている君の方が十分鋭いでしょう。そのぐらいの技量を持っていると判断していなければ、そもそも話を持ち掛けていません」
「それもそうか。無駄なことを聞いたね」
「質問は以上でしょうか。よければ、さっそく眠りたいのですが」
ティタニアはさっさと壁を背にし、剣を地面に突き立てて眠ろうとしている。レイヤーは慌てることなく、冷静に質問した。剣帝を前にしても慌てることがないのは、レイヤーの肝と覚悟が据わっているからなのか。
「眠る前に2つほどいいかな。ここに来た目的は?」
「詳しくは言えません。ただ、ここはもう不要になったから潰しに来ました。それだけは宣言しておきます」
「なるほど、では2つ目。休憩が終わったら、しばらく同行してもよいだろうか?」
レイヤーの質問と言うよりは提案に、ティタニアが面白そうに口を綻ばせた。
「変わった少年ですね。私が黒の魔術士だと察しがついていないわけでもないでしょうに。怖くはないのですか?」
「利害が一致していれば、貴女が背後から斬りかかるような人には見えない。それにさっきの剣技に感動したんだ。剣の能力ではなく、技能で斬った。それがすごいと思ったんだ」
「それがわかるだけでも大したものです。中には私の武器にだけ興味を示す人も多いというのに。あなたは強くなるためなら、敵の技術でも欲しいと?」
「貴女たちが敵かどうかわからない。それにアルフィリースの敵だとしても、僕の敵だとは限らない。敵や味方なんて、状況次第でいくらでも変わるのだから」
「・・・面白い少年ですね、気に入りました。二つ目の返事は気分と状況次第だと答えておきましょう。さあ、まずは一刻程眠らせてもらいます。その後は君の休息です。その間に少々考えるとしましょうか」
それだけ言い残すと、ティタニアはすぅと眠りに入った。この身の振り方の早さが、戦士として長く彼女が過ごしてきた証拠であるとレイヤーは悟った。だが今襲い掛かったとしても、踏み込んだ瞬間両断されるだろう。ティタニアの剣気とでもいうべき薄い殺気が、周囲に張り巡らされているのがわかるからだ。ティタニアは自分を認めつつも、敵として問題にしていない。そのことがレイヤーには腹立たしくもあり、また内心ではほっとしている部分もあった。
レイヤーはヴォルスを弔うと、座って手を布で縛りながら考えていた。ティタニアの目的、この場所が本当は何なのか。ティタニアは口にしなかったが、想像はできそうだった。
さきほどアノーマリーの魔王と言っていた。ならばここは、アノーマリーの拠点なのだろう。魔王製作者と言われているアノーマリーの拠点ならば、ここまでの展開も納得がいく。さしずめ、ここは壮大な魔王の実験場といったところか、などとレイヤーは自ら憶測を巡らせてみる。
一方で、不要な憶測や先入観は仕事の邪魔になるとも思うので、あれこれと思うのは半ば時間つぶしと可能性の一つだとして割り切ることとした。正確な情報はティタニアが話してくれればわかることだ。
レイヤーはそう考え直すと、まるで戦いとは無縁に見える美しいティタニアの寝顔を見ながら、しばしの休息を味わうこととした。レイヤーはこの時、確かに吸い込まれるようにティタニアの寝顔を見ることになった。それがどうしてかわかるのはもっと後のことだが、この時はティタニアが寝ている一刻ほどの間、他の幻獣がどうしているだとか、アルフィリースがどこまで接近しているかなどということは、忘れてしまっていたのだった。
続く
次回投稿は、4/2(木)11:00です。久しぶりに連日投稿行きましょう。別にエイプリルフールというわけでは・・・