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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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封印されしもの、その23~テトラポリシュカ⑤~

「テトラポリシュカ、お前は弱かった。だから私は敵として倒したいほどに、お前に興味を持たなかった。だからこそお前は生き延び、大魔王として名を為した。まあ人の世界で活躍できるほどには、強かったということかしら」

「私が弱かったと? 多目天の中で最強と呼ばれた、この私が?」

「ええ。だって、お前に備わった最後の魔眼を結局制御できなかったものね。それが制御できていれば、あるいは私と対等に勝負ができたかもしれなかったけど。まあそれでも――そうね、私が当時『使っていた』個体には勝てなかったでしょうね」

「そう――かもしれません。私は弱かった。一族のために戦ったのに、結果として私以外の全てを死なせてしまった。そしてこのような辺境に逃れ、一人細々と暮らす始末となりました」

「それは私が最初に言ったはず。お前は抱えるものが多すぎて、結局は足をひっぱられることになるだろうと。持つことで強くなることもあるけども、抱える量を間違えると全て道連れに破滅すると教えたはず。お前は全てを救おうとして、全て失った。自業自得だとしか言いようがない」

「返す言葉もありません。あなたの言葉の意味がわかったのは、この土地にたどり着いてからだった。ですが、全てを失ってからまた得るものもありました」


 影はテトラポリシュカの表情を面白そうに見ていた。


「あのウィクトリエとかいう娘。それに一緒に氷漬けになっていた人間の男か。家族を得たか、お前のごとき愚か者が」

「その通りです。それに氷原の魔女という良き友人も。私には望外の喜びでした。もはや私には今の生活以上のことを望むようなことはありません」

「分相応だと?」

「その通り。今の生活を守ることが、何よりの望みです」

「それも一つの処世術か。そのために自らを封印し、その存在を気取られぬようにしたのか」

「はい、私と友人になった氷原の魔女の提案でもあります。私を追ってきた人間どもとの妥協点。私を封印し管理することで、他の魔女を納得させました。50年おきにこっそりと封印を解いて、数か月の活動を得ることまでは彼らに内緒でしたが。それに娘の存在も」

「ふん、使えぬ魔女どもだな。あの氷の封印式を見て、それほどのこともわからぬとは。あれでは封印主の意志次第でいつでも外せるだろうに。自分が扱う以外の精霊のことを知ろうともしないのは、魔女の悪い癖だ」

「・・・やはりアルフィリースの意識を通じて、外の様子を見ているのですね?」


 影の言葉を聞いてテトラポリシュカは渋い顔をした。


「あなたとアルフィリースの関係はなんなのです? そもそもあなたは一体何者ですか? 私はただの強い亜人だとでも思っていたのですが、あなたの言葉を聞く限りではそうは思えない。使っていた個体、と言いましたね? 一体あなたは――」

「それもまたお前には知る権利のないことだ。それとも力づくで聞き出してみるか?」


 影がエメラルドとイルマタルをぐいと前に出し、盾にするような仕草をした。テトラポリシュカはそれを見てぐっとこらえたように口を横に結んでいた。


「・・・そのつもりでしたが、無理でしょうね」

「このような姑息な手段をせずとも負ける気はせんがな。お前は封印から覚めたばかり。そして今使っているアルフィリースの肉体は、歴代でも最高の素質を秘めている。オーランゼブルが恐れるわけだ」

「オーランゼブル・・・あなたはオーランゼブルの協力者なのですか?」

「さてな? だが一つだけ答えてやろう、私はアルフィリースに憑依している。それはこの娘自身も知っていることだが、私は今までずっと同じことを繰り返してきたのだ。だからこそ戦闘に長けているし、何より私は戦うのが好きだがね。

 さて、疑問はまだあるだろうがそろそろ寝るがいいだろう。お前もまだ本調子ではないのだから。今回の戦い、一筋縄ではいくまいよ」

「やはり嫌な予感は当たりますか・・・私よりも、教官の予感は正確ですから。最後に一つだけ。あなたはアルフィリースの味方なのですか?」


 テトラポリシュカの問いに首を傾げた影であるが、


「それも答える義理ははない。だが、少なくとも死んでもらっては困るのは明らかだ」

「その答えで十分です。教官殿を敵に回すなどと、考えたくもありませんから」

「素直になったな。恋をしたせいか」

「――あなたが戯言を言うことこそ、信じられません。その娘の影響ですか?」

「そうかもな」


 影は小さく答えると、二度とテトラポリシュカと目を合わせることはなかった。テトラポリシュカもまた、影に話しかけるのをやめた。この会話は誰にも聞かれることなく、再び部屋は静かな薄闇に包まれていった。


***


「来たぞ、少年」

「あれがキバヒョウとヤマゾウの大将? なるほど、立派な獣だね」


 オロロンと共に行動しているレイヤーは、ユキオオカミの群れと共に遠征に出ていた。もちろん、彼らの棲家を取り戻すためである。

 だがオロロンはそれにとどまらず、他の種族の代表も呼び寄せていた。共に知恵を持つ獣、分類の上では幻獣に位置するであろうキバヒョウの頭目ヴォルスと、ヤマゾウの頭目ヴィターラである。

 オロロンと同じくらいの体躯をしたヴォルスは、凍てつく空気をさらに斬り裂くほど鋭い牙を備え、ゆっくりと歩いてきた。また反対側より、まるで小さな丘が動いているかのごとく地響きとともに悠然と歩いてきたのは、ヴィターラである。長い毛におおわれてその目は外からはうかがい知れないが、ただの鈍重な獣ではないのだろう。

 それぞれの頭目が歩みを止めると、まるで群れは鍛えられた軍隊のごとくその場で停止し、座して敵意のないことを示した。そして三方からオロロン、ヴォルス、ヴィターラがそれぞれ進み出ると、レイヤーもそれに続いたのである。



続く

次回投稿は、2/16(月)14:00です。

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