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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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封印されしもの、その24~雪原の幻獣達①~

「召集に応えてくれて礼を言うぞ、ヴォルス、ヴィターラ」

「新参者に腹を据えかねているのは、どいつも同じってことだ。だがその人間はどういうわけだ? 見たところ、この土地の人間でもなさそうだが」

「・・・血の匂いがするな。それもお前たち、ユキオオカミの血の匂いだ」

「訳を話そう」


 オロロンはレイヤーを紹介した。彼がたった一人でユキオオカミの群れと渡り合い、そしてオロロンとも引き分けたこと。その話にヴォルスは目を丸くしたが、長い毛に覆われて目の見えぬヴィターラが何を考えているかはわからなかった。


「するってえと、外から来た人間たちが、あのテトラポリシュカに協力して奴らを討伐するのか? その人間は、氷原ではぐれてこっちに来たと」

「外から来た人間たちと、テトラポリシュカが協力するかどうかは不明だ。テトラポリシュカが動かない可能性もある。それにどのみちあの一帯は我らの棲家なのだ。戦うことは必要だった」

「・・・その人間を巻き込むことに後悔はないのか。我々の誇りを失うことにはならぬか」

「ならぬ。この少年は戦士だ。それも、人間よりも我々によほど近しい、な。それにこの少年にとっても利のある話なのだ。それでよいのだな、少年?」

「ああ、一晩考えて出した結論だからね。元々単独行動だし、一人を除いて僕がここにきていることを誰も知らない。ならば一度合流するより、このまま頼もしい連中と動いた方がよほど安全だ。それに、戦いは望むところでもある」


 レイヤーの言葉に、再度ヴォルスが目を丸くする。


「ははっ、なんとも好戦的な人間じゃねぇか。最近の外の人間はみんなそうなのか?」

「知らない。少なくとも僕は必要がなければ戦わない」

「・・・狩猟者の目をした少年よ、死に急ぐなかれ。元は我らの戦い。そなたは力を尽くせども、引き際も心得よ」

「もちろんだ。僕たちの団長は生きて戻ることを、常に仲間の傭兵たちに言い聞かせているからね。ただ、今度の相手は僕が一番よく知っているかもしれない。おそらく、因縁のある相手だ」

「・・・ならば期待させてもらおう」

「決まりだな」


 三種族の頭目は意見を一致させると、すぐにまとまって行動を開始した。総勢数百の獣たちの行進ならぬ、行軍となった。しかも誰も彼も殺気を隠そうともせず、時に吠えて存在を主張する。相手から出向くように挑発を繰り返して闊歩する。

 だがその日に限って敵は出現しなかった。もう三刻は歩き、短い日中の時間が過ぎてゆく。


「だいぶ奥深く来たのだが」

「この数にビビったか?」

「・・・違うね。一度進軍を停止させて」


 レイヤーの言葉をうけてオロロンが群れを止めた。続けてヴォルスとヴィターラも止める。


「どうした?」

「・・・敵に知性がある。あいつら、こっちを待ってたみたいだ。伏せ勢がいるぞ、半月状に囲まれている」

「・・・よくわかるじゃねぇか。指摘されるまで気づかなかったぜ。オロロンの旦那と引き分けたなんてのは話半分に聞いていたが、お前が獣よりも獣らしいのは認めてやるよ」

「それはどうも」

「来るか!」


 オロロンが吠えるのと、雪の下からヘカトンケイルの軍勢が出現するのは同時だった。敵の出現を見定めると、三つの群れはそれぞれ右、左、正面へと突撃を開始する。ぶつかり合った軍団はしばし互角の戦いを演じていたが、棲家を取り戻さんとする獣たちは勢いが違う。

 ヘカトンケイルにとって有利な点は、キバヒョウ、ユキオオカミともに全ての獣たちの牙や爪が簡単に通らないことだ。ヘカトンケイルの鎧は固く、特に優れた数頭の爪や牙がようやく通る程度である。またヤマゾウがその巨体にものを言わせて踏み潰しても、地面が雪では衝撃も吸収される。獣たちはヘカトンケイルを引き裂くのではなく、数頭でとりかかって捻じ切る戦いに切り替えたが、最も活躍していたのはレイヤーだった。

 レイヤーは既にヘカトンケイルと交戦した経験がある。正面からでは剣が通らないことを知っているレイヤーは、ヘカトンケイルの鎧の隙間を正確に刺し貫き、致命傷を与えていった。流れるような戦い方を見せるレイヤーは、単騎でヘカトンケイルの一画を崩して切り込む。


「やるじゃねぇか!」


 ヴォルスが遠目に感心していたが、レイヤーは一定数の敵を片付けると、戦いに高揚することなく一度引いた。そして同じく一度引いたヴィターラの頭上を借り、戦いの様子を俯瞰した。


「ここまでは圧倒的に優勢だね」

「そうだな」

「おかしいね」

「なぜそう思う?」

「この程度の敵に君たちがやられるとは思わない。不意を突かれたにしても、棲家を追われるほどに押し込まれるとは思えないんだ」

「その通りだ。今日は手ごたえがなさすぎる・・・背後か」

「・・・そうだね」


 レイヤーとヴィターラは、背後から接近する敵の気配を鋭く捉えていた。そのどれもがユキオオカミ並の早さで移動している。

 やがて敵の姿を見て取ったレイヤーは、素直に感心していた。ヘカトンケイルは、魔王たちの背に乗って雪原を高速で駆けてくるのだ。


「ああ、そうくるのか。前面に敵を引き付けておいて、大回りして背後から奇襲するんだね。まさか彼らに、騎馬戦術の発想があるなんてね」

「群れの意識は前面に向いている。これは効果的だな」


 ヴィターラの言葉と同時に、ヘカトンケイルの一体が角笛を吹いた。雪原に鳴り響く音に獣たちははっとして背後から接近する敵の姿に気付いたが、同時に正面からもさらに雪の下から増援が現れた。

 獣たちは完全に挟まれる格好になった。ヴィターラがその様子を見て唸った。


「・・・まずいな、完全に挟まれている」

「死を恐れない敵だからこそ有効な戦術だね。普通なら足止めを誰がするかで揉めるし、及び腰になるだろう。でも、彼らにはそれがない」

「一度引くか!?」


 オロロンがいつの間にか引き返してきて意見を出した。ヴォルスもいつの間にかその場にいる。だがレイヤーはしばし考えて首を横に振った。



続く

次回投稿は2/18(水)14:00です。

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