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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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封印されしもの、その39~テトラポリシュカ⑪~

***


「げほっ、ぺっ、ぺっ。ピートの奴、何も雪の中に転移させなくてもいいだろうに」


 テトラポリシュカは大量の雪を吹き飛ばし、雪の中から出てきた。彼女が出てきた後は雪が解けて湯気を出している。転移の直後、息ができないことを悟ったテトラポリシュカは、反射的に魔力を体から放出して、周囲を吹き飛ばした。周囲が雪、そしてさして深くもなかったことは幸いしたが、これが地面の中だとか、さらに深い雪の下だった思うとぞっとする。


「あいつわざとかな・・・いや」


 テトラポリシュカはピートフロートの今までの人物像を思いだし、首を横に振った。


「そんな器用な奴じゃない、か。頭は回るが無計画で、悪意はないがより多くの周囲を巻き込む奴だからな。だからこそタチが悪い。まあ立場が違えば、私も同じことをするかもな。それにしてもここはどこだ?」


 テトラポリシュカはこの大地に詳しいわけではない。この大地に追い込まれ、氷原の魔女の保護を受けるようになってからは、この大地に住んでいた原住民達の生活を助け、魔獣から身を守る術を教え、最終的に彼らに守り神として崇められるようになった。もちろん不要な軋轢を生まないために、幻獣としてこの大地に住んでいた種族とは話し合いの場を持ち、大まかな棲み分けをするように協定を結んでいる。その過程で大地をいくらか移動したことはあるが、覚醒にも制限時間のある身分では、その行動範囲にも限界があった。

 また起きている時には夫と子どもと共にいる時間を大切にしたため、それ以外のことはテトラポリシュカにとってさほど重要ではない。ピートフロートが指摘したように、テトラポリシュカ自身自分の変化に驚いたのだ。自分と家族のこと以外には無頓着であったことを悔いたことはないが、この事態に対応する術をテトラポリシュカは持っていなかった。


「ふふ、実は精霊と交渉をしながら危険を避けていただけで、歩いていた方向はかなりあてずっぽうだと言ったら、みんなどんな顔をするかな? 適当にやっていてもウィクトリエが同行していたから、早々おかしなことにはならなかっただろうが。

 まあ精霊と交渉すれば行き先はわかるだろうが、ちと派手に魔力を放出しすぎたか。精霊が驚いて逃げてしまったな。しばし交渉どころではないか・・・もっとも、原因はそれだけではなさそうだが」


 テトラポリシュカがぎろりと吹雪の向こう側を睨む。彼女の視線に先には、明らかにテトラポリシュカに向けて敵意を放つ何者かがいた。テトラポリシュカは相手の姿を確かめてから行動を起こそうかと悠然と身構えていたが、突如として吹雪の方向が変わったかと思うと、唸りをあげてテトラポリシュカに猛然と吹雪が襲い掛かってきた。


「おおっと。不意打ちとは、私に対していい度胸だ」


 どこか楽しそうなテトラポリシュカの言葉。彼女は体勢を立て直すと、猛然と攻撃した主に向かって突撃した。あまり視界のきかない吹雪の中を突き抜けると、そこには予想してなかった敵がいたのである。


「氷竜だと?」


 敵の体躯は集落の建物よりも大きく、その輝きは氷よりも美しい。光を反射する透明かつ薄水色の鱗に覆われた生き物は、紛れもなく氷竜。この大地の覇者である氷竜が、テトラポリシュカの前に立ち塞がっていたのである。

 当然、テトラポリシュカの攻撃の手が止まった。幻獣を除き最も知性のある彼らが、なぜ自分を攻撃するのかわからないからである。それに氷竜は最も戦いたくない相手であったので、真っ先に和解を果たした相手でもあったからだ。


「よせ! 私は敵ではない。お前達とは何百年も前に話し合いが――」


 だがテトラポリシュカの叫びは氷竜のブレスによって中断された。暴風と氷弾を混ぜた彼らの吐息ブレスは、単なる防御魔術では防げない。物理的に彼らの攻撃を遮断するような防御魔術、しかも相当高度な魔術を使用しなければ防ぐことはできないのだ。テトラポリシュカもそのことをよく知っていたので、躱すことに専念している。

 そして躱しながらテトラポリシュカは氷竜の様子を観察した。目覚めた時に大地の様子が変わっているのはしばしばだが、それにしても異常事態である。加えて、うかつに氷竜を攻撃するわけにはいかなかった。真竜ほどではないが竜種はどれも知恵のある個体が多く、また氷竜はその誇り高さと集団意識では他の竜種には類を見ず、一度敵視した相手は一族の総力を挙げて攻撃を始めるのだ。たとえ間違いであったとしても、氷竜を攻撃するのは得策とはいえなかった。


「くそっ、話を聞け!」


 テトラポリシュカは元来気が長いとは言えない。我慢を続けるにも早々に限界の来たテトラポリシュカは、空気を圧縮して氷竜の頭に左右から叩きつけた。当然氷竜の鼓膜が破れるわけで、それで話を聞けとはなんとも無茶な要求だが、両耳から血を流しながら怯みもしない氷竜を見て、テトラポリシュカは異常を察した。


「おいおい、痛覚がないっていうのかい? いや、まさか本当に?」


 テトラポリシュカは徐々に攻撃の手を厳しくし、ついには拳で氷竜のどてっぱらを打ち抜いた。だが、それでも氷竜は怯まない。業を煮やしたテトラポリシュカは、ついにそれ以上の強引な手段に出た。



続く

次回投稿は、3/20(金)12:00です。

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