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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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封印されしもの、その29~テトラポリシュカ⑦~

「すまんな、別にお主の好意を無下にしたわけではない。ただ、裏切り裏切られというのは随分と経験した。今は心許せる者たちと静かに暮らせる、それが何よりの幸せなのだ。この生活が脅かされぬ限り、それ以上を望みはせぬ。私も年老いたのだろう」

「心残りはないの?」

「・・・そうだな、一つあるとすればクローゼスのことか。氷原の魔女を代々、私に縛り付けるつもりはなかったのだ。私は代償として過去の知識や魔術の使い方などを教えているが、あのクローゼスという魔女は今までの氷原の魔女とは少し違うようだ。今までの魔女たちはどこかこの氷原で暮らすことを当然のように受け入れている節があったが、彼女は違う。氷原に縛られるではなく、外の世界に興味があるように見える。私よりも早く、お主と出会ったせいかもな」

「そうなのかしら」

「自覚がないとはおぬしも罪だな、アルフィリースよ。だがこれも運命かもしれぬ。スウェードは私にクローゼスを引き合わせる前に死んでしまい、クローゼスは氷原の封印が解けたことを察知して私に自ら会いに来た。普通なら先代の者に連れられ、私が直にその資質を判断する。そのうえで氷原の魔女と相談し、我々のことを受け入れられぬようなら軽く暗示をかけることもあった」

「はっ、とんだ卑怯者ですね。その心中は察しますが」


 リサが吐き捨てるように言ったが、その口調は内容ほどには辛辣ではなかった。テトラポリシュカの立場を慮ってのことだろう。テトラポリシュカは苦笑する。


「嫌われても仕方あるまいが、私も手に入れた安息の地を守るために必死だったのだ。それに内心で違和感や不幸を感じながら氷原に縛られるよりも、多少のやり甲斐を感じてもらった方が互いに幸せというものだろう。代償として、私もあらん限りの技術や知識を提供してきたつもりだ。だから代々の氷原の魔女は、魔女の中でも指折りの実力者で、発言権も強かったはずだ」

「随分と身勝手な意見に聞こえるわね。発言権が強いからと幸せとは限らないわ。でもそんなことをわざわざ私に話すってことは、今の生活の形を変えようということかしら?」

「変えざるを得ない、と言った方が正しいな。封印が解けた理由が思ったよりも深刻だ。ウィクトリエに調べさせたところ、どうやら封印が解けたのは大地が死んだせいらしいな」

「大地が、死んだ?」


 アルフィリースの訝しげな表情に、テトラポリシュカの方が不思議そうな顔をする。


「なんだ、知らないのか? 私の時代でも度々見かけたが、今の世の中ではあまり発生しないのか、それとも巧妙に隠されているのか。時に、『虚ろなる者』の存在を聞いたことはないのか?」

「虚ろなる者ですって?」

「むしろ、三階建ての建物よりも巨大なやつとやり合ったことがあるのです」

「・・・待て、せいぜいユキオオカミの子どもくらい大きさではないのか?」

「いいえ、少なくともリサの言う通り巨大なの奴とは戦ったことがあるわ」


 アルフィリースとリサの言葉をうけて、テトラポリシュカが深刻な顔で考え込んだ。腕を組んで額にしわを寄せたその表情は、何かしら非常に困惑した様子でもある。


「・・・もしそのことが事実なら、思ったよりも深刻な事態になっているのかもしれない。グウェンドルフ、いや、ノーティスは何も動いていないのか?」

「ノーティス?」

「正式にはトリュフォンという銀白色の真竜だ。グウェンドルフよりも年長で、真竜たちのまとめ役のようなことをしていたが、これまたグウェンドルフに輪をかけたような変わり者で、族長にはならず度々人間の姿になっては世の中に溶け込んでいた。その知性は深淵に及ぶとも言われており、かつての五賢者でさえ・・・ああ、そうか。だからオーランゼブルは黒の魔術士を・・・」


 テトラポリシュカがぶつぶつと何か言い始めたのでアルフィリースは黙ってその独り言を聞いていたが、そこにピートフロートとイルマタルがやってきた。


「アルフィリース、少しいいかな? イルマタルの面倒を見るのに疲れてしまってさ。変わってくれるとありがたいんだけど」

「少し後にできないかしら、ピートフロート。今とても大切な話をしているの」

「それもわかっているんだけど、さすがに僕じゃあイルマタルの下の世話はできないよ」

「うっ、それは仕方ないわね・・・」

「ママ、おしっこ」

「やれやれ、イルは頭は良いのになかなか厠が独り立ちしませんね」


 アルフィリースがしょうがなくイルマタルを連れて離れると、ピートフロートは気配でリサにも離れるように訴えてきた。今までに感じたことのない静かで不気味な気配にリサははっとしたが、それが敵意ではなくただならぬことであることがわかったので、耳をそばだてることなく彼らをおいてその場を去った。

 残されたのはピートフロートとテトラポリシュカだが、テトラポリシュカはピートフロートを見て全ての目が丸く驚きに見開かれていた。


「・・・お前、ピートか!?」

「久しぶりだね、ポリカ。君が征伐されたことになって以来だ」


 互いに愛称で呼び合った二人は、反対の表情をしていた。驚きのテトラポリシュカに対し、ピートフロートは親しみ深い笑顔を浮かべていた。

 そしてピートフロートは姿を変化させ、人間大の大きさになったのである。



続く

次回投稿は2/28(土)13:00です。

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