大草原の妖精と巨獣達、その14~迫る脅威?~
「また話が大きいね・・・」
「そうですか? 私はちなみに神などいないと思っている人間ですが、万能ではなくともそれに近い生物がいたことには肯定的です。竜がどこから来たのかと考えると、竜より上位の生物がいたことには想像が及びますよ」
「そうすると卵が先か、ニワトリが先かっていう論議になりそうだけどね」
「もっともです」
「で、結局カザスは何が言いたいの・・・?」
アルフィリースが疑問をぶつける。どうやらアルフィリースもなんとか頭はついてきているようだ。
「その前にもう少し・・・この岩場に竜巻が来ないのはおかしいと思いませんか?」
「言われてみれば・・・」
「これも仮説ですが、竜巻そのものをこの遺跡の地下にある何かが発生させているのではないかと、僕は考えています」
「まさか」
「ですがそれならとりあえず納得がいく。竜巻は防御装置なのですよ、この北側だけ異常に強い魔獣も含めて。ファランクスはここに外界の生物が寄ってはまずいから、あえて住処にしているのではないですか?」
「最初は違ったが・・・ここの危険性には途中で気がついた。ワシはここに近づけない、と言うよりはこの中にいる物を外に出さない、といった方が主な目的だ。だが少なくともこの遺跡の存在が外部に出回ったら、人間達が大挙して押し寄せてくるだろうな。そうなれば大草原は戦火に包まれるだろうし、押し寄せた人間たちもただでは住むまい」
ファランクスが答える。なるほど、彼としては故郷であるこの大草原が戦火に包まれるなど、そんなことは考えたくもないだろう。
「そこで僕が考えたのは、現在では推論の域を出ないこの仮説も、皆さんなら解決できるかもしれないと考えたからです。特にアルフィリースは人語を解する竜に知り合いがいるようですし」
「それはそうだけど・・・」
「アンタは興味本位でこの大草原を危機にさらそうってのか?」
ミランダとエアリアルが険しい顔をする。だがカザスは全く動じない。
「いえ。私だって人間ですから、助けられたファランクスやエアリアルに恩があります。ですが私はそれ以上にこの世界を憂える人間です。竜以上の生物がいたとして、なぜ現在はいないのか? 滅びたとしたら、その理由は? 知らなければ同じ運命を人間も歩むのではないのか? そういった学術的な疑問に始まり、現実的な問題としてアルフィリースやミランダの言っていることが気にかかったのですよ」
「私達の?」
「魔王がこの世界に頻繁に出現するということです。直接の原因はあの廃都ゼアで出会った連中だとしても、彼らの目的やら存在やらの手掛かりの一端にならないかという可能性を追求しています」
「その可能性は・・・否定できないね。判断材料が少なすぎるってのもあるけど」
「はい。僕は正義漢ではありませんが、あの連中をそのままにしておいては危険極まりなくらいはわかりますよ。でも僕には剣を取って直接戦うことはできませんから、これは僕なりの戦いなんです。何か手掛かりがあるなら、1つでもいいからすがっていきたい」
「なるほど」
ミランダは納得した。最初はカザスをもっと利己的でいけすかない奴だと思っていたミランダだったが、旅を続けるうち彼にも少し変化があったのかもしれない。少しはカザスを見直してもいいかと思うミランダだった。
「で、話ってのはそれだけ?」
「ええ、それでこの後のことを相談したかったのです。私の人脈は主に学者連中ですから、お恥ずかしい話、自分の名声を高めることにしか興味のない連中、学問の大成にしか興味がない連中というのは多いのですよ。そのため信頼できる人物が非常に少ない・。そこでミランダ、フェンナには信頼できる人間の召集を。アルフィリースには竜とのつながりを紹介してほしくて」
「アタシの方は教主に相談してみないとな・・・でも多分オッケーが出ると思う」
「私も別にグウェンに相談するのはいいけど、いつになるやら。あの人結構気まぐれで、ふらっといなくなるから」
「グウェンドルフの方は出会ったらでいいのです。どちらにしても調査隊を選抜するだけで時間はかなりかかりますから。案外空に向かって叫んだらグウェンは来てくれるのではないですか?」
「金○雲じゃないんだから!」
「じゃあ太鼓で」
「フラ○ーでもないわよ!」
「じゃあ笛」
「竜巻で飛んだ先に土管はないわよ!?」
いつの間にか話は冗談に紛れていったが、この話が相当に重要な内容であったことは全員が認識していた。この話はいずれ解決しなければならない、グウェンドルフに聞いてみないとーーそう考えるアルフィリースだった。
***
場所は外――いまだに大草原には竜巻がひしめき合っている。あれほどアルフィリース達が苦戦した魔獣達も息をひそめ、ただ竜巻が通りすぎるのを待っているのみだ。さすがに竜巻にケンカを売るバカは・・・1匹、いや1人いるかもしれない。
その時ひゅるる~という、一際高い降下音と共に天から降ってくる黒い影。そして派手な音と共に影は地面に激突した。影は粉微塵になったかと思われたが、
「・・・いてぇよおおおぉぉぉおお!?」
という悶え苦しむ声と共に影はむくりと起き上がり、頭を押さえていた。
「誰だぁ? 俺を殴ったのは~!?」
この大地です。むしろ雲の上から落ちてきたら普通死んでいるのだが。竜巻に巻き上げられて落ちてくるとは、どこの魔法使いなのか。
「くっそおおおお、いてえええええ! 腹が減ったぁあああああ! ここはどこだあああああ!?」
話に全くまとまりがない。もちろんその声の主はドラグレオである。だがそんな彼の目の前に現れる巨大な影。
「グルルルルル」
「ゴフッ、ゴフッ」
巨大な顎に鋭い歯。腹が減っているのか涎をぼとぼとたらし、ドラグレオを取り囲みに入るギガノトサウルスの群れである。ドラグレオが落下したのは、なんと嵐の時期におけるギガノトサウルス達の避難場所であった。周囲を高い壁に阻まれた谷のような場所であり、逃げ場はない。
「あーん? 俺になんか文句でもあるのか?」
だが巨獣に囲まれたドラグレオに焦りはない。至って悠然と座ったままである。だがかなりギガノトサウルスの方は巣に押し入られて気が立っているのか、有無を言わさずドラグレオに噛みついていた。
そのまま上から押しつぶすように体重をかけ、ドラグレオを噛みちぎろうと左右に首を振りまわす。だがーー
「・・・何すんだ、このトカゲがぁあああ!」
噛みつかれたままのドラグレオが足を下顎にかけ、腕を上顎にかけフン! と力を入れると、鈍い音と共にギガノトサウルスの顎が外れた。
外れた顎にショックを受けたのか、涎を撒き散らしながらギガノトサウルスが暴れ始める。
「う、る、せぇぇぇぇぇぇぇ!」
咆哮と共にドラグレオが暴れるギガノトサウルスのどてっ腹に拳をお見舞いする。その衝撃に血を口から噴き出しながら壁に激突し、めり込むギガノトサウルス。
そのまま白目を剥いて昏倒し、ビクビクと嫌な痙攣をしていた。その様子を見て仲間をやられたと思った他のギガノトサウルスが興奮するが、数秒後には逃げ出すことになる。なぜならドラグレオが取った行動とは――
「ぬうううううぅりゃああああああ!」
バキバキッ!
谷に響き渡る何かが裂ける音。ドラグレオが気絶したギガノトサウルスの顎に手をかけ、そのまま引き裂いた音であった。凄まじい血しぶきに、谷がみるみる赤に染まっていく。
「ハーハハハハッハ!」
そして血の噴水を浴びるドラグレオの高笑いが響き渡る。
その光景を目の当たりにした他のギガノトサウルスは恐慌状態に陥り、逃げ惑って互いにぶつかるやら壁に激突するやらで無茶苦茶になっていた。
だがそのギガノトサウルスを見たドラグレオの感想は一言。
「・・・騒がしいぞコラァアアアアア!?」
ここに他の仲間がいれば「騒がしいのはお前だ」と確実に突っ込んだであろう。だが誰もドラグレオを止める者のいない谷では、人間による恐竜の凄惨な虐殺が行われ、みるみる内に谷は血の海と化していった。
――そして数時間後――
後にはギガノトサウルスの骨しか残らなかった。全てドラグレオが腹ごなしに食べたのである。どう考えても自分の体積の何倍も食べていることになる。
「よし、いい具合に腹も膨れたし行くとするか! ・・・で、どこにいきゃいいんだったかな?」
ドラグレオは腕を組み首をかしげる。そなまま待つこと数十分・・・何かを思いついたようで、ひょいと谷の上に飛んだ。谷の深さは50mはあったはずなのだが、実に簡単に上まで登るドラグレオは、野生の恐竜以上の身体能力を誇る。
上に出たドラグレオは大草原を見渡した。そしてその視界にとらえたのは・・・
「あの岩場・・・強い奴がいるな・・・」
ドラグレオが目を止めたのは、はるか先――100kmはゆうに離れているであろう岩場だった。彼の超人的な視力は何km先でも標的を逃さない。
もちろんその岩場には、アルフィリース達とファランクスがいる。
「よし、あそこに行くか! ふはははははは、腕が鳴るぜぇ!!」
勢いよく谷を飛び出したドラグレオだったが、その足がふと空中に舞う。
「む、な、なんじゃこらあぁぁぁ!?」
喜び勇む余り、傍から寄って来た竜巻が全く視界に入ってなかったようだ。そのまま徐々に竜巻によって天高く巻き上げられるドラグレオ。
「ぬうううううう! 何のこれしきいぃぃぃぃぃ!」
だが天災とは、腕力でどうにかなるものではない。
「くそおおおおぉぉぉぉぉ! おぼえてろおおおおぉぉぉぉぉ・・・」
徐々に絶叫もかき消され、遂には聞こえなくなった。そして誰も覚えてはいないだろう・・・後にはドラグレオが食い散らかした残骸が残るのみであった。
続く
次回投稿は12/27(月)12:00です。