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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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封印されしもの、その20~テトラポリシュカ②~

「ふむ、仕方あるまい」


 と、テトラポリシュカの額の瞳が開くと同時に、炎の獣と闇の蛇は飼いならされたようにテトラポリシュカを攻撃するのをやめ、彼女にすり寄った。


「なによ、それ」

「『調教』の魔眼だとでもいうのですか」

「調教などとは人聞きの悪い、全く別の作用だよ。それより、もう終わりか?」

「いいえ、ここからです。私も参加させていただきましょう」


 名乗りを上げたのはなんとクローゼス。彼女は既に詠唱に入っており、テトラポリシュカに向けて魔術を放っていた。


氷槍フリージング・ランサー


 ダロンの腕ほどもある氷の槍がテトラポリシュカ目がけて放たれたが、テトラポリシュカの瞳に一つ睨まれると、それらも全て空中で動きを止めた。テトラポリシュカがつまらなさそうにため息をついた。


「クローゼスよ、そなたにしては単調だな。これでは避けるまでもない」

「ご心配なく、楽しませてみせましょう」


 クローゼスは続けて地面に手を突くと、先に仕込んでおいた魔術を発動させた。


氷壁アイス・ウォール


 通常なら防御に使う魔術。分厚い氷で敵の剣や魔術を防ぐためのもので、習熟するほどに厚さを増すものだが、クローゼスは逆の発想をした。つまり、氷壁を極限まで精巧に作り上げ、鏡のように仕立てたのである。しかも、テトラポリシュカの八方に同時に氷壁を展開する。

 突如として出現した氷壁に、テトラポリシュカは思わず目を瞑った。多様な魔術を睨むだけで行使できるのは魔眼の利点だが、同時に鏡で効果が反射するのは大きな欠点である。テトラポリシュカが視界を塞がれたのを見て、同時にルナティカが頭上から。ロゼッタが氷壁を突き破って突撃した。完璧な挟み撃ち。逃れるすべはない、必殺の間合い。


「うらあああ!」

「・・・!」


 ロゼッタは一撃を確信して大剣を振り下ろす。ルナティカも躊躇なく両手のマチェットを振るったが、一瞬感じた違和感を元に、投擲に切り替えていた。打撃に切り替えなかったのは、本能というべき行動だった。

 テトラポリシュカに振り下ろされた大剣はまるで岩に激突したように弾かれ、ロゼッタはたまらず衝撃を逃すように宙返りして退いた。剣を手放さなかったのは、いかなる時も武器を放しては生きていられないという彼女の経験による行為だった。それでも両手が痺れて、剣を取り落とさないようにするのが精一杯だった。

 一方でルナティカが放った短剣は、テトラポリシュカの胸に沈んで止まっていた。刺さるだけの力を失くしてぽとりと落ちたが、傷口は一切見えなかった。驚いたのはアルフィリースを覗く、その場にいた全員。ロゼッタに至っては、驚きと恐怖が混ざった怒声を発していた。


「なんだそりゃあ! テメェの体はどうなってやがる?」

「さて、どうなのだろうな?」

「魔眼よ。効果はわからないけど、右掌ね?」


 アルフィリースは冷静にテトラポリシュカがやったことを分析していた。テトラポリシュカが攻撃される直前、右掌を自分に向けたのを見逃さなかったのだ。一見無意味な行動に見えるが、効果は先ほどのとおりである。

 テトラポリシュカは悠然と、仁王立ちをしてアルフィリースたちに対峙した。右掌をアルフィリース達に向けると、掌にある目がぎろりと光った。


「ご名答。効果は見ての通りだ。私の魔眼はそれぞれ効果が違う。接近戦用の魔眼はこのくらいだが、他にもいくつか持っている。まあ今日はこれ以上使うつもりはないがな。多目天とはこういう種族なのだよ」

「なるほど、確かに恐ろしい種族ね。でも無敵ってわけじゃないでしょう?」

「それはそうだ。だがこの場にいる者たちの心を折るには十分な強さを備えているつもりだ。魔術は意味を持たず、打撃は通用しない。さて、どうやって私に攻撃するかな?」

「うーん、そうね。何通りか思いつくけど、一番わかりやすい方法で行こうかしら?」

「たとえば、こんな風に」


 テトラポリシュカはぎくっとして身を固めた。それはそうだ、アルフィリースの声が突如として後ろからも聞こえたのだから。幻術か何かの類かと頭では考えたが、息がかかりそうなほどのすぐ後ろから声が聞こえたのでは、さしものテトラポリシュカも緊張せざるをえない。そして、周囲の驚いた顔が目に入ると、テトラポリシュカは反射的に後ろを振り返ってしまった。

 そこには――



続く

次回投稿は連日です。2/10(火)14:00になります。

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