表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
1044/2685

封印されしもの、その45~戦士の覚醒③~

「勝負あった。これ以上は無粋というものぞ、魔王。去ればよし、去らねば――」


 女は既に黄金の大剣を抜いていた。口調こそ穏やかだが、いつでも戦闘できる構えである。歩くたびに腰よりも長く、中ほどを赤いリボンでくくった黒髪が揺れていた。

 ディッガーは不快だった。自分以外の者は自分に怯えなければならない。彼が魔王になる前から、ずっと周囲はそうしてきた。図抜けて大きく成長したユキヒルであった自分を、どんな生き物も避けて通ったものだ。ただ一人、よく顔も思い出せない奴以外を除いては。

 だが目の前の女は怯えるどころか忠告をしてきた。まるで自分の方が上だとでもいいたげに。ディッガーはこの上なく不快で、我慢できなかった。他者の全ては自分の餌なのだという自負が、どうしても消えなかった。


「去らねばどうする? 言ってみろ、餌め!」


 ディッガーは返答も聞くことなく突撃を開始した。今までの中で最高の回転と突撃速度。ディッガーは頭が一つ潰されたことで、自らの能力が上がったことを感じていた。おそらく、危機に瀕する度に力が湧いてくるのだろう。ディッガーは漲る力に確信を得て、そして――


「・・・は?」


 頭から尾まで真っ二つにされ、今まで感じた力が体から抜けていくのを感じていた。ディッガーは自分を両断した女の顔を、半分に割れた頭で振り返った。女はまるで「こうなることはわかっていたのに」とでも言いたげに、小さくため息をついていたのだ。ディッガーは生まれて初めて屈辱を味わうのを感じたが、同時に感じた恐怖は人生二度目だったことを思い出す。

 それは自分を捕獲した、アノーマリーとかいう男のこと。何のためらいもなく自分の体を弄び、新たな力を与えるとともに忠実な下僕に仕立て上げ自由を奪った。笑顔で他者を切り刻む、生来の狂人。ディッガーは怒りと恐怖がないまぜになった感情が、崩壊する体と共に四散していくのを感じながら、今度こそ完全に消滅した。

 ディッガーを完全に消滅させたティタニアは、レイヤーを一瞥するとその手からヴォルスの牙をゆっくりと取り上げた。指を一つ一つ外すその仕草は、生まれたばかりの子どもをあやすようでもある。レイヤーは指からヴォルスの牙が離れて初めて、ティタニアによってそうされたことに気付いた。


「つっ」


 そして指が離れて初めて、レイヤーは握り込んだ手に痛みが戻ってくるのを知った。ティタニアは懐の小刀を抜くと、レイヤーの傷口に輝く刀身をぴたりと当てた。


「さきほどの幻獣といい君といい、見事な戦いぶりだった。ここにいる魔王はアノーマリーの特別性。世に放った魔王どもよりも遥に上の戦闘力を有する個体ばかりだ。さきほどの幻獣を失ったのは惜しかった」

「・・・ばかり? こんな奴が他にもいると?」

「その心配はほぼあるまい。アノーマリーがその昔ライフレスに貸し与えた10体のうち、先ほどので9体目だ。他の8体はもう処分している・・・新たに作られた個体がなければだがな。もういいだろう」


 ティタニアが小刀をしまうと、レイヤーは傷口がぴたりと塞がっていることに気付いた。特に魔術が発動した様子はなかったのに、解せぬ結果だ。驚くレイヤーにティタニアが告げた。


「戻し切りという。斬られたことを無機物にも意識させぬとでもいうのか。傷口に沿って軽く新たな傷を作り、戻る力を利用してくっつけさせただけだ。大したことはしていない。

 ただ接着面は弱いから、しばらくの間、布か何かで縛って固定しておくことだ」

「大したことはしていないって・・・」


 レイヤーは驚きを隠せない状態だったが、目の前の女剣士の技量が尋常ではないことも気付いていた。そしてその正体にも。


「貴女は黒の魔術士?」

「そうだ。そういう君は何者だ。ここの原住民とも違うようだし、アルフィリースの仲間か」

「ああ、レイヤーという」

「ふむ、剣士に向いた良い名だ。私はティタニアという」


 ティタニアは顔色一つ変えずに宣言したが、レイヤーは思わずごくりと唾を飲んだ。無学なレイヤーでも知っている、伝説の剣帝。リサやルナティカから実在する敵の名前だと聞かされてはいたが、まさか自分の目の前に現れるとは思わなかった。そして、その実力が申し分ないことは、先ほどディッガーを一刀両断したことでいやでもよくわかった。

 だが敵意は微塵も感じない。アルフィリースと黒の魔術士は一時的な停戦状態にあると聞いていたが、どう判断すべきかレイヤーはティタニアに直接問うた。



続く

次回投稿は、4/1(水)11:00です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ